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飯田有抄のショパコン日記12〜沢田さん・進藤さん・反田さんを全力エール耳で聴く

「ショパンの音楽は国際言語である」、そう国立ショパン研究所のシュクレネル所長が言っていたように、この国際コンクールは多様なナショナリティの人たちが参加でき、国籍人種に囚われずに素晴らしい演奏に出会える場。

とはいえ、ですよ。どうしても、「日本人」のコンテスタントが登場すると、急に”自分ごと”感が増してしまいます。それはもう、そういうものですね。日本のコンテスタントたちを、やっぱりひときわ真剣に応援してしまいます。2次の8名に対しては、もはや勝手に親戚のおばちゃん気分。全員がっつりエコ贔屓です。

そんなマインドはあるので、どうしたって冷静ではないのですが、お一人お一人のステージでの大健闘を客席で聴いた耳でお伝えしたいと思います!

2次予選初日、日本人で最初に登場したのは沢田蒼梧さん。
この日初めてのKAWAIの登場。一曲目のアンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズの冒頭、漣のような伴奏に続くメロディーを、語るように丁寧に紡ぎ出した瞬間、ぞくっときました(もちろんいい意味で!)。美しい・・・。
ちなみに2次予選ともなると、たとえば、和声変化への音色対応とか緩急をはっきりたくさんつけて「やってます!」的な、味付け濃いめの表現が多いかも・・と思っていたところへ、沢田さんのすっきりとした、しかし表現のひとつひとつの音楽的出来事を丁寧に積み重ねていくところは、センスの良さとして輝いていました。「弾き切った!」といわんばかりのいい表情で終えられたのも印象的でしたね。

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進藤実優さんは落ち着いた黒いドレスで登場。バラードop.23から、持ち味の深〜い呼吸による緩急が心地よく、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズの後半は、装飾的な音型ひとつひとつのきらめきを、いきいきと伝えてくれましたね。
2次では、より思い入れのあるプログラムを組み上げる人が多いのでしょうか、みな冒頭から全身全霊ですから、後半で気持ちに身体のスタミナがついていききれるか...?!と感じた奏者もいた中、進藤さんの集中力の高さと丁寧さの継続はさすがでしたね。会場の響きでは、音の重力としては体の大きな奏者に比べると、やや控えめに聞こえた印象ですが、エレガントな持ち味として個性を発揮していました。

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そして初日の一番最後、夜9時ごろの登場となったのは反田恭平さん。夜の部開始4時間ですから、客席もそろそろ疲れが滲むころですが、ワルツop.34-3の華々しい響きで、パッと一瞬で会場の空気を変えたように感じました! バラードop.38では、同じメロディーの繰り返しでつける強弱を中心とした変化が、単なる”立体感”というより遠近法とも言いたくなるような、グッと響きの距離感が変わり、まるで彼岸と此岸、夢と現実とを往復するような不思議なうねりに惹き込まれました。また、アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズのポロネーズに入る前の序奏は、ショパンが生きた時代にパリオペラ座で人気を博したバレエ・ブランの幕開けを思わせる優雅さ。勇壮な表情をつける奏者が多い中、「おお!」と思いました。
2次初日を締め括るラスト奏者に、会場はブラボーが飛び交い割れんばかりの大喝采。

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日本の3名の演奏に、親戚のおばちゃん(←妄想)はとても誇らしい気分になった夜でした。やはり日本の奏者登場はかなりドキドキするものですね・・・。2日目も続くぞ、この緊張!


写真:©Wojciech Grzedzinski/ Darek Golik (NIFC)

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