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【白4企画】《『桃太郎』を募集してみよう》に参加短編を応募します。

白鉛筆さんの企画に参加です。

〈募集要項〉
■内容  :『桃太郎』のストーリーに沿った自作の小説(詳細は後述)
■字数制限:なし
■募集日 :2024年8月24日(土)(厳守)
■その他 :『 #白4企画応募 』をつけてご投稿ください。


『あの夏、僕達が叫んだ言葉』

作:PJ 4000文字

【モンキー】
西暦2024年。
僕達は現実と虚構のその両方に命を授かっていた。
そんな世界に生み出され、早16年。
もちろん僕もその中を生きる一人だ。

SNSの世界は醜かった。
強者を引き下ろし、他者を平気で傷つけ、自己顕示欲と攻撃の言葉にあふれていた。
誰もがネットでの優越感を求め、むさぼるように言葉を発していた。
拡散されるSNSの投稿言葉の裏に、人の強欲さが透けて見えた。
動画投稿サイトのコメント欄はとくに醜かった。薄汚いコメントと言語の暴力が溢れていた。
人は人を平気で傷つけ、他者にマウントを取り、自らの利益のために平気で人をだましていた。
僕の中で嫌悪感は日に日に大きくなり、それはやがて大きな怒りへと変わっていた。


そこにたどりついたのは偶然だった。
そのページを開くと、真っ黒な画面に、白色刻書かれた文字が見えた。

現実と虚構のはざまに生きるものよ。
あなたは守護者であり破壊者だ。
世界から『言葉の暴力』を排除したい者はここに集え

『鬼ヶ島』

『鬼ヶ島』
そんな名前の付いたプライベートチャットへのリンク。
そのメンバー募集には『言葉の暴力に怒りを持つ、日本の高校2年生の仲間を3名求める。報酬はキビ団子』と書かれていた。
参加する際には本名と現住所・所属する学校と顔写真を開示する必要があった。そこには怪しさしかなかった。誰もそんなリスクのある選択はしないだろう。
そうであったにもかかわらず、僕は探していた何かに出会ったような不思議な気持ちになり、気がついたときには、そのプライベートチャットに参加していた。

高校2年の春。
そのプライベートチャットに集まったのは、
主催である東東京の工業高校に通う『ピーチマン』
都内の進学校特進クラスの『ドッグ』
横浜の女子高生『フェザント(雉)』
そして、埼玉の僕『モンキー』。
そこで呼び合う名前は、昔話の『桃太郎』に関連するように与えられた。
本名も学校も顔も住所も全部知っていたが、僕達はお互いをその名で呼び合った。

僕は家にいるときも休み時間も、ほとんどの時間を『鬼ヶ島』の中ですごした。
僕達はまるで生き別れた兄弟のように、お互いのことを共有し合った。

『フェザント』は中学の頃、SNSを使ったひどいいじめにあっていた。
高校に入るとき、金髪にしタトゥーを入れ、誰も寄せ付けないようにしたと言った。
『ドッグ』は一時期中学生インフルエンサーとして話題になった人だった。
その名前は僕でも知っていた。
彼は言われのない誹謗中傷からの炎上にあい、SNSをすべてクローズしていた。
『ピーチマン』は親友だった幼馴染をいじめによって亡くしていた。
ピーチマンはそのSNSのグループにいて、幼馴染がどのように攻撃されているかを知りながら、何もできなかったことを悔やんでいた。
幼馴染はSNSに遺言とも呼べる呪いの言葉を書き込んでいたが、それはグループのメンバーによって無かったことにされた。
彼らは『ピーチマン』スマホを奪い、その履歴を消去していた。

『ピーチマン』は「人間の存在も歴史もすべてが醜い。善人に見える人も、心の底にはどす黒い魔物を抱えている。それはDNAに刻まれたものだ。僕たちは皆、『鬼』の遺伝子を受け継いだ化け物だ」と言った。
「人は『鬼』の末裔であり、いつか滅びるべきだ」彼は口癖のようにそう繰り返した。

僕は皆のように、何か被害を受けたわけではなかったが、それでもSNSにばらまかれる悪意を許せなかった。
その気持ちはみんな同じだった。

『鬼ヶ島』の中心にあったのは、悲しみと怒りだった。僕達はSNSに書き込まれる暴力的な言葉をどうしても許すことができなかった。
SNSは、世界中に張り巡らされた数十億人が作り上げる強大な存在だ。
それでも僕達は、その巨大な化け物に立ち向かうにはどうすればいいかを必死に議論した。

いつの間にか数カ月が過ぎ、僕たちは夏休みを迎えていた。
僕達は8月1日に行動を起こすことに決めていた。

『ピーチマン』は決行の前日、『ドッグ』のすべてのSNSのクローズを解かせ、こう書き書き込むように依頼した。
『我々は鬼退治を実行する。しかし誰も傷つけない。何も失わない』

作戦決行の朝。
僕達はウェブミーティングで顔を合わせた。
『ドッグ』は「絶対に死ぬなよ」と真剣な顔で言い、『フェザント』は「当たり前じゃない」と優しい笑顔を作った。
『ピーチマン』は「みんなにきび団子を渡すのを忘れてたよ」と言って、ひきつったように口角を上げた。
僕の番が来たけど、何も思いつかなくて「そろそろ行こうか」としか言えなかった。

自分の学校の屋上に待機し、10:00ちょうどになったのを確認してから、僕は自分の自治体と学校にメッセージを送った
「親愛なる鬼達よ。今、A高校の屋上にいけにえを置いた。君達はそのいけにえの最後をその目に焼き付けるのだ」

僕達の作戦はこうだった。
まず、自分の学校の屋上に入れる方法を見つける。
僕と『ピーチマン』の学校は屋上の鍵が開いていたので、夏休みに入るのを待ってドアノブを付け替え自分だけが入れるようにした。
『ドッグ』は屋上にボールが入ったと学校に言い鍵を借りて、その間に合いカギを作った。
『フェザント』も問題なく入れたようだが、その方法は教えてくれなかった。
作戦当日の10:00、自治体と学校に犯行声明を出し屋上に籠城する。人が集まりだしたら、僕達の『言葉』を世界に投げつける。
僕たちは一つだけ約束をした。
『絶対に死んではいけない』。

僕が犯行声明を送ると、30分もしないうちにパトカーが来て、周りの家の人や部活で学校に来ていた人達が集まりだした。


【フェザント(キジ)】
10:30
横浜の中心部にあるこの学校の校庭には人がたくさん集まっていた。
薄曇りで太陽は柔らかく、風の気持ちいい日だった。
制服に身を包んだのは、この学校の生徒であると一目でわかってもらうためだ。
警察がハンドスピーカーからやかましい声が聞こえていた。後ろでは屋上のドアがドンドンと音を立てていた。
「バカなことはやめなさい、すぐに開けるんだ」と、安っぽいドラマみたいな言葉が聞こえた。
目を閉じて太陽の方向を見ると目の前が赤くなった。
真っ赤な血液が体の中を走り抜けている。
私たちが退治したいのは『鬼』だ。その血が私の中にも流れていた。
吹き抜ける風がスカートを揺らしていた。その中には新しい命のための血がにじみ出ている。見上げる『鬼』達からそれが見えていると思うと、なんだか少し笑えた。
何もない空間に向かって私はネットで買った小型のハンドスピーカーを構えた。
私の言いたいことは一つだけだった。


【ドッグ】
電車が人身事故のせいで遅れた。既に三人が屋上に籠城していることを、俺は自分のすべてのSNSを活用し拡散した。その拡散は驚くほど速く広まっていった。
学校についた時は10:30になっていた。
部活だけではなく補習や自習に来ているたくさんの生徒が学内にいた。
俺はその隙間を抜けて屋上に向かった。
俺がドアを開けようとしたその時、警報が鳴り響いた。俺は逃げようとしたが、それよりも先に複数の教師がやってきた。俺は暴れることなく教師に従った。
俺には屋上は必要なかったのかもしれない。手のひらの中のSNSに『その言葉』を書き込んだ。


【ピーチマン】
10:00に自治体と学校にメッセージを送信した後、僕のライブ中継のアドレスを『ドッグ』に拡散してもらった。
僕は誰も開けることのできない鍵のかかった屋上で、「鬼のいけにえは四人。A高校、B高校、C高校、D高校の屋上からキミたちにメッセージを送る。僕たちの願いは人々の心の中にいる鬼を退治することだ」とカメラに向かって何度も繰り返した訴えた。
『ドッグ』の拡散の成果もあり、僕達のことはあっという間にネットニュースに上がり、僕のライブ中継の視聴者のもぐんぐんと増えていった。
僕達の言葉は世界に届くのだろうか?
ドアを叩きつける音と「ここを開けなさい!」という叫び声が聞こえる中。僕は持ってきたカメラスタンドにスマホを固定させ、屋上のフェンスを乗り越えた。
屋上から地上を見つめ、それからBluetoothマイクに向かって世界へ向けて言葉を投げかけると、空に向かってダイブした。


【モンキー】
ぼんやりと集まる人を眺めていた。沢山の人がスマホを取り出して僕を撮影していた。
屋上から見下ろす人々は小さくて、とても弱い生き物に見えた。
さっき「ドアを開けたら、その瞬間飛ぶ」と言ったせいか、トビラ越しに説得の言葉が続いていた。
説得の向こう側から聞こえるその言葉に僕は気が付いた。
「…1人飛び降りたらしいぞ…B高校だ…」
B高校は『ピーチマン』の学校だった。
僕は驚いて、ドアの向こうに「飛び降りは本当なのか!」と叫んだ。
ドアの向こうでは、相談するように聞き取ることのできない小声が続いた後、「いや、そんなことはない」という返事が聞こえ「とりあえずここを開けなさい、話はそこからだ」と返ってきた。
その言葉を聞き、僕は屋上の端まで一気に走り、そして4人で考えた『その言葉』を大声で叫んだ。

決行の3日後、僕たちは『ピーチマン』の家に集まっていた。
『ピーチマン』は左足の骨を折ったが、それ以外は大丈夫なようだった。
B高校は校舎のすぐ横にプールがあった。『ピーチマン』はプールに向けて飛び込むことを僕達には秘密にしていた。
彼の学校は4階建て。足を折っただけで済んだことは奇跡のような出来事だった。
僕たちは本気で怒った。
死んでいてもおかしくなかった。
そんな僕達を前にしながら『ピーチマン』は、「ごめん。でもここまでしないと僕達の小さな言葉は届かないと思っていたんだ」と言った。
それから「今日はお詫びにキビ団子をたっぷり用意したんだ」と言って笑った。
『フェザント』が「バカ!」と言って、泣きながら『ピーチマン』に抱きついた。
その隣では『ドッグ』が目を真っ赤にしていた。


僕達は警察からは注意を受け、両親にはたっぷりと叱られた。
日本のテレビでは『4人の高校二年生が同時に飛び降り自殺未遂』として全国に報道されたが、詳しい内容は出なかった。海外メディアは僕達の画像や肉声を伝えていた。世界中のSNSはそれを引用し拡散した。
ネットでは僕達の実名や写真が出回っていた。
外部解放した『鬼ヶ島』の掲示板には、賛同の声が多く寄せられ、ユーチューバーからのコラボの依頼が数多く寄せられた。

僕達の夏の行動には『テロリストの鬼退治』と名が付き、国を動かそうとしていた。
SNSを満たしている誹謗中傷を罰則付きで取り締まる法案が、国会議論され始めた。

僕は世の中から少しでも悲しみが消えることを祈った。
『ピーチマン』は「僕達の遺伝子の中にある『鬼』を撃退するにはもっとたくさんの仲間が必要だ」と言った。
僕達の鬼退治はまだまだ続きそうだった。

《了》


#白4企画応募


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