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針のこと

先日、東京インターナショナル・ギフトショー2022春という展示会で「町工場プロダクツ」にご出展されていたウィーブハリサの米戸潤さんとお話をさせていただいたことで、針に興味が湧きました。そこで針について考えてみました。

ウィーブハリサ ホームページより

針、と一言で言っても実にさまざまな針があります。裁縫用の針、医療用の針、釣り針、鍼灸用の針(鍼)、時計の針、レコード針、もっとたくさんあります。私たちの生活にはなくてはならない製品です。

統計データが見つけられなかったのですが、おそらく針全般で言えば市場は拡大しているのではないかと推察しています。世界的に見れば衣料品製造は成長しており、衣料品の裁縫には針が必要です。医療用の注射針も大変な市場拡大を見せています動物用の給餌針といった新しい需要も増えているようです。さらに、半導体製品の導通試験ではプローブ針と呼ばれる針が使われています

針の歴史は人類の歴史に近く、旧石器時代には既に骨で造られた針があったということです。(Wikipediaより)毛皮を縫って寒さをしのぐために使われていたと想定されているそうです。日本でも古事記に針のことが記載されているそうです。非常に歴史のある製品だということができます。

「なら記紀・万葉プロジェクト」ホームページより

中国や日本では、医療用の注射針というものが出るずっと前から、鍼灸用に針(正確には鍼と表記)をつかってきました。これも歴史が古く、数千年前から中国では鍼治療が行われ、日本でも奈良時代の記録にあるそうです。(東京都鍼灸師会HP

針を作る地域は日本各地にあり、特に有名なのは広島針です。手縫い針の生産量国内シェア9割が広島だそうです。また、全生産量の73%が海外に輸出されているのだそうです。(Wikipediaより

広島市ホームページ「ザ・広島ブランド」より

一方で、「針供養」という行事が日本全国的に行われています。裁縫に使う針を供養することで感謝するという意味と、裁縫の技術が向上するのように願うという意味もあるとされています。この風習は9世紀から行われていると言われており、これも非常に歴史のある風習です。(Wikipediaより

浅草寺 ホームページより

成城大学の論文によれば、製鉄の神様は一眼一足という伝承があり、まさに針の形が製鉄の神様と同じ、なのだそうです。針を供養する、ということは、製鉄の神様に感謝する、ということなのかもしれません。

この、「人間ではないものに魂が宿る」と考える考え方は、世界的にあるものだといわれていますが、山や大きな岩といったものだけではなく、日常生活で使われるものに対して魂が宿ると考えられている国は世界的に見ても多くなく、日本独特な考え方のようです。(日経ビジネスによる米ハーバード大学のジェームス・ロブソン教授のインタビューより)日本では針だけではなく、箸供養人形供養ハサミ供養刃物供養靴供養などという供養もあります。このような「もの」に魂が宿る、という考え方は八百万の神と言われ、古来から日本人が大切にしている価値観でもあります。

日本のものづくりを語る際に、よく「細部に魂が宿る」などとも表現され、日本人は品質に高いこだわりがあると言われることがありますが、そもそも作るものに対して魂が宿ると考える私たちは、品質にこだわりを持つのはある意味当然なのかもしれません。

過剰品質、コストの高いものづくり、海外にものづくりが奪われると言われようとも、日本のものづくりが品質を重視するのは、このような歴史の賜物なのかもしれません。

針のお話からものづくりのお話になってしまいました。


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