アキレス腱障害-ストレス要因から紐解くアキレス腱実質部の痛み-
はじめまして。
LOCO LAB.メンバーとして参加させていただくことになった江尻廣樹(@PT_EjiriHiroki)です。
日々の臨床での気付きや自分自身が悩んだ点などを踏まえて皆さんにお伝えできればと思いますので、どうぞよろしくお願いします!
今回のテーマは『アキレス腱障害』です。
その中でもアキレス腱実質部に痛みについてお話しさせていただきます。
ランニングやジャンプ動作などによるオーバーユースによりアキレス腱の変性や周辺組織の炎症が起こり発症することが多いとされており、ランナーの約30%にアキレス腱の障害がみられるといわれています。
アキレス腱は人体における最大の腱組織で、歩行時には体重の約4倍、ランニングやジャンプなどの動作時には約6〜12.5倍の負荷が加わっているといわれています。
腱の障害は難渋するケースが多く、慢性化しやすいため症状が緩和しても腱自体の変性や肥厚により競技パフォーマンスに影響し、スポーツ活動再開後に再発する例もみられるかと思います。
先週のアキレス腱付着部症についての記事でも触れていますが、アキレス腱障害自体がテンディノーシス・サイクルという悪循環に陥りやすいのです。
アキレス腱の微細損傷を繰り返すこと、それにより周辺組織の変性が起こることで更に微細損傷が生じやすくなってしまう悪循環が起こります。
アキレス腱実質部に微細損傷を引き起こすストレス要因として大別すると以下の3つが挙げられます。
反復した牽引、剪断ストレスによりアキレス腱実質部に力学的刺激が加わり微細損傷が引き起こされます。
アキレス腱近位2〜6cmの領域は血流供給が乏しいため、十分な修復がしきれない状態でトレーニングを継続し微細損傷が繰り返され、不十分な修復が蓄積することで徐々に変性した組織となってしまいます。
そして、腱内部分断裂や腱の肥厚などの変性した組織は力学的強度や柔軟性の低下が生じます。
その変性した組織がまた力学的刺激により微細損傷を繰り返す悪循環となりやすいことが慢性化しやすい理由です。
牽引・剪断ストレス、変性の3つのストレス要因のうち、どの影響が強いのかを評価し、その原因を見出すことが重要と考えています。
○アキレス腱障害(腱実質部の痛み)の病態解釈
|アキレス腱の解剖
アキレス腱は下腿三頭筋(腓腹筋内側頭・外側頭、ヒラメ筋)の停止腱膜の複合体で、人体最大の腱組織です。
滑膜性腱鞘を持たず、周囲を血流豊富なパラテノンに包まれています。パラテノンが伸縮性のある鞘として機能することでアキレス腱は周囲組織に対して自由に滑走することができます。
またアキレス腱の線維は長軸に並行ではなく、近位から遠位に向かって外側に約90°回旋しながら下降していきます。浅層にある腓腹筋は遠位にいくにつれて外側に捻れ、深層にあるヒラメ筋は内側に位置します。
※但し、捻れの程度には個人差があります。
また、アキレス腱の捻れは歩行時においてさらに増強されることで血流が乏しくなるといわれています。
|アキレス腱周囲組織について
アキレス腱周囲組織としてパラテノンの他にKager’s fat pad(ケーラー脂肪体)や滑液包があります。
Kager’s fat padは踵骨、アキレス腱、長母趾屈筋から構成されるKager's triangle内に存在する脂肪組織で、関節運動に伴いその形状を変化させることにより組織間での滑走性の促進や摩擦の緩衝に作用しています。
|アキレス腱障害の分類について
慢性のアキレス腱障害は疼痛発生部位などにより2つに大別されます。
踵骨付着部から2cmを境界として、遠位の踵骨付着部で起こる①アキレス腱付着部症(insertional Achilles tendinopathy)と近位のアキレス腱実質部で起こる②付着部以外の腱障害(non-insertional Achilles tendinopathy)です。
そしてアキレス腱実質部の痛みとしては、アキレス腱内に障害の及ぶアキレス腱症とパラテノンに炎症を起こすアキレス腱周囲炎の2つに分類されます。
しかし両者が合併しているケースも多くみられます。
|症状について
付着部以外の腱障害の症状としては主に圧痛、伸張痛、腫脹、底背屈時の軋礫音(炎症が顕著な場合)などがみられます。
疼痛などの症状は、修復反応の一連として起こる周囲組織の滑膜炎や増生した血管の組織への侵入など二次的な炎症により生じているともいわれています。
|2つの病変の違い
アキレス腱症|
病変が腱実質部にあり、疼痛、腫脹、機能障害を呈しており、外側より内側に多く発症します。
初期には腱実質への炎症細胞浸潤などの炎症所見は認められません。
アキレス腱周囲炎|
病変が腱周囲組織にあり、疼痛、浮腫、充血、礫音を呈します。
急性期では炎症細胞浸潤を伴うパラテノンの浮腫や充血などが認められ、慢性期ではパラテノンの肥厚が認められます。
○発生機序
ストレス要因の発生機序となる機能低下やアライメント変化について、臨床上多く経験するものにフォーカスしてお話ししていきます。
|牽引ストレスについて
歩行や走行時に身体を前方へ進める際に衝撃を緩衝するロッカーファンクション機能があります。
しかし、足関節背屈可動性の低下によりアンクルロッカーが機能せずに早い踵離地が生じ、伸張されたエネルギーをうまく使えずに足関節底屈出力に頼ることで推進力を得ようとします。
それにより下腿三頭筋へのより強い求心性収縮が必要となり、下腿三頭筋の過収縮が繰り返されることで、タイトネスとなっていくことは容易に想像ができると思います。
また、足部の背屈可動性や安定性を高めるため、足趾の過剰な屈曲や足部外転による代償動作にて対応することも多くみられます。
|剪断ストレスについて
アキレス腱に捻れがあるため、距骨下関節の回内が強まるとアキレス腱部への回旋、剪断ストレスが強まります。
前方への荷重移動する際に、下記のように回外位から過度な距骨下関節回内(足部過回内)が生じることでアキレス腱には急激な剪断ストレスが加わります。
ランニングやダッシュ動作では、上記の剪断ストレスに加えて、着地衝撃や荷重刺激、蹴り出しによる収縮が断続的に加わることでアキレス腱へのストレスが増大していきます。
|変性によるもの
また加齢に伴いアキレス腱自体に基質的な違いが生じていることも考慮した上で介入する必要性もあります。
好発年齢が35〜45歳と中年者に多いことから、加齢に伴いアキレス腱の退行変性が生じており、それに加えて腱の肥大や脆弱化によりアキレス腱障害を更に引き起こしやすくなります。
|発生機序のまとめ
これらのストレス要因の原因にアプローチしていくことで負のスパイラルからの脱却を図っていきます。
この後はストレス要因に基づいた評価や治療アプローチについて解説していきます。
○局所評価
発生機序から診るべきポイントについて解説しましたが、実際に局所評価を通してどこに機能低下を起こしているかをチェックしていきます。
|疼痛評価
まずは圧痛の有無や部位を確認していきます。
疼痛部位による病態の判別は、アキレス腱障害の治療をすすめる上でストレス要因を明確にしていく為にも重要となります。
動作時や運動にて疼痛が生じる場合は、その動作を行ってもらい、どのようなメカニカルストレスが強まるかで痛みが生じているかを確認します。
また代償動作の確認、荷重量による痛みの変化なども併せてみていきます。
|病態判別
アキレス腱症かアキレス周囲炎かを判別する方法としてはアキレス腱の硬結や圧痛部位が足関節底背屈運動により移動するかどうかで確認できます。
硬結や疼痛部位が移動すればアキレス腱症、移動しなければアキレス腱周囲炎が疑われます。両者が合併している場合もあります。
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