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飯田有抄のショパコン日記47〜ガルシア・ガルシアにギャップ萌え?!

ショパンの協奏曲第2番はヘ短調です。あまり小難しいハナシはおいておくとして、西洋音楽では調性に対して、「調性格論」というのが昔からありまして、○○長調・〇〇短調というのに、それぞれ固有のキャラクターがある、という考え方がなされてきました。

(あれ?コンクールのレポだよね? ま、少々お付き合いください)

何をお伝えしたいかと言いますと、繰り返しますが、ショパンの協奏曲第2番はヘ短調。ヘ短調とはバロック時代より、かなり痛々しく、絶望や深い哀しみを表すとされてきた調性です。

そのヘ短調で書かれた協奏曲を、ガルシア・ガルシアが弾く!!!

2次予選では5曲中4曲を長調で占め、ハッピーオーラ全開で驚きのショパン像を聴かせたあの男。3次ではややシリアスな顔もみせたけれど、首や口を激しく動かしながら、やっぱり声も出しちゃって、明るいショパンを奏で続けてきたあの男。ときにメリーゴラウンドのように夢見心地なキラキラサウンドを聴かせたかと思えば、急に闘牛士のように勇ましくなって、聴く人をぶんぶんいろんな世界に連れていくガルシア・ガルシアが、f moll(ヘ短調)を弾く!!

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ファイナルのマルティン・ガルシア・ガルシアさん。これまでの予選とは、打って変わり、ややシリアスな雰囲気でステージに表れました。でも決して緊張で強張った表情ではなく、すっとこの協奏曲の世界へと、自然に入っていくような凛々しさ。

↓ここ(2次予選)からの・・・

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↓これ(ファイナル)。

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え、わたし、まさかのギャップ萌え?!?!  

ずるいではないですか。そうくるのですか。
ボレイコさん指揮、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団が、またいい仕事をしてくれます。オーケストラのみの序奏からして、「これは、ガルシアの音楽!」と思わせれくれるような、強めの歌心でスタート。

そこに入って来ました、f mollのガルシアが! 凛々しく、リリカルに。全てのフレーズが、言葉のようにメッセージ性を帯びている。何を伝えたいのか、どこに向かっていくのか、大きな音楽的アーチを描きながら、オーケストラととても自然に呼応している。

2次予選で驚かされた、あの底抜けの陽気さは一体どこへ?! 
いまここに響いているのは、間違いなくf mollの、メランコリックで悲哀のある音楽。

でもそこはガルシア・ガルシア。けっして音楽を救いのない所まで暗く落としてはいきません。第2楽章では出ました、メリーゴーラウンド・サウンド! あの夢見るようにキラキラとした繊細な響きで、オーケストラとレース編みのようなテクスチュアを生み出します。

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そして極めて自然に空気の流れを一変させた第3楽章。この流れは見事でした。マズルカのリズムを生き生きと奏で、ホルンのファンファーレを受けて、コーダでは左手の音型を際立たせるという納得の設計。ここは、彼の前に演奏したガジェヴさんと解釈が違いましたね。

正直、ここまで人の心を揺さぶる音楽家は、やはり尊い存在です。実は会場の外に、アンチ(?)なプラカードをもったおじさんがいたみたいです。SNSで賛否が論じられるこの時代、かなりアナログな情報発信(汗)。でも、そんなプチデモを起こしてしまうほどの存在感を持つって、すごいことではありませんか。私自身、2次ビックリ仰天(実はややニガテ)、3次で「あら?もしかして私・・・」、ファイナルで「好きになっちゃった♡」というこの展開。おそるべき実力者、ガルシア・ガルシア。

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会場からは口笛とか、叫び声のようなブラボー、大喝采。それを浴びて、ガルシア・スマイルが太陽のように光輝きました。

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いやー、これはわからなくなってきたぞー!!ファイナルの結果、どうなる?!

写真:©Wojciech Grzedzinski/ Darek Golik (NIFC)


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