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『riraさん』旬杯リレー小説【転】〜夏の記憶〜

起ストーリー【B】/PJ 約100文字

風が吹き抜け、太陽が肌にじりじりと照り付ける。
今年は猛暑になるらしい。
海に行きたいと思った。
輝く海と、その水平線に浮かぶ白く大きな入道雲。
夏がやってくる。
生涯忘れることのない夏が。

 『riraさんバトン』旬杯リレー小説【転】〜夏の記憶〜 PJ


 今でも入道雲を見るとあの夏を思い出す。
 キミとソーダアイスを食べながら歩いたあの夏だ。
 俺は、その日初めて自分の中にある気持ちが『恋心』なのだと知った。
 その日から、キミの姿を目で追うようになった。
 でも、みんなと一緒にいる時は、逆に距離を置いて歩くようになった。
 もう10年の前の話。

 俺は今も海の近くに住んでいた。その海あの頃とは別の海だった。故郷から遠く離れた都会の海。マンションの窓から眺める入道雲。
 建築デザインの仕事で独立した俺は、打ち合わせ以外はほとんどマンションにいた。1LDK。気楽な独り暮らしだ。
 部屋は少し高かったけど、海が見える場所を選んだ。仕事場は海の見える場所にしたかった。
 仕事のスケジュールとカレンダーを張った壁にあるコルクボードには、あの頃みんなで撮った写真がピンで直接貼られていた。
 日差しを受けずいぶんと色あせていたが、あの頃の楽しかった記憶は鮮明に残っていた。
 そして、そのボードの隅には、実家から転送されてきたはがきが張ってあった。

 吉田に聞いたところ、キミも来るらしかった。
 吉田は親友と言えるくらい仲が良かったので、俺がキミのことを好きだったことも知っていた。キミのことを聞いてみるといろいろ情報をくれた。
 キミは吉田の店に、中学の頃から仲の良かった木村葵と川辺莉子と一緒に、よく飲みに来るそうだった。
 地元のデパートの化粧品コーナーで働いていること。結婚はしていなく、彼氏もいないこと。そしてあの頃、俺に恋心を抱いていたことまで教えてくれた。
 ついでにと言って、三人が仲良く酔っ払っている写真まで送ってくれた。
 そこにはあの頃と変わらない笑顔があった。

 俺は窓の向こうの入道雲に手を伸ばした。
 今度こそはあのソフトクリームを掴もう。そしてキミと一緒に食べよう。
 7月の刺すような日差しを受けながら、俺はまだまだ暑くなるこの夏に想いを馳せた。

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