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飯田有抄のショパコン日記42〜審査員ヤノシュ・オレイニチャクさんインタビュー

ポーランドが誇るピアニストであり、コンクールの審査員であるヤノシュ・オレイニチャクさん。日本でのリサイタルでは各地で熱狂的な感動を巻き起こしておられます。私も2018年11月の日本ツアーでは2公演を拝聴し、号泣ものの感動をいただきました。

さて、そんなオレイニチャクさん、連日の審査でお疲れの中、快くピティナの取材に応えてくださいました。

(このインタビューが行われたのは、ファイナルラウンド開始直前のタイミングにあたるため、審査の具体的な内容やコンテスタントの個人名があがるようなお話は一切うかがっておりません。また、審査員へのインタビューはコンクール主催者である国立ショパン研究所の許可を得ています。なおここで伺っているお話は、オレイニチャクさんのお考えであり、審査員の総意ではありません。)

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——私は今回初めてショパンコンクールを全体的に拝聴しているのですが、一つの理想的な「ショパンらしさ」をもとめてコンテスタントたちが演奏するのかと思っていたら、あまりにも多様な解釈・演奏が多いことにおどろきました。現代における「ショパンらしい演奏」について、どのようにお考えですか?

オレイニチャク:まさに、さまざまなピアニストたちが世界中から参加して、それぞれの個性を発揮できるところが、ショパンの音楽の魅力的なところです。私は多様な解釈の演奏を歓迎しています。7月の予備予選の前に、エントリーされた600人以上の動画を一ヶ月以上かけて審査してきましたが、それぞれの「ショパンらしさ」を追求していることが本当に素晴らしいと思いました。
1次予選の段階で、本来なら80名のところを87名が選ばれたのは、コロナの影響などで、きっとワルシャワの会場まで来れないコンテスタントたちも出てきてしまうのではないか、という理由もありました。しかし驚いたことに、この困難な状況下でも来られなくなったコンテスタントはいませんでした。それだけみなさんの熱意があるということですね。

ファイナルへと進んできたコンテスタントたちの演奏が、まったくそれぞれに違った個性をもっていることが嬉しくて、とても素晴らしいことです。それこそがショパンです。今のところ、上位3人を予想することがまったくできませんね。

日本の参加者たちは、とてもいい演奏を聴かせてくれています。マズルカやポロネーズといった、民族舞踊的な要素をもった音楽には、やはり特有の語法はあります。しかし、それが反映できていないからといって、良い演奏ではない、ということではありません。一人一人にパーソナリティもありますし、それぞれの繊細さや力強い表現がありますから。

ショパンの音楽には、聴く者の心に直接働きかける力があります。それこそがとても大切で、あまり頭で考えすぎてしまうことは、私はよくないことだと思っています。

———かつてコンクールは、まだ無名の若いピアニストが世に出るための大きなチャンスを獲得する、というステージでした。昨今では、すでにコンサートピアニストとして国内外でのキャリアがあったり、有名で人気のあるアーティストも参加しています。ご自身もアーティストであるオレイニチャクさんからみて、すでに名のあるコンテスタントたちの挑戦はどう捉えていますか?

オレイニチャク:今もアメリカなどでは、コンクールが世に出るためには非常に重要な意味をもっています。ショパン国際コンクールは、他のコンクールで優勝経験のある人も多く参加しますから、このコンクールで優勝することは、全てのドアが開いていくほどの大きな意味があります。すでに活躍しているピアニストも、このコンクールで優勝すれば、本人の意志によってさらに大きくキャリアが変わることでしょう。
今回は経験者と並んで、まだ非常に若い人もファイナルへと進んでいますね。

———このショパン国際コンクールは、国立ショパン研究所が主催し、大きなスケールで行われています。コンクールがポーランドの独立の象徴であるという捉え方もされ続けてきました。現代において、このコンクールの意義をどのように考えていますか?

このコンクールは、今もポーランド国家と国民にとって、大切な象徴的なイベントです。コンクール期間中は、タクシーの運転手さんでも、ファイナルで誰がよかったかなどと議論できる国民的行事なのです。ポーランド人にとって、とても大事な存在であることに変わりはありません。また今回は、コロナのパンデミック以降、初めて客席にフルに聴衆を入れて開催している国際コンクールです。その意味でも重要な回になっていますね。

———日本では会場に来れなかった多くのショパンコンクールファンたちが、今はオンラインで見ています。全体のアクセスの45%が日本からである、ということが公式で発表されましたね。本当は多くの日本人が実際に会場に来たかったと思います(コロナが発生する以前、会場チケットの半数が日本人によって購入されていたことが、2019年の記者発表でお話がありました)。ショパンが日本とポーランドの友好の象徴ともなっていると感じます。

オレイニチャク:ショパンにとって、ポーランド以外のもうひとつの祖国が日本であると言ってもいいほど、日本のみなさんに愛されていますね。


———ところで、オンラインでは世界中の誰もがリアルタイムでコンクールを見ていて、すぐにSNSで感想を言い合える時代でもあります。多くの聴衆のさまざまな思いが発信される中、審査員としての決断を下すことの重さはどう感じていらっしゃいますか?

オレイニチャク:私はあまりインターネットを見ないから、そうしたコメントはフォローしてないので、とくに問題は感じていません。他の人たちの感想など、ときどき耳に入ってしまうことはありますが、なるべく遮断したいと思っています。とにかく今年は大変にレベルが高いので、結論を出すのは本当に大変です。

しかしそれだけ私はみなさんの演奏を聴くのが本当に楽しくて、別世界に連れて行ってもらっているようです。ずっと聴いていたいですね。あと1週間くらい、コンクールが延長してもいいな、と思います(笑)。

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オレイニチャクさん、素敵なお話をありがとうございました!

(写真:飯田有抄/ピティナ、通訳:マルタ・カルシ)


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