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ショパンコンクールを彩る世界の名教師たち

10/3の1次予選初日を「開幕日」とすると、ショパンコンクール開幕まであと6日となりました。出場者たちは9月29日までに出場受付を済ませ、順次ピアノ選び・試弾などに入ります。9月30日には、演奏順抽選が行われ、いよいよ第1次予選の全貌が姿を現します。

すでに出場者の詳しいプロフィールが公式サイトで改めて公開されています。(このあと受付を済ませた者が、最終的な出場者となります)

◆出場者(STAGE Iを押すと、1次予選出場予定者が絞り込まれます)

ここにある出場者のプロフィールを全部読んで、予備予選に続いて、またもや数えてしまいました。今回は、「誰に師事した/しているか」です。

プロフィールは、本人から提出された情報をもとに、おそらくコンクール事務局が編集を加えて作成されており、指導者についても、幼少期の先生から事細かに書かれている出場者から、1人も触れられていない出場者まで様々です。在籍・卒業した学校も同様です。情報不足は大前提としたうえで、大まかな参考として、今の世界のピアノ教育を概観するために、ざっと集計してみました。

ショパンコンクール指導者指導数

マスタークラス等での一時的な指導を除き、学校などで指導を受けたと記載されている方だけを抜き出しています。あくまでも「プロフィールに登場している先生方」です。

大きな傾向として、アメリカのカーティス音楽院、ジュリアード音楽院、ニューイングランド音楽院など才能教育のメッカとして知られる名門校からコンクールに多く出場しており、特に東海岸が今のピアノエリート教育の一つの中心であることが分かります。このエリアから出てくるピアニストは、中国出身または中国系の方が多いようです。また、ザルツブルク、ハノーファーなどからも以前より伝統的に良質なピアニストが輩出されていますが、こちらは、韓国や他のエリアからの留学生が多く見られました。

主な先生方をご紹介しましょう。


◆ダン・ダイ・ソン教授(Photo: ©佐藤寛敏)

(c)佐藤寛敏_7611

もっとも多く生徒・元生徒が出場していたのは、言わずとしれた1980年のショパンコンクール優勝者(アジア人初)、ダン・タイ・ソン先生です。前回2015年大会でも、第3位のケイト・リウ、第4位のエリック・ルー(後にリーズ国際コンクールで優勝)、第5位のトニー・ヤンの3人の指導に関わっていたことで大きな注目を集めましたが、その後、2018年にオバーリン音楽院、2020年にニュー・イングランド音楽院の教授職に就き、多忙な演奏活動の傍ら、熱心に教育活動にも取り組んでいます。

ダン・タイ・ソン先生のレッスン映像は、あまり見ることはできませんが、この夏にオバーリン音楽院とコモ湖国際ピアノアカデミーの連携プロジェクトで行われた「Oberlin-Como Piano Festival」でのリモートレッスン動画がYouTubeに掲載されています。同僚のスタニスラフ・ユデニッチ教授による貴重なインタビューの後に、今回の出場者でもあるLeonardo Pierdomenicoさんをレッスンしています。


その後に、出場者5名を数えた先生が3人続きました。

◆カタジーナ・ポポヴァ=ズィドロン教授(Photo: ©Wojciech Grzedzinski(NIFC))

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ラファウ・ブレハッチ(2005優勝)やパーヴェル・ヴァカレツィ(2010ファイナリスト)の師として知られ、前回に続いて今回も審査委員長を務める、ビドゴシチ音楽アカデミー教授のカタジーナ・ポポヴァ=ズィドロン先生です。前回大会のファイナリストで、その後、ルービンシュタイン国際ピアノコンクールで優勝した地元期待のSzymon Nehring(シモン・ネーリング)さんも、現在は、ポポヴァ=ズィドロン教授に師事してさらなる研鑽を積んでいます。

7月の予備予選の後にポポヴァ=ズィドロン審査委員長が届けてくださった総評はこちらです。

前回大会の際に、テレビ出演のインタビューもとても興味深いものです。


◆マンチェ・リュウ教授(Photo:©Chris Lee)

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同じく5名の生徒が出場しているのは、アメリカの音楽エリート教育のメッカ、フィラデルフィアのカーティス音楽院で教えるマンチェ・リュウ教授。日本から、前回のファイナル出場に続いて今回も参加する小林愛実さんの先生でもあります。

カーティス音楽院は、惜しくも昨年106歳でお亡くなりになった名教授エレノア・ソコロフ先生を筆頭として、ゲイリー・グラフマン先生ら経験豊富なベテランの指導陣が長く同校から多くの若いピアニストを輩出してきましたが、一方で、若手ピアニストのジョナサン・ビスを主任教授に起用したり、ロバート・マクドナルドやイェフィム・ブロンフマンら実績あるピアニスト・ピアノ教授を着任させるなど、バラエティを担保してきました。

リュウ先生は、1993年からカーティス音楽院での指導を続けており、多くのトップ・ピアニストが門下を巣立っています。

リュウ先生の貴重なレッスン動画(ブラームスのコンチェルト)をご紹介します。


◆パーヴェル・ギリロフ教授

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最後は、ザルツブルク・モーツァルテウム大学で教鞭をとりながら、ボンのベートーヴェン国際ピアノコンクールを創設するなど精力的に教育・普及活動を行ってきた、パーヴェル・ギリロフ教授です。ソリストのほか、チェロのミーシャ・マイスキーら世界的な演奏者と活発なアンサンブル活動も行ってきた名ピアニストでもあります。日本人のお弟子さんも多く、角野隼斗さんが指導を受ける吉田友昭さんや、2008年G級金賞の仁田原祐さんらも門下生です。

ギリロフ先生のマスタークラスの様子も多くはありませんが、ご紹介します。


最後に、4名ずつの生徒さんを出場させている先生方から、現代の音楽教育を語るうえで欠かせないお二人の先生の、美しいマスタークラスの動画(アスペン音楽祭より)をご紹介します。いずれも、ショパンの作品を指導している貴重な映像です。


◆アリエ・ヴァルディ教授(ハノーファー音楽演劇大学)

◆フン・クアン・チェン教授(ジュリアード音楽院)


トップクラスの若いピアニストたちは、自分の音楽を深め、磨き、研ぎ澄ますために、世界各地の「名教授」の門を叩きます。ショパンコンクールを通じて、さまざまなピアノ教育の姿にも触れることができます。

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