飯田有抄のショパコン日記8〜会場の客席の雰囲気
今日は金曜日。1次予選と2次予選の中日でコンクールはお休みです。序盤からやや飛ばし気味の日記コーナーですが、書きたいネタが溜まって渋滞すると大変なので、フレッシュな気付きなどもどんどん書いてみます。
昨日初めて入った会場は、ホールの響きの豊かさもさることながら、「ああ違う」と思ったのは、客席の雰囲気。ひとことで言うなら、月並みといえば月並みな表現だけれど、客席からの眼差しがあたたかい。
コンクールの会場って、それはもう、ピリッピリに張り詰めた雰囲気だと思っていたのですよ。とくにオンライン配信で見ていると、ステージ前のコンテスタントが深呼吸をしていたり、祈るように瞳を閉じていたり、手をグーパーしていたりするのが映し出されて、あの空気にこちらまでシャンとしてくるじゃないですか。
(でも奏者は案外、ステージに立った瞬間パァっと笑顔を咲かせる方もいるから、そこはもうプロ的な経験値なのでしょうが、すごいなと思うわけです。)
だから客席も「さぁて、どんな演奏をなさるかな」と固唾を飲んで聴いてしまうイメージ。コンサートではないんだし、音楽祭でもないんだし。奏者が一生懸命だから、こちらもピシッとね。
......そんな空気感だと思ってたんですよね。
しかしここワルシャワのホールでは、すごく客席に「和み感」があるのですよ。みんな、非常にリラックスして聴いているのが伝わるから不思議。これはなぜそう感じられるのか、よくわからない。べつに人々のポーランド語の感想を盗み聞きできてるわけでもないのに。言語化できることといえば、年齢層は20代〜御年配まで幅広く、みんなかしこまらない普通の服装で、夜はちょっとおしゃれした女性もいるけど、全体的に堅苦しくない。
私が初めて会場入りしたのがすでに1次予選最終日だったから、場がいわゆる「あたたまった」状態であったことも確かです。夜のセッションなどは人もすごく増えていて、和みに加えて熱気もあるんですね。特に夜はブラボーの連発もすごかった。
奏者がよく、「会場の雰囲気がとてもよくて」とインタビューで言っていて、「コンクールなのに?」って思っていましたが、本当でした。
その雰囲気は、もしかすると、客席が演奏中もかなり明るいこと、そしてピアノがステージ上の奥ではなく、かなり客席側に設置されて、奏者と聴衆の物理的な距離も近いことが理由になっているかもしれません。
(携帯電話の切り忘れが多かったり、ノイズも発生するのはちょっと驚きですが.... しかしコンテスタントは集中度でそのあたりも克服できないといけないのかな)
どうもコンクールというと、聴き手も「どうかな?」と審査気分になってしまいがちなんですが、なんだかそうじゃない聴き方がここではなされている.....いいなぁ、こういう文化。みんなで作るコンクール、的な。
奏者の登場前に、アナウンスの人が「Please welcome, ○○○○」って奏者を紹介するのも、実はひそかに、場づくりに貢献する一言かもしれない。みんなでこの奏者を迎えましょう!という言葉が繰り返されていくこと。歓迎の蓄積。
「世界的な権威あるコンクール」っていうと、ちょっと怖い気分にしかならない響きだけれど、現場はものすごく人間味のある、豊かな空間なのでした。
写真:©Wojciech Grzedzinski/ Darek Golik (NIFC)(1枚目ロビー写真=ピティナ)
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