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枯草の根

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社会不適合でも頑張って生きてる、と証明するには文章を書くしかあるまい。そんなことを思いながら、書いているのです。
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2016年9月の記事一覧

三十の愛

 愛して已まない君は此処にいるが、何処にもいない。愛着を叶えるために、執着を捨てよ。逢瀬は祝福された黄泉の果実。触れることの出来ない三十の愛は此の手の中にある。

 笑顔を見せてくれ。私はそれを輝かせる。

うつくしさ

うつくしいものの早く廃れ、愛せらるるものの早く亡ぶるといふことは、何たる残酷な矛盾であろう。しかしこの残酷があるために、かへって愛惜といふ慕はしき文字も生れた。すべてうつくしきものはそのうつくしさを全うせんがために、余韻嫋々の哀曲を残して去つた。あなたは一生をうつくしい人として終りたいとは思ひませんかーー
あなたは自分の生命をうつくしいと思つたことがありますか。さうしてあなたはそのうつくしい生命の

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不愉快な君に縋りたい

死神が大鎌を携えてやって来た。殺すつもりはないらしい。ただ隣にいるだけだ、とそう言った。
死神は本当に、側にいるだけだった。というよりむしろ、私を励ましてくれたり、話し相手になってくれたりした。心地よい声で、欲しい言葉をかけてくれる。ただ、鎌を引き摺る音だけが不愉快だった。

或る日、死神があまり喋らなくなった。すると、鎌を引き摺る音が余計に不愉快になった。もっと言えば、恐ろしくなった。しかし、私

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ガタリ

 ある休日、本屋にでも行こうと思い立ち、出かけた。お気に入りのキャスケットを目深に被り、伊達眼鏡をかけた。

 道すがら、外国からの観光客に声をかけられた。どうやら、目的地へ向かうためのバスがわからなかったようだった。私は、それほど得意でもない英語で、丁寧にバス停までの行き方と、乗るべき路線を教えた。観光客は素敵な笑顔を見せてくれた。良いことをすると気持ちが良い。さきほど教えた情報は全て嘘だったが

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