見出し画像

模擬患者:大腿骨頸部骨折術後の症例レポート

模擬患者:大腿骨頸部骨折術後の包括的ケーススタディ

1. 患者情報

  • 診断名:右大腿骨頸部骨折(Garden分類 type III)

  • 手術:右人工骨頭置換術(後外側アプローチ)

2. 現病歴

自宅で転倒し、右股関節痛のため動けなくなっているところを息子が発見。救急搬送され、右大腿骨頸部骨折と診断。受傷後3日目に右人工骨頭置換術を施行。術後7日目にリハビリテーション目的で回復期病棟へ転棟。

3. 既往歴

  • 高血圧(内服加療中)

  • 骨粗鬆症(内服加療中)

  • 軽度の変形性膝関節症(両側)

4. 社会背景

  • 息子夫婦と3人暮らし(2階建て家屋、患者の寝室は1階)

  • 受傷前ADL:屋内自立、屋外T字杖歩行

  • 趣味:週1回のグランドゴルフ、地域のお茶会参加

5. 理学療法評価(術後7日目、回復期病棟転入時)

5.1 疼痛評価

  • 安静時:NRS 1/10(右股関節周囲)

  • 動作時:NRS 6/10(右股関節周囲、特に荷重時)

5.2 関節可動域検査(右/左)

  • 股関節屈曲:70°/110°

  • 股関節伸展:0°/10°

  • 股関節外転:15°/30°

  • 股関節内転:制限あり/20°

  • 股関節内旋:測定困難/30°

  • 股関節外旋:測定困難/40°

5.3 徒手筋力検査(右/左)

  • 股関節屈曲:2+/4

  • 股関節伸展:2/4

  • 股関節外転:2-/4

  • 股関節内転:測定困難/4

  • 膝関節伸展:3-/4

5.4 感覚検査

  • 表在感覚:右大腿外側で軽度鈍麻

  • 深部感覚:著明な異常なし

5.5 腫脹・浮腫

  • 右大腿周径(膝蓋骨上縁15cm):左側と比較して+3cm

5.6 歩行能力

歩行器使用にて見守りレベル(3m程度)

5.7 バランス評価

  • Berg Balance Scale:28/56点

  • Timed Up & Go Test:測定困難(歩行器使用でも不安定)

5.8 日常生活動作(FIM)

  • 運動項目:42/91点

  • 認知項目:33/35点

  • 合計:75/126点

5.9 歩行動作分析(歩行器歩行、前方5m)

  1. 全体像

    • 歩行速度:0.2m/秒(著明に低下)

    • 歩幅:右 20cm、左 25cm(両側とも狭小)

    • ケイデンス:60歩/分(低下)

  2. 体幹・上肢の動き

    • 体幹の著明な前傾(約25度)

    • 歩行器への過度の上肢支持(特に右立脚期に増強、体重の約40%)

    • 肩甲帯の挙上(約3cm)と肘関節屈曲位(約30度)での固定

  3. 歩行補助具の使用状況

    • 歩行器の把持位置が高め(肘関節屈曲約30度)

    • 歩行器を引きずる傾向あり(前方への押し出しが不十分)

  4. 疼痛の影響

    • 右立脚期全体を通じて術創部周囲に疼痛あり(NRS: 4-6/10)

    • 疼痛回避のための代償動作が顕著(体幹前傾、患側荷重低下)

6. 問題点

  1. 右下肢への荷重時痛による荷重不足と立脚期の不安定性

  2. 術創部の影響による中殿筋の筋出力低下

  3. 右立脚期における骨盤の側方移動(Trendelenburg徴候)

  4. 歩行時の過度な体幹前傾と上肢支持による代償

  5. 歩行速度の著明な低下と歩容の非対称性

  6. 右股関節周囲筋(特に中殿筋、大腿四頭筋)の筋力低下

  7. 右股関節可動域制限(特に屈曲、外転、伸展)

  8. 歩行に対する不安感と自己効力感の低下

  9. ADL(特に移動、更衣、入浴)の介助量増大

  10. 転倒リスクの増加

ここから先は

1,824字

リハビリテーションの考え方と方法を発信

シンプルプラン

¥980 / 月

サポート、noteの記事購入して頂い金額の一部はえんとつ町のプペルの購入、その他クラウドファンディングの支援をさせて頂きます