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飯田有抄のショパコン日記22〜音楽における「解釈」とは? ホジャイノフさんとキムさん

すでに日本でもおなじみのピアニスト、ニコライ・ホジャイノフ Nikolay Khozyainovさんの2次予選のステージは、とてもフックが多すぎて、どこからお伝えしたらよいものか。

まずはプログラムが目をひきましたね。

ポロネーズ第6番 変イ長調 Op.53 「英雄」
ワルツ第9番 変イ長調 Op.69-1
ワルツ第4番 ヘ長調 Op.34-3
バラード第2番 ヘ長調 Op.38
フーガ イ短調 (遺作)
マズルカ ホ短調 Op.41-1
マズルカ ヘ短調 Op.68-4
舟歌 嬰ヘ長調 Op.60

いっぱい弾く!!
え、フーガ? フーガってバッハなくて、ショパンの? あるの? はい、あるんです。1842年の作品で、死後50年近くたってから出版されています。

今回のホジャイノフさんの演奏は、冒頭の「英雄ポロネーズ」から、驚かれた方もいたのでは? たぶん、多くの人が聴き慣れている感じのものとは違って、ホジャイノフさんがさまざまな新しい音楽的アイディアを盛り込んでいたのがわかりますね。テンポ感であったり、音の勢いのあり方であったり。おそらくご自分で、楽譜を見ながら再構築を試みたのでしょう。その解釈をコンクールにぶつけてくるところがさすがです。

かの「フーガ」を選ばれたところは、とても気になりますよね。何か必ず意味があって選曲したのだと思います。曲目を多くするなかで、後半の二つの短調のマズルカ、とりわけ、最晩年のへ短調のあの一種異様なあの世界観へとつなぐために、一見ショパンの時間軸をズラすような「フーガ」を配置したかったのでしょうか。真意はわかりませんが。

ともかく、ホジャイノフさんの提示したショパンの世界に、発見があった!と思う人も多いことでしょう。

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下の1枚は、マルタさんが本日のインタビュー時に見せてくれた笑顔♪♪ 

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そんなホジャイノフさんの、ある意味で対極を行く(?)奏者が次に現れました!韓国のスー・ヨン・キム Su Yeon Kim さんです。

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バラード第3番が開始したのその瞬間から息を飲みました。

あまりに美しい!!!

「美しい」なんていう言葉では追いつけないんですけど、美しい!
綺麗な音色、丁寧な音色を出す奏者なんて、このコンクールではほぼ全員です。でも、キムさんは何が違うか。

極めて「オーソドックスな」演奏といってよいのだと思います。奇を衒ったことは、な〜〜〜〜に一つやっていない。
なのに、それが徹頭徹尾、追求されつくしていくと、ショパンの世界がサーっと眼前に広がるような、突き抜けていくような感覚を与えてくれるのです。まるで今まさに誕生したメロディーであり、ハーモニーであり、リズムであるかのにように。
大切なのは、それがとても自然であるということ。

「ああ、一緒に呼吸ができる」

スー・ヨン・キムさんの演奏を聴いていて、私はそんなふうに思えたのです。音楽において自然な呼吸って、本当に大切だな、と。

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ホジャイノフさんとキムさんの演奏を続けて聴くことで、音楽の「解釈」の可能性というものに思いを馳せました。コンクールという大舞台で、どんなふうに自分の音楽を提示していくかは、いろいろな方法があるのだと思います。まちがいなく言えるのは、全員が自分の最良のもの、最大の解釈可能性を提示してきているということ。どういったアプローチであれ、突き抜けたものは大きな魅力を放ちます。どんなスタンスが素敵と思えるか。それは聴衆であるわたしたち一人一人にゆだねられるものですが、ここはコンクール。審査の先生方がどんなふうに聴いておられるか、やはり気になりますね♪

※記事の速報性を上げるため、写真は1次予選のときのものです。
写真:©Wojciech Grzedzinski/ Darek Golik (NIFC)
ホジャイノフさん取材写真:マルタ・カルシ/ピティナ

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