美味しい野菜づくりを通じて、障害のある人とごきげんな社会をつくる ~障害者が活躍するごきげんファーム 代表の伊藤文弥さんインタビュー~
茨城県つくば市に、障害のある人が活躍する農場「ごきげんファーム」があります。現地にお伺いして、代表の伊藤文弥さんにお話をお聞きしました。
伊藤文弥さんプロフィール
1988年生まれ。筑波大学在学中より前代表理事の五十嵐の下で議員インターンシップを行い、農業の問題、障害者雇用の問題を知る。農業法人みずほにて研修を実施。ホウレンソウ農家を中心に農業の専門知識を学ぶ。同時に障害者自立支援施設でも勤務し、障害者福祉についても実地で現状を学び、つくばアグリチャレンジを五十嵐とともに設立、副代表理事に就任。第一回いばらきドリームプランプレゼンテーション大賞受賞。2012年公益財団法人日本青年会議所主催の人間力大賞にてグランプリ受賞、2013年世界青年会議所主催の「世界の傑出した若者10人」選出。社会福祉士、精神保健福祉士、公認心理師、保育士。スクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーとしても活動している。
有機栽培のみずみずしく美味しい野菜
――畑を見せていただいていますが、たくさんあって、とっても広いですね。どんな野菜を栽培しているのですか。
いま栽培しているのは白菜、ブロッコリー、カリフラワー、カリフローレ、にんじん、芽キャベツ、まだまだたくさんあります。どれも有機栽培です。
この小松菜もそのまま食べられます。よかったらどうぞ。
――生で食べるととっても美味しいですね!つくられた農作物はどこで食べられますか。
地元つくば市を中心に多くの方々に定期購入していただいています。また東京、南青山のイタリアンで使っていただいています。
――南青山のイタリアンですか?
つくばで人気だったイタリアンのお店が南青山で出店されるときに「ごきげんファームの野菜を使いたい」と指名を受けました。このお店以外にも都内の20のレストランで使っていただいています。朝採れ野菜を毎週届けています。
きっかけはインターン
――伊藤さんがごきげんファームに関わったきっかけを教えてください。
小さなころから「将来は政治家になりたい」という夢を持っていました。筑波大学に通っていたころ、友人が持ってきた議員インターンシップのチラシを見て、「これだ」と思ってインターンに参加することにしました。
――そこで当時つくば市議だった五十嵐立青つくば市長のインターンをされたんですね。
2ヶ月のインターンでしたが、最初の1か月はとにかく辞めたかったです。学生で何もわからない自分に対して服装や振る舞い、声の出し方、全てにおいて注意をされ続けました。
――それでも辞めなかったのはなぜですか。。
注意してくれるのは「五十嵐さんが本気で私に向き合っているから」と気づいたからです。それからは一つ一つの注意を「ありがたい」と感じてインターンを続けました。
障害者就労支援への取り組み
――障害者就労支援に取り組まれた背景を教えてください。
インターンシップで様々なリサーチを手伝いました。このリサーチで待機児童問題などたくさんの社会課題を知りました。中でも自分事に思えたのが、障害者のことでした。
――障害者のことですか。
発達障害のことを学んだ時に、身近に思い当たる友人が数名いました。教室で皆と机に向かって学習をすることは難しくても、他に得意なことはたくさんあるんです。それでも当時は発達障害に対する理解が少なく不登校になったり苦労を重ねました。どんな障害のある人でも、その人の得意なことを活かして役割を持つことはできるはずです。例えば農作業なら問題なくできるかもしれない、そんな思いが募りました。
目指すのは「分断」をなくすこと
――その思いが「ごきげんファーム」につながるのですね。
はい。2011年に1.6ヘクタールの畑を借りて、障害のあるスタッフ8人とスタートしました。五十嵐さん代表、私が副代表という体制で始め、後に私が代表になりました。
――ごきげんファームはどんな施設ですか?
障害者福祉施設の中でも、就労機会の提供と能力向上のための訓練を行う「就労継続支援B型」の施設にあたります。
知的障害、精神障害、身体障害など多様な障害を持つ方が100名以上働いています。年齢は18歳から70歳くらいまで、また障害の程度もバラバラです。トラクターを運転できる人もいれば、車いすで介助が必要な人もいます。それぞれの「できること」を分担しながら働いてもらっています。
――運営を通じて目指していることはありますか。
就労する方々に工賃を高く払えば国からの報酬も多く受取ることができます。報酬を上げることを突き詰めるなら、高い工賃を支払える障害の程度が軽い人たちだけでやればよくなります。
しかし、私たちは「工賃を上げて報酬を上げること」を目指しません。それより「一緒に働く皆がごきげんになること」を目指しています。具体的には障害のある人と障害のない人が分断されている状態をなくしたいです。
――「分断」をなくすですか?
障害のある人が障害のない人たちの暮らしに入りこむことで分断をなくせるのではと考えました。その手段が「農業」です。
障害者がつくった農作物を地域の人たちに食べてもらうことで、障害のない人たちの暮らしに自然と入り込む。その結果、障害のある人が怖い存在として捉えられるような状況を変えたいと考えています。
「障害のある人たちと会って話す」とか「一緒に楽しい時間を過ごす」ことができれば変わるはずです。自然と一緒にいられる楽しい空間として農業は最適なんです。
――自然と一緒にいられる楽しい空間ですか。
近くの保育園の園児たちは、私たちの畑に収穫体験に来ます。
地元の方々に週末菜園として私たちの畑に来てもらうこともあります。
――手ごたえはありますか。
ゆっくりではありますが、手ごたえを感じています。
これまで、「障害のある人のためにどうあるべきか」を考えていました。しかし、実際に畑に来てくださる方々を見ていると、分断されている状態がなくなれば「障害者だけでなく障害のない健常者とってもプラス」だと気づきました。みんなが「ごきげん」になれるんです。
マネジメントの工夫
――運営していて大変なことはありますか。
障害のある人たちによるトラブルは日々たくさんあります。しかしトラブルはあって当たり前。むしろその時に支援するスタッフがどう対応するか、どう改善していくかが大事です。皆で前向きに解決できればよいのですが、時にはスタッフ同士が言い合う場面になることもあります。
――代表としてどのように対応していますか。
私たちが提供しているのはカタチのあるモノではなく、スタッフと障害者の方々との関わりの中でカタチづくられるサービスです。いい人間関係があって初めて、よいサービスを提供できます。スタッフが成長できるよう教育や研修に力を入れるようにしています。最近はスタッフ間の情報格差をなくそうと、私から社員向けに毎日情報発信をしています。
――どんな手段で情報発信しているのですか。
いまは音声配信アプリのstand.fmを使って発信しています。毎朝テーマを決めて5分とか10分くらいで社員向けに話しています。便利ですよ。
――それは障害者福祉施設に限らず、日本中の経営者が真似したくなるマネジメントですね!
ごきげんファームの応援の仕方
――お話をお聞きして、益々「ごきげんファームを応援したい」と思いました。どんな応援の仕方がありますか。
野菜を買って食べてください!
オンラインショップでは、旬の有機野菜8品と、ケージ外ではなく平飼いでストレスなく育てられた鶏の卵のはいった「ごきげん野菜セット」を買うことができます。
まずはお試しで。気に入っていただけたら定期購入もできます。
取材後記
今回ご紹介した「有機で丁寧に育てられた美味しい野菜づくり」だけでなく、「平飼いストレスなく育てている鶏卵づくり」や、「農場で働く障害者の方々が生活するグループホーム」など幅広く事業を展開されてるごきげんファームさん。取材をする私たちも「ごきげん」になれる瞬間がたくさんありました。
伊藤さんのお言葉に甘えて園児たちと一緒に収穫させていただいたにんじんは、大きく立派でとても瑞々しく美味しかったです。
「ごきげん野菜セット」だけでなく、他にも応援の機会を増やせないか、私たちPublic Mindとしても企画を考えたいと思います。
伊藤さん、お忙しいところ取材へのご対応ありがとうございました。
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