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野球は敵だったのに

物心がついたころには、家族団欒を過ごす我が家の居間では野球中継がテレビから流れていた。それはとても自然な事で生活の一部に馴染んでいた。

90年代阪神タイガース暗黒期。父は飽きもせず寝転がって試合を見ていた。

大阪に生まれ育った宿命か、我が家が特殊だったのか。野球=阪神が当たり前。疑問も持てない程ナチュラルに植え付けられていた。

「俺が見てるから阪神調子悪いんや…。」と口癖のようにしょっちゅうボヤく父。

なぜ!なぜそんな弱いのに野球を見るの!?それなら私の見たい番組に変えてよ!

「これ以上見たらあかん、負ける。チャンネル変えてええで。」
父からのその言葉をいつも待っていた。

90年代、一番の娯楽はテレビだった。
野球中継のせいで楽しみにしていた番組の放送開始時間がめちゃくちゃになり、新聞のテレビ欄を睨みまくる。
そんな日々があり私はずっと野球の面白さがわからないどころか、とにかく野球が嫌いだった。

野球を妬み続けた私であったが、2003年、高校生となった私に転機が訪れた。

高校に入学しソフトボール同好会に所属した。そこで出会った同級生の友人2人が阪神ファンだった。相変わらず父の影響で居間では阪神戦が流れていたので、最低限の会話は付いていけたこともあり、毎日のように阪神の話題に花を咲かせていた。そして友人から提案される。「放課後、甲子園に行こう!」

第一次個人的プロ野球ブーム到来。あの私が!黄色と黒の組み合わせを見ただけでヒェ~となっていた私が!まさかのプロ野球観戦デビューin阪神甲子園球場を果たす。

高校の最寄り駅から甲子園まで電車で約15分。友人達は家からマイ応援グッズを持参していた。毎日のように乗っていた阪神電車、今まで気にしていなかったが周りを意識してみると、カバンから応援バットがひょこっと顔を出している人だらけだ。

初めてのプロ野球観戦。夏場で暑い日だった。ショップで細めの応援バットとジェット風船を購入。制服のスカートを汚さないように気を付けた。串に刺さったイカを食べ、これはビールに合う味!と未成年ながら即座に察した。飲酒をしている大人が羨ましい。早く大人になりたい。友人達は持参したユニフォームを制服の上に羽織り観戦していた。友人達がどの選手推しだったか思い出せないが、友人Aの姉が猛烈な矢野ファンだったことは覚えている。甲子園の風は夜でも熱かった。テレビ中継ではぼんやりとしかわからなかった応援歌を口ずさむ。試合が進むにつれてお尻が痛くなった。ジェット風船を上手く膨らませられない。夜空を自由に飛んでいくジェット風船に「私今、甲子園にいる!」と実感させられた。六甲おろし。応援団の大きな旗。勝ったかどうかは記憶にない。でも、とても楽しかったことは覚えている。

テレビで見るのとは別物だ!!

感動した。居間に転がってボヤきながら見る野球も悪くないかもしれない。しかし当たり前だが現地で観戦すると空気感が全然違う!

野球って面白い!!!

その日を境にシーズン中何度か甲子園へ足を運んだ。そしてタイミングよくこの年阪神は1985年以来のリーグ優勝を果たす。学校、バイト先のスーパー、大阪中がお祭りムードだった。

暗黒期も、それ以前も阪神を見続けてきた父には申し訳ないが、どえらいタイミングで野球観戦に目覚めてしまった。今になって思い返せば強かったらそりゃ楽しいわ。

高校在学中の3年間は定期的に甲子園へ足を運んだ。

2004年、星野監督が勇退し岡田阪神爆誕。2005年、JFK、2年振りのリーグ優勝。

高校卒業後、大学に入学し生活が変わってしまい甲子園に足を運ぶどころか野球中継さえ見れなくなってしまう。

自分の中にあった熱がシュッと消えてしまった。
ただ、子どもの頃の私とは違う。野球は面白い。その経験は変わらない。

2017年、京セラドームにて久々に阪神を見た。すっかり野球離れしていた私が知っているスタメン選手は鳥谷ぐらい。約10年振りでも鳥谷の応援歌を覚えていて歌えたのが嬉しかった。

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2018年、京セラドームにて初めてオリックス・バファローズの試合を見る。正直今までオリックスには興味がなかった。高校生の頃なんて放課後に甲子園へ行くよりも大阪ドームに行った方が近いのに結局一度も近鉄、オリックスの試合に行こうと思うことがなかった。元々近鉄ファンだった夫、生で野球を見たことがないとのことで引っ張り出して連れて行った。そこで私は驚いた。阪神の試合と空気感が違う!セパの違いか、オリックス独自のものなのか。当日券で楽々入場できたのにも驚いた。そして不思議と心地よい。

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そこからゆるく阪神とオリックスを応援している。

2018年の時点では考えもしなかったのだが、2021年、私はオリックス・バファローズに助けられる。第二次個人的プロ野球ブーム到来。

新型コロナの影響で大阪府内から出にくくなった。大好きだったライブ、旅行、酒の場に行くという娯楽を奪われ、心が死にかけていたところ開幕戦からほぼ毎月京セラドームへ足を運んだ。席を間引いていたこともあるが、相変わらず心地よい。丁度いい。そしてかつての阪神状態でタイミング良くオリックス、悲願のリーグ優勝。にわかの身で申し訳ないが、とても楽しませていただいた。高校生の頃とは違ってお酒も飲める。

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気が狂いそうになるほど自分の中で敵だった野球とこんなに仲良くなれるとは不思議なものだ。

そして2022年になった今でも父の口癖は変わらないし、気が付けば私も言っている。

「私が見てるから阪神(オリックス)調子悪いんや…。」

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