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飯田有抄のショパコン日記46〜ガジェヴに学ぶ。なぜ音楽は世界を調和に導くか


協奏曲の演奏はソロと違い、なんといってもオーケストラとのアンサンブル力が問われます。独奏パートを弾きこなし、オーケストラスコアを深く理解する。それだけではありません。実際に指揮者やオーケストラとその場で音楽を作っていく力量が必要。

正直、こればかりは、経験値がかなり大きく影響すると思います。ファイナル2日目の今日は、最初の奏者と最後の奏者はともに17歳のジェイ・ジェイ・ジュン・リ・ブイ(カナダ)と、エヴァ・ゲヴォルギヤン(ロシア/アルメニア)。もちろんこれまでにお二人とも、ジュニアのコンクールなどで頭角を現し、もっとも将来を期待されるピアニストたち。でも、17歳です。一つ一つの舞台で大きく成長を見せながらも、これから本当に多くの経験を積んでいくわけです。

そんな2人の17歳の間に、すごい大人たちが入ってしまいました! その凄さはビックリ仰天した2次予選のレポでご紹介した通り。

26歳のアレクサンダー・ガジェヴ(イタリア・スロヴェニア)さん、そして24歳のマルティン・ガルシア・ガルシア(スペイン)ですからね・・・。
濃い。

ピアニストはアスリートではありませんが、運動性能では17歳の切れ味はあるものの、ステージ経験・共演経験はどうしたって差はある。
素直にそのことが今日のオーケストラとの協奏曲に表れていました。ごく自然なことです。批判でもなんでもなくて。

大人たち二人は、第2番の協奏曲。このnoteを猛烈な勢いで執筆・編集しているピティナ育英・広報室長の加藤さんと、10月17日のピティナ配信生番組「ショパンの日」で、その選曲についてもトークしましたが、2番で優勝した人って、ショパコンの歴史上、本当に少ないんですって。そこに賭けてきたガジェヴとガルシア・ガルシア。濃い。

さて、アレクサンダー・ガジェヴさん。2番の感動的な演奏は多分わたし一生忘れない。

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冒頭に「オーケストラとのアンサンブル力」なんてサラリとわかったように書きましたが、それが本当になんなのかを教えてくれるかのような演奏でした。

ひとことで言うなら(言っていいのか?)、ショパンの2番の協奏曲の場合、ピアノ独奏が中心的となってオーケストラがハーモニーを担う場面が多いわけですが、そのオケのハーモニー変化のタイミングをすごくよく聴いている。掴んでいる。

ピアノは鍵盤をアタックした瞬間にアクション機構が動きハンマーが弦を打つので、ものすごく音の立ち上がりの速い楽器です。一方、オーケストラとは、物理的に弦楽器だけでも横に大きく広がっているし、管楽器や打楽器に至ってはかなりピアニストから離れていて、しかもピアノの大屋根は客席に向かって開いているので、音の届き方はけっこうシビアなものがあるわけです。

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経験値のあるピアニストは、そうしたオーケストラの音の立ち上がりのタイミングや、自分のピアノの音がオーケストラに届くまでのタイミングや聞こえ方をを知っていて、身体にそれが入っており、肌で知っている。実際に聞こえる音から余裕をもって全体像を想像し、演奏することができるようになる。

ガジェヴさんの演奏は、それがあまりに見事で、音楽的に肝心なところで、ピタッ!とオーケストラと呼吸がそろうんです。自由に自分の音楽を展開していても、オーケストラのハーモニーの移ろいをしっかりと捉えているから、それができる。つまり、オーケストラをよく聴いているんですね。で、オケのほうも、自分たちの音をよく聴いてくれているのがわかるから、今度は独奏者からの自由な表現を受け入れ、呼応する。

互いに、聴くことで生まれる調和。

この、実にシンプルで、音楽なら当然とも思えることが、実はとても難しい。
そしてそれは、私たちの日々の営みにおいても言えること。

飛躍するようですが、私は音楽は世界を平和に導いてくれると真剣に思っているのですが、まさにそのことを、今日のガジェヴさんと、ボレイコさん指揮、ワルシャワ国立フィルハーモニー管弦楽団が演奏で示してくれているように思いました。自分のことだけに一生懸命にならず、相手の言うことをを受け入れながら、相手にも受け入れてもらい、調和を作り上げる。

音楽の力は、ここにある。人間の叡智ですね。

真顔ですよ。夜中に書いていますけれども。とはいえ、感動のあまり、少々話が大きくなってしまいました。でも、それだけ素晴らしいステージだったのです。ガジェヴさん、オーケストラのみなさん、本当に素敵でした。

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写真:©Wojciech Grzedzinski/ Darek Golik (NIFC)

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