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飯田有抄のショパコン日記49〜コンクールのスポークスマンってどんなお仕事?

あと数時間後、いよいよファイナルの最終日が始まります。
このタイミングではありますが、ここで満を待して(?)コンクールの顔ともいえるこの方、スポークスマンのアレクサンデル・ラシュコフスキーさんのお話をお届けしましょう。

コンクールのスポークスマンて、どんなお仕事? ラシュコフスキーさんってどんな人? 飛び回るようにお忙しい中、こころよくお答えいただきました。

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(今日のメガネは from New Yorkだよ!)

——1年延期後に実現された今回のコンクールですが、コロナ禍でさまざまな課題を乗り越えてこられたと思います。

ラシュコフスキー:この大会でもっとも困難に感じたのは、コンテスタント全員の心理的な面に対する心配ですね。準備を万端にしてきたすべてのコンテスタントたちにとって大きな心理的負荷がかかりました。コロナ禍では、人と人との交流が絶たれましたし、予定していたコンサートが無くなったり、指導者からのレッスンも受けられなくなってしまった。われわれはそのことをとても心配していました。コンクール事務局では、コンテスタントたちの様子を伺うメールをしたり、彼らを元気付ようと励まし、声がけを続けました。

また、我々コンクールの運営側にとっても大きな問題がありました。1年もの時間は長いようでありながら、すべてを一から調整しなおすには、1年はあまりにも短い。大きな挑戦となりました。

——新しい試みとして、どんなところを強調したいですか?

ラシュコフスキー:ショパン国際コンクールはおよそ100年の歴史があります。ピアノがあり、ピアニストがいて、聴衆、そして審査員がいるという伝統的な形態は変わりません。一方でとても革新的なのは、今やSNS、高画質のYouTube、アプリなどのテクノロジーを通じて何万人もの人々とつながっていることです。カメラマンたちや技術者たちと協働で、いつでも誰もがアクセスできるような強力なプロモーションツールを作り上げてきました。TikTokのアカウントだってあるんです。若い人々にも、コンクールファンを増やしたいですし、みんなにオープンでありたいと思うからです。

——日本からはたくさんの人がアクセスしてきました。わたしたちのこのピティナnoteも、200万人以上の人々が読んでくれていますし、日本のコンテスタントの動画は100万回以上再生されています(10月14日現在)。

ラシュコフスキー:今後も、時代に即した準備をしていきます。ここから先の5年で、またテクノロジーが大きく進化していくことでしょうから、2025年にはどうなっているのか未知の要素も大きいですね。若い人々にコンクールについて知ってもらい、彼らがいつでも情報にキャッチアップできるようにサポートを続けたいです。日本のようにテクノロジーの発展した国の進展もフォローしながら、準備を進めていき、絶えず情報公開してきたいです。

伝統的な側面を大切にしているコンクールではありますが、最新技術の導入は決してコンクールの伝統を損なうことにはならないと考えています。音楽と、ピアノ演奏と、ショパンにとって良い働きかけになるはずです。

——オンラインで見てくれている聴衆にどんなことを伝えたいですか?

ラシュコフスキー:とてもシンプルです。私たちはショパンを愛しています。ぜひコンクールの鑑賞に加わっていただき、一緒にショパンの音楽を愛してほしいです。前回の優勝者のチョ・ソンジンさんも、今YouTubeでコンクールを見て楽しみ、参加意識を持ってくれています。若い学生たちに刺激になってほしいですし、たくさんの方々にショパンへの愛を高めてほしい。社会的にも国際交流的にも、さまざまなバックグラウンドを持った人々に魅力を感じていただきたいですね。

——ところで、スポークスマンのお仕事とは、どんな業務がありますか?

ラシュコフスキー:たくさんの仕事があります。個々の報道陣とのメールのやりとりや、コンクール全般の概要、レビューや書簡なども伝えています。また多様なメディアがありますので、それぞれに対応した情報を出しています。有名なユーチューバーからテレビ報道、厳格な音楽評論誌、また科学雑誌まで幅広く対応しています。

——毎日メディアの記事をチェックしたりもしますか?

ラシュコフスキー:コンクール中は全てをフォローはできないし、世界中の言語はわからないのだけれど、どんな風にメディアが取り上げているかは研究しています。できるだけ多くのジャーナリストとも交流をはかるようにしています。彼らが書いているものを読んでおけば、彼らに必要な情報を提供することができますからね。

——大変なお仕事ですが、コンクールの顔としてもっとも大切にしていることは?

ラシュコフスキー:とてもシンプルですよ。真実のみを伝える。これだけです。

——真実のみ! 

ラシュコフスキー:もちろん、どの団体にもあるように運営上の機密事項は当然あります。また、私は審査員とは一切審査にかかわる話をしないようにしています。なぜなら、彼らの個人的意見が私の耳に入ってしまうと、広報の立場としてはよくないからです。もちろん私は許可証があるので審査室に入ることもできるのですが、控えています。もしも何か私の得た情報が、事故で外に漏れ出てしまった場合、大変なことになりかねません。ですから私は、コンクールのありとあらゆる事柄を網羅していますが、審査についてだけは、まったく触れないようにしているのです。

また、私にとって、とてもエモーショナルな瞬間があります。それは毎回の結果発表です。それぞれのステージの結果発表を伝える時、コンクールを推進していく喜びはある一方で、私自身も音楽家なので、心が痛むこともあるのです。その発表以降、先へと進めないコンテスタントたちが出てくるわけですから。それがどれだけ辛いことなのか、気持ちを察してしまい、心が壊れてしまいそうになります。

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(3次予選結果発表時のラシュコフスキーさん・・・)

——ラスコフスキーさんも音楽家なのですね。ピアノを弾くんですか?

ラシュコフスキー:いえ、ちょっと驚かれるかな・・・私は音楽学者です。専門はショパンのほか、近年はパデレフスキ、ペンデレツキ、ヴァインベルクの研究をしています。言語学もやっています。演奏では、プロのサクソフォン奏者とても活動しています。また20年ほど、プロのジャーナリストとしてラジオの仕事もしていまして、世界中の音楽に関心を寄せています。
ショパン国際コンクールは2005年から関わり、モスクワのチャイコフスキー国際コンクールのディレクターもやっています。またヴィエニャフスキ国際ヴァイオリン・コンクールの運営の仕事、また指揮者のコンクールなど、複数のコンクールに関わっています。

——つねに世界中とコンタクトをとっていますね。健康管理も大変そうです。

ラシュコフスキー:家族と過ごす時間がとても大事ですね。それと、健康診断の資格を持っていて、これはちょっとしたヒミツなんだけど、審査員は長い時間ストレスに晒されますから、彼らの健康状態によってはビタミン剤などをお渡ししています。

——ところで、ラシュコフスキーさんのメガネが素敵と密かにウワサ。ピティナnote広報室長がどこで買ってるのか知りたいんですって。

ラシュコフスキー:ぼくは3種類のメガネを愛用しています。ひとつは、ここワルシャワで、ヴィンテージメガネを扱っている素晴らしいメガネ技師さんによるものです。もう一つは、ニューヨークのマンハッタンから調達していますよ。デザイナーの友人の勧めで、映画で使われたヴィンテージメガネのお店があるからチェックするといいと言われたんです。もう一つは、ショパンと関係があるかも。彼の活躍したパリから調達。彼の葬儀が行われた教会にもっとも近いメガネ店を選んで買いました。ちなみに、今日のはニューヨークのメガネだよ。

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記者発表から、周辺企画のトークショー司会でもお見かけするラシュコフスキーさん。クールで聡明な印象ですが、人間味あふれる方でした。ありがとうございました!

(写真:飯田有抄/ピティナ)

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