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十年ひと昔、韓国のピアノ高等教育事情~ショパンコンクール予備予選7日目夜の部まもなく

なんと7人中5人が日本からのコンテスタントだった午前の部。これだけ知っている方ばかりだと、楽しみでもあり、心臓に悪い時間でもあります。

さて、7日目夜の部も、日本の小野田有紗さんからスタートです。そこから一転、ウクライナ、ドイツ、ポーランド、韓国、中国と、国際色豊かな7日目午後になりそうです。


◆7/18(日)午後の部 ※日本時間で表記しています
24:00 小野田有紗さん
24:30 Anfisa Bobylova (ウクライナ)
25:00 Anke Pan (ドイツ)
25:30 Eryk Parchanski (ポーランド)
休憩
26:30 Jinhyung Park (韓国)
27:00 Yeonmin Park (韓国)
27:30 Jiana Peng (中国)

配信はこちらから


夜の部トップバッターで0時(日本時間)から出演する、小野田有紗さんは、早くからアメリカ、そしてイギリスに留学し、国際的な勉強と活躍を続けています。前回2015年のショパンコンクールでも、予備予選を通過し、本大会でも1次予選を通過して2次予選まで出場しています。6年のあいだにいっそう成熟した音楽を聞かせてくれることでしょう。

ショパン:バラード第1番 ト短調 Op.23 (2015年大会 1次予選より)

ショパン:エチュード ヘ長調 Op.10-8 (2015年大会 1次予選より)


休憩のあと、26:30からは、韓国のコンテスタントが2人続きます。以前、「中国と欧米を結ぶ音楽教育事情」に触れましたが、ここでは、韓国の大きなトレンドを見ておきましょう。

パク・ジンヒョン Jinhyung Park は1996年生まれの25歳。韓国国内の延世大学(Yonsei University)に学んだ後、昨年から、ドイツのハノーファー音楽演劇大学でアリエ・ヴァルディ教授のもと研鑽を積んでいます。

パク・ヨンミン Yeonmin Park は1990年生まれの30歳。ソウル国立大学で学んだ後、現在はハノーファー音楽演劇大学でベルント・ゲツケ教授の指導を受けています。

韓国のピアノ高等教育も、ここ10~20年で大きな変化を遂げました。日本などが先行して国際的な実績を上げていた1980年代を受け、1990年に、韓国(文化体育観光部、日本の文部科学省のような機関)は国の政策として四年制の芸術学校の設立を模索し、1993年に開校させます。これが、韓国国立芸術大学(韓国芸術総合学校とも Korean National University of the Arts)です。

音楽学部のピアノ科には、当時、アメリカに留学した後、当地で教え始めていた新進気鋭の3人、キム・デジン Kim Dae-jin、イム・チョンピル Lim Chong-pil、カン・チュンモ Kang Choong-mo を教授に迎え、3人を中心とした教育体制からは、ソン・ヨルム、キム・スヌク、キム・スヨン、キム・テヒュン、キム・ヒョンジュン、キム・ジュンヒら、数多くの国際コンクール優勝者・入賞者が巣立ち、韓国は一躍世界のピアノ教育の中心に踊り出ました。ピティナもこの動向に注目し、2006年から2010年にかけて集中的にこれらの教授を審査やマスタークラスに招聘しましたが、音楽性と指導力はもちろんのこと、人間性や教育観も超一流の圧倒的な音楽家たちでした。

そこからさらに10年余り。現在、韓国では、韓国国立芸術大学だけではなく、もともと伝統校として有名だったソウル国立大学音楽学部をはじめ、各地の私立総合大学の音楽学部に、国際的な実績を持つ素晴らしいピアニストたちが帰国・着任し、教育レベルを上げています。今や、国内の総合大学で基礎教育(学士)を受けたのちに、主にドイツの音楽大学に留学するのが、韓国のピアニストたちの成長ルートとなっています。

本日登場する2人は、その典型です。

パク・ジンヒョンさんの延世大学での師匠は、スペインの名門サンタンデール国際ピアノコンクールの優勝者ユ・ソンユク Ian Yungwook Yoo。また、パク・ヨンミンさんは、ソウル国立大学の教授に着任しているヴァン・クライバーン国際ピアノコンクール銀メダリスト、アヴィラム・ライヒェルト Aviram Reichert 教授(イスラエル)に師事しました。そこから、ふたりともドイツの名門ハノーファー音楽演劇大学に進み、さらなる研鑽を積んでいるわけです。

十年ひと昔といいますが、ショパンコンクールは他の国際ピアノコンクール(通常3~4年間隔)よりも長い「5年」に一度の開催なので、世界各地の教育の変化とトレンドを顕著に感じ取ることができます。


日本からのコンテスタントや、すでに「推し」として応援しているコンテスタント以外に、こうした大きな潮流を知りながら国際コンクールを見ると、また違った楽しみ方ができるかもしれません。

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