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PUBLICWARE:公共空間の「余白」の使い方

公共空間を気軽に使いこなすためのアイテムが並んでいる「PUBLICWARE(パブリックウェア)」というプラットフォームがある。この開発に携わったデザイナー兼ディレクターの大橋一隆氏、INN THE PARKの三箇山泰氏、公共R不動産の菊地純平氏に、PUBLICWAREのコンセプトや背景についてお話を伺った。
公共空間を使いこなすためにハードとソフトをどのように融合させるのか?デザイナーの役割はどう変わるのか?個人と公共をつなぐためのネットワークとは?など、論点はどんどん広がり、「あたらしい公共」を考えるヒントに満ちたインタビューとなった。

Interviewees: 大橋一隆、三箇山泰、菊地純平
Place: 株式会社オープン・エー | Open A

ハードウェアもソフトウェアも含めての「ウェア」

小橋:僕と小山田は、公共の在り方の研究と実践を、サービスデザインという手段を用いてやってきました。この活動、PUBLIC DESIGN LAB. のウェブサイトをあらたに作ったのですが、我々がやっていることを見つめ直しながら「あたらしい公共」の可能性をテーマにしています。
我々としては、行政、民間、教育機関、地域コミュニティなどに分散しているネットワークの資産を機能させていくことが、今後の公共の担い手になり得ると考えていて、みなさんが手がけている「PUBLICWARE」の活動がそういうものにかなり近いんじゃないかというイメージを持って、本日は伺いました。早速ですが、PUBLICWAREのコンセプトや考え方をお聞きしても良いですか?

大橋:「公共R不動産」をやっていると、もったいない公共空間がめちゃくちゃいっぱいあることがわかってきたんですね。ただ、そこで事業をしようとすると行政との面倒な手続きやコストがかかることなど、結構なハードルがあることもわかります。とはいえ最近、そういう場所で屋台を出したり、マルシェをやったりとポップアップイベントが行われていて、それに対しても自治体がすごく寛容になってるというのを見聞きしてきました。現状の制約のなかでも上手く使い倒す術みたいなものを、みんなだんだんわかってきていると感じていて、それをもっと加速するためには何があればいいんだろうかと考えたのがきっかけです。
面白いパブリックファニチャーが作れたり、公共の場所をハックするようなアイデアを持つ人達が僕の身の回りに多いということもあったので、まずは公共空間を使い倒すためのツールを揃えてみようと。要はそういう場所を使いたい人がいるんだけれども、そのままではどう使っていいのかのイメージが持てない、わからない、ただそこに利用目的を想起させるようなファニチャーがあれば、それを利用するようになるかもしれない。それを見せることでみんながもっと気軽に場所づくりに参加できるんじゃないかというモヤモヤした発想の中から考えていきました。
その時に、パブリックを作るためのツールみたいな言葉はないかというところでPUBLICWAREというのを思いついて。 まぁ、僕らは建築・空間デザインの人間なので、最初はハードウェア的な発想だけだったんですけど、その運用をどうするのかというのもやっぱり大事で。マルシェなんかのイベントを上手に開催するオーガナイザーがいれば、何もなくても場ができるというのもあり、場を運用するソフトウェア的なところも考え方に加えて、ハードウェアもソフトウェアも含めての「ウェア」、パブリックを活用するための術とかツールとか、あらゆるものをくくってみようとして、PUBLICWAREというものを考えたというところでしょうか。

菊地:PUBLICWAREの企画は、大橋さんからバンと「絵」で出てきましたよね。最初の緊急事態宣言の後くらいですかね?

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大橋:ずっと企画はあったんですけど忙しくて手がつけられず、緊急事態宣言で少し時間ができて、企画イメージとしてあの絵を描いたという……コロナ禍がなかったら描いてなかったかもしれないですね。
考えだすといろんなアイデアが出てきて、あの絵には屋台や仮設カフェがあったりと、スケールに関係なく一旦イメージを集めて風景を描いてみました。いくつかのものを組み合わせることでどんどん素敵な場、風景になってくるということを、こういうことをやりたい人に伝えておきたかったので。

菊地:このインパクトのある絵が出てきた時に、僕は個人個人が公共空間を使ったり、作り出したりすることができるツールだなという印象を持ちました。最近では、公共空間に対して民間事業者がマネジメントの役割を担うといった例も増えましたが、マネジメントが必要な空間は膨大にあるので、すべての場所をそうするわけにはいきません。そこを個人が主体となって自由に遊べるというか、使い倒せるものにするっていうのはすごく大事だなと感じていて、一般化して広がっていくとすごく面白いんじゃないかと。

夜の公園に集まる仕掛けをつくる

大橋:僕らが手がけている「INN THE PARK」では、年に数回のフェスやイベントが行われていて、めちゃくちゃ良い風景ができてきたんですが、年に数回だとやっぱり残りの三百何日はもったいない公園になってしまい、もうちょっと日常的に気軽に何かできるような仕掛けがあると、人が集まることにつながるんじゃないかと思っていたんですね。
自分ごととして、この公園を使い倒す術を開発していけば、この公園がもっといきて、なおかつそこでちゃんと経済が生まれるというところまでいくのではないかと。実験できる場所を持っているというのが僕らの強みだったりするので、思いついたことはいろいろやってみながら、うまくいったらいろんな公園への展開も考えます。
今年のチャレンジの一つとして「公園の花火屋さん」というのをやりました。クリエイティブディレクターの佐藤夏生さんにPUBLICWAREで何か一緒にできないかという相談をした時に、アイデアをもらって一緒に企画した事例になります。公園は、昼間は人がたくさんいて賑やかなんですけど、日が暮れたら皆帰っちゃう。でも、夜の公園って、もったいないスペースだなと。そこをうまく活用できるアイデアとして、花火屋さん的なことをやってみることにしました。
花火って色々な場所で勝手に行われて、その度に煙や音、ゴミとかの問題になったりしていますが、今回自分たちで花火屋さんを行うにあたってゴミの始末、片付けとかサービスオペレーションを含めて考えていきました。
この花火屋さんをメインコンテンツに「夕涼み祭り」と題したささやかなお祭りを去年の8月は毎晩やってました。最初の頃はパラパラという感じだったんですけど、口コミでどんどん人が増えて、最後のほうは結構な人が自然に集まってきていい風景になりましたね。コロナ禍の影響で花火を見れないということがあって、貴重性が高かったというのもあるんですけど、子供が自分で好きな花火を目の前で選んですぐできるというのが好評だったようです。

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小橋:都市部だとどこで花火やっていいかわからないですよね。田舎だったら田んぼの脇とかでやったりするんですけど。

小山田:実際公園の花火は禁止されていますからね。「打ち上げ花火」はやめてくださいと、少し曖昧に。近所の公園で、ちっちゃい花火はやったりするんですけど、何だか悪いことしてる感じが否めない……。

大橋:東京では、ちゃんと場所を確保して、この日に花火屋さんがきて花火できます、とできればビジネスにもなると思うんですよね。そういう意味では、今回の取り組みでは次の展開を模索できる結果が得られたのではないかと思っています。

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(左から大橋氏、菊地氏)

テンポラリーが都市の風景をつくる

大橋:僕らが所属する「Open A」のメンバーが編著で関わった『テンポラリーアーキテクチャー』という昨年12月に刊行された本があるのですが、仮設的・即興的な建築の仕組みによって都市の風景を作り出す実例を紹介していて、PUBLICWAREのことも載っています。
コロナ禍みたいな不確実なことが起こり得るときに、20世紀型の大規模なガチっとした計画ではなく、暫定的に場所を作るというのは時代にもあってるし、今後はテンポラリーな空間ができて、都度柔軟に形を変えていくというのが、都市の在り方なんじゃないか、ということを代表の馬場正尊が本書で語っています。

菊地:PUBLICWAREは、最初に大橋さんが絵を描いて、名前をつけて、ティーザーサイトをリリースしましたが、ツールなのかコンテンツなのか、ハードなのかソフトなのか、まだ決めなくていい、やっていくうちに決めればいいっていうスタンスがありました。
アイテムを選定していく時にいろいろなものが集まって、「これなら確かにPUBLICWAREだね」というように、だんだん載せるものが集まったら、今のコンセプトができてきたようなアプローチだったと思います。

小橋:なるほど。発想自体もテンポラリーだ。

三箇山:コンセプト作っている時に、アウトドアグッズとの差別化は、何か考えたんでしたっけ?

大橋:外で使うツールというと、キャンプ用品という発想になると思いますが、キャンプ用品って工業製品としての軽量化、コンパクト化のベクトルが強いんですよね。でも、仮設で使うものは、そこまで軽くも小さくなくても良くて。そのかわりもうちょっとリビングに近いようなアウトドアのファニチャーやツールの在り方を考えました。

小橋:アウトドアで使うような家具を、家の中やベランダで使う人も増えていて、今までのアウトドア=キャンプの道具をもっていく場所みたいな感じではなく、想定用途と場所の境界があいまいになってきていますよね。

小山田:パブリックである外と内を反転させてみるという建築上の議論があるんですが、例えばビルの中がオフィススペースで、外がパブリックであるという概念を壊してみたらどうだろうかという感じで。屋内空間にPUBLICWAREを入れてみる話もあるのかもしれませんね。

大橋:それはありますね。建物は占有部と共用部に分かれていて、共用部はパブリックになり得るので。そういう意味で、屋上、通路、地下駐車場などをPUBLICWAREを使ってパブリックに開いていくと、ビルはもっと面白くなると思います。

小橋:仕掛けがあることでアクティビティが生まれ、そこから空間が立ち上がる。行政財産=公共空間という考え方ではなく、アクティビティが生まれるところに公共空間が立ち上がる。そういう意味で、PUBLICWAREは言葉としてもすごくよくできてますね。「ウェア」ってすごくいい。それを使う側の人に使い方がゆだねられているみたいなところがあって。
今まで公共空間と言うと、用途が限定的で、静的な印象になっちゃうんだけど、PUBLICWAREは、使う人次第でインタラクティブで動的なものに変わる。空間的なソリューションに限らず我々がやっているような活動にも通じるところがあると思いながら聞いてました。

三箇山:さっきの小山田さんの話につながるけど、パブリックとオフィスの持っている社会課題は似ているんじゃないかなと思っていて、要はワークをする場所、単一の何かをする場所というより、もうちょっとインタラクティブな活動を生む場所、コミュニケーションを醸成する場所としての在り方に変わり始めている。コミュニケーションの核となるようなツールの在り方が、オフィスにしてもパブリックにしても必要とされてますよね。

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(三箇山氏)

小橋:オフィスって工場をモデルにして作られていて、いかに効率的に量産するかが大事だったのですが、そこからむしろコミュニケーション、知的生産に、主軸が変わってきていて、そうするとツールとしても空間としても在り方が変わってきますよね。

「余白」としての公共空間

小橋:にわとりたまごじゃないですけど、使う人のリテラシー、使いこなし力みたいなものが上がらないと、使いこなせないわけじゃないですか。そういう意味で、最近公共空間に興味を持つ民間プレーヤーが増えてきた、リテラシーが高いプレーヤーが増えてきたのはなんででしょうか?

菊地:公園に関していえば、2017年に都市公園法が改正されて、公募設置管理制度(Park-PFI)が導入されたことは影響があると思います。行政が負担する維持管理費が財政を圧迫して、民間が使える「関わりしろ」をもっと出すような動きが後押しとしてあるのかなっていう気がします。

三箇山:はっきり言うと人口減少、税収低下ですね。

菊地:これまでの社会実験の指標は、期間内にどれだけ人が来たかという、数値的な指標が基本でしたが、先進的な事例ではクティビティの多様さや、来場者属性の多様さが指標として組み込まれています。そういう動きがもっと増えてくれば、PUBLICWAREもそれに合う使い方がされるような気はします。

小橋:質的な評価に移ってきているという話ですか。それすごいな。そんな自治体があるんですか。

菊地:豊田市の「あそべるとよたプロジェクト」では、2015年から駅前のペデストリアンデッキや広場などの公共空間で、「プレイスメイキング」という手法のもと社会実験が複数回行われていますが、そこではアクティビティの多様さが積極的に指標として取り入れられていた(注1)というのがあります。 

注1:公共R不動産|公共R不動産のプロジェクトスタディ「愛知県豊田市で実践された『プレイスメイキング』実例から読み解く10のフェーズ(後編)」で詳しく紹介している

三箇山:生活が多様化していて、新しく必要になったり、抜け落ちちゃっている機能みたいなものをインストールしようとする時に、どうしても建物内でやろうとすると用途地域とか法的な縛りがキツくて……、その代替場所となったのが公共空間だったのかと思います。

小橋:逆に用途地域的な見方をすれば、屋外公共空間は用途が決まってなくて、使い方の汎用性、受け皿が広い場所として残っているという見方もできますね。そういう「余白」としての機能が公共空間の本来あるべき姿で、その機能をちゃんと使ってあげる市民側、使う側の意識と公共側の委ねる意識がちゃんとマッチしたところに、その価値ある余白、公共空間が生まれるんだろうと思います。

菊地:法制度は整備されてきていますが、最終的には自治体の条例で制限されてしまうケースもあります。公園緑地課の担当の方たちからお話を伺うと、何をやってもクレームばかり、褒められることはないと。使いたい市民と行政とのコミュニケーションが個々に深まってくると、それももうちょっと変わるかもしれないですね。

先にメッセージを投げかける馬場DNA

小橋:いろんな人たちが作る側にまわりはじめるようなことが起こっているときの自分の役割とか立ち位置とかってどういう捉え方をしているんですか?

大橋:PUBLICWAREは「toolbox」をモデルにしているんです。もともと東京R不動産の物件の話から、設計事務所としてリノベーション設計の仕事をしていったものの、丸々全部の設計までお願いしてくる人というのは限られていて、むしろ数百万円でちょっとだけこれを変えたい人のニーズがすごくあった。その時に、全部ガチッとデザインしてあげるんじゃなくて、これをやっとけば間違いないよっていうツールとか素材みたいなのをセレクトして、この中から選べば失敗しないよっていう世界観を作ったのがtoolboxなんです。
PUBLICWAREは、それの公共版。この中で選んでセットアップすればそれなりの風景になります。でも、 PUBLICWAREの中で色々作りたいという思いはありますよ(笑)。

小山田:デザインをすることと同時にOpen Aってメディアとしての立ち位置みたいなところをすごく大事にされていますよね?

大橋:Open Aのビジネスモデル、そんなに偉そうなもんじゃないですけど、まずやることはメッセージを作ること。代表の馬場がそういうやり方で、メッセージを発信することによって仕事がくるという成功体験があったので、僕らもそれを引き継いでますね。そこから「屋台を作って欲しい」とか仕事につながれば、デザイナーとしてはそこで満足。だけど、そのメッセージが普遍性をもってプラットフォーム的なものにまで大きくなっていってくれたらもっとうれしいです。

小山田:ものづくりが好きな人は、逆に閉じちゃう人も多いじゃないですか。一人で黙々と作る形で、でもそこであえて一回転して作るのを楽しむためにオープンにしてから自分に戻すっていうのはすごい発想ですね。

大橋:最近はようやく大人になってちゃんコミュニケーションできるようになったけど、基本的に人が苦手で、ものを介してコミュニケーションのきっかけをつくるみたいなことで生きてきたので、多分それをずっとやってるんだと思います。

小橋:ものづくりのモチベーションがめっちゃ高い大橋さんがこれやってるっていうのは面白いですね。クラフトマンシップの向こう側にある、行き着いた先というか。

三箇山:カッコよく纏まりましたね。踊ることしかできないから踊りでコミュニケーションをとる人みたいな。
プロダクトやサービス開発で閉じるっていう話ではなくて、そういう時に僕らがやっぱり馬場DNAとして特殊なのが、メディアを作ってメッセージをポンと投げるんですよね、そのあとからプロダクトやサービスとかを紐付けていく。

小橋:ムーブメントを作るというのが先にあって、その中の一部としてものだったりメディアが相対的に出てくるというやりかたはすごいですよね。

三箇山:ソリューションは単一ではないじゃないですか。このチームでやってると、建築でソリューションつくらなきゃいけないとか、そういう形では一切ないので。その中の選択肢はなんでもいいんだけど、最初にあるのはメッセージです。たぶんそのやり方はDNAとして受け継いでるような気がしますね。

小橋:デザインの役割は問題解決と意味形成と言われるんですが、みなさんのやり方は、まさに意味形成なんですよね。リノベーションもPUBLICWAREも、最初にこういう意味の捉え方あるよねというのをボンと投げて、後からそれを実現するためのソリューションがついてくるみたいなやり方で。

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個人と公共をつなぐ「胴元」の役割

菊地:先ほど話に出た『テンポラリー アーキテクチャー』の掲載事例で、「Meanwhile Croydon」というプロジェクトを紹介しています。ロンドンのクロイドン区で、再開発予定地を暫定利用できる仕組みを構築した行政サービスがあります。ウェブサイトから利用可能な場所のマップを閲覧でき、申請までできます。民間プレイヤーの投資やアクションを呼び込んでいて、情報もオープンになっています。

大橋:INN THE PARKでは、沼津市との協定が作られていたので、いろいろやりやすかったんですね。行政との関係性が築けていたから、こんなにいろいろチャレンジできたのだと思う。

小橋:その協定はどういうものだったんですか? 申請しなくても自由につかっていいよみたいなものですか?

三箇山:自由とは言わないんですけど、土日に関しては年間の半分まで公園の芝生広場を占有使用していいという許可をしてもらっていたんです。その協定ありきからスタートすると、やっぱ楽なんですよね。すぐに実績を作れて信用が増えていくので。行政は信用がないと動かない、どう信用を作るかというのが、公共空間で何かをさせてもらう上ですごく大事なことなんです。

小山田:信用を貯めていって、次にやりたいことはなんですか?

三箇山:個人的にですけど、都心の小さな街区公園100ヵ所借りたいです。割と人通りも悪くない場所にある、街区公園を借り上げて、コーヒースタンドとか小さなお店になるような屋台置いて、低賃料で貸し出したい。今だったら貸してくれる気がするんですよね。

小橋:胴元ですよね。胴元がいたらある程度責任とってくれるみたいな。

三箇山:そうそう。胴元が信用を担保して、個人でも公共空間でお店を持つことができる。

小橋:恵比寿の「amu」の近くに角地があって、ビル建てているんですけど、着工までの一年くらい、コンテナ置いてコーヒーショップにしてたんですよ、たぶんそういう試みはいっぱいあるんですよね。ネットワークとして、そういう点在するものを資産として集めて、ある程度フレキシブルに使えるような管理の仕方を行政ももちろんするべきなんだけど、それができなかったら中間的な胴元がそういうところをネットワーキングして、使いたい人とマッチングしていくのはすごく現代的だと思います。

三箇山:事業者が公共空間に興味を持つ理由のひとつは、安いってところなんですね。実際INN THE PARKは賃借料月で5万円。僕らの価値観からするとすごく安いんです。東京でワンルーム借りるより安い。でも、信用を作るのはものすごくハードルが高く設定されている。その裏側に行ければ……というところがあって、公共空間をより民間の力を使って活性化するためには、その壁を一緒に乗り越えるようなサービスも必要なんでしょうね。

小橋:やっぱり胴元だなあ。そういう意味では位置付け的に個人でもなく、完全なパブリックでもなく、コモン領域にいる人だと思うんですよね。そういう存在がいるとどちらも動きやすくなるっていうのが構造としてはあるんでしょうね。

三箇山:それすごい大事だと思う。公共R不動産のブレイクスルーはそれだと思ってて。
例えばさっき話していた小さな街区公園って、それなりに管理コストが毎月かかっていて、自治体からしたらお荷物なんですよね。目を離すとすぐに環境が荒れてしまったりするし。でも、見方を変えると街の中にある小さな公園って、人通りもあるし、環境もいい。そこで賃料を払ってお店やりたい人いると思うんです。ということは、元々管理コストがかかっていたものが、賃料もらえたりするってこと。当然、お店が始まれば公園を利用してもらいたい人が集まるし、環境もきれいに保たれる。

小山田:いい話だなあ。街区公園が金太郎飴化していったらすごいディストピアだなって思っていたから。

小橋:公共空間の「余白」をどう使い倒すか、使ってもらう仕掛けをどう作るのか。公共空間の余白を使うためには、いろんな「信用」がいるので、その信用を担保してくれる「胴元」的役割が今後大事になるかもという話になりましたね。今後そういうプロジェクトで我々もご一緒できたらと思います。本日はお忙しいところありがとうございました。

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取材後記

今回の取材を通して、PUBLICWAREのコンセプトもさることながら、公共空間を軽やかに使い倒そうという動きが世の中全体で生まれつつあるという空気を感じ取れたことも驚きだった。馬場さん率いるOpen Aは、こうした機運を敏感に先読みし、ムーブメントに変えていくのが本当にうまいなぁと、毎回感心するばかりだが、その仕掛け人である大橋さんの根源的なモチベーションが素朴なものづくりにあるというギャップも興味深い。大橋さんは、建築、プロダクト、グラフィックなどあらゆるものがつくれる超絶マルチデザイナーで、僕から見ると「ものをつくってないと死んじゃう人」なのだが、自分がつくりたいものをつくるためにまずはムーブメントをつくる、という一見遠回りにも思えるやり方に、Open AのDNAが表れている気がした。
後半で三箇山さんの話に出てきた「胴元」というキーワードも個人的には印象的で、思えば、「胴元」のような公と私の中間に立ったマージナルな存在が、近代においてどんどん解体され、分断された結果として、共同体のアクティビティが消失し、公共空間が無味乾燥でリジッドなものになってしまったのだと考えると、意外と奥が深い。PUBLICWAREの活動は、現代の「胴元」として、解体されたネットワークをつなぎ直し、まちにヒューマンスケールのアクティビティを取り戻すことであり、まさに「コモンの再生」そのものだと感じた。(小橋)

12月2日、ひたすらにリモートワークが続くなか、久しぶりに電車を乗り継いで日本橋のOpen Aのオフィスに伺った。久しぶりの外出だというのにとても寒く小雨まで降っている。
今回のPUBLICWAREの取材では、非常に変化の速い社会のなかで、柔軟に新しい価値を生み出すための可能性を「風景」という言葉から感じた。ぼくはふだん、それをユーザー体験と呼んでいる。どちらも人々によい体験をしてもらい、何らかの価値を享受してもらいたいという目的は同じだろう。ただそこに「風景」という言葉をあてたときには、場所や人々が一体となっている居心地の良さのようなものが内包されている気がした。とても気持ちのいい言葉だと思った。
容易に解決できない課題があふれる現在では、いかに個別のニーズや課題に対して柔軟に小さな変化の活動を生み出せているのかがカギになる。PUBLIC DESIGN LAB.もそんな自立分散型で課題を解決するための仕組みを生み出す力になれればと考えている。数年以前から、HCD-Net(人間中心設計、Human Centered Design)の推進組織で、公共インフラ(とくに土木関係)へのユーザー中心思考の導入について有志メンバーで勉強会を開催している。街の風景を考えるときには大きなところでは、河川といった非常に巨大なものを何十年もかけて整備していくこともある。そのような時間軸の活動はもちろんとても重要だが、普段の生活の中ではどうしても見えにくくなるし変化の速い現代社会ではもっと細かい仮設的な対応が求められる。そうしたとき、PUBLICWAREは小さな変革を数多く起こしていくための重要なピースだと感じた。
そのピースを社会に当てはめるためには、ぼくたち一人ひとりがこんな風景を見たい、というビジョンを持つことがとても大事なのだろう。今回の取材で、三箇山さんと久しぶりに直接お会いした。三箇山さんとは公共R不動産の立ち上げに縁あって一時期参画させていただいた際に知り合った。三箇山さんと話していると「ああ、いまビジョンを見ているんだなぁ」と感じることが多い。今回の取材でもそうだった。じっと人の話に耳を傾けて自分の頭のなかで(きっと)何かイメージを描いている。機が熟すとそのビジョンをもとにすらすらと詳細なストーリーを語ってくれる。インタビュー記事からもわかるようにOpen Aはとても有機的でさまざまな人が刺激しあう、ちょっとほかにはない面白い環境だ。三箇山さんは建築から始まって横道に逸れて、でもまたギャンブルが強いという謎の理由で馬場さんに呼ばれて建築に戻った、と言うが、実はビジョンのデザイナーなのではないかなぁと思う。そして、馬場さんはそれを見抜いていたのでは……。
オフィスを後にしたときには来た時よりも雨が強まっていた。けど、嫌な気持ちはしない。ぼくの頭のなかにもまだはっきりとは見えないけれど、新しい風景の可能性が宿った気がした。目の前に広がる街が新しい公共の実験場に思えた。(小山田)


PUBLIC DESIGN LAB. :https://pub-lab.jp/

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