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ボカロ名人シリアさんを分析!大阪編

最終更新日:2021.12.1 投稿日:2021.11.7

2021年10月24日(日) 初音ミク「マジカルミライ 2021 in OSAKA」の企画展ステージ、出張版ピアプロTV × SONICWIRE『3日間でわかる楽曲制作!』の【3日目:ゲストクリエイターによる調声ポイント&インタビュー】に、あのボカロ名人 cillia さんが登壇し、初音ミクNTを使ったオリジナル楽曲とその編集画面が披露された。

普段から作業風景をネット配信している cillia さんだが、初音ミクNTの作業を私は観たことがなかったし、カバー中心の彼女がまさかクリプトンのイベントでオリジナル楽曲を引っさげて登壇してくるとは思わなかった。
こうしたイベントの常で、大変な情報量を持つ歌声合成ソフトの打ち込みを短い時間で紹介しきれるはずもなく、内容は非常に残念なものだったが、それでも貴重な情報の宝庫だったので、こうしてnoteに残して置こうと思う。

■動画の内容

14:47 ベタ打ち 
18:01 完成版 
21:01 Voice Voltage
24:56 Attack Speed
27:46 Voice Voltage & Pitch Control 
30:08 Pitch Control
31:20 Dynamics 
34:10 完成版(2回目) 
37:48 インタビュー 
43:53 初オリジナル楽曲について 
46:59 VocalShifter について 

■曲の基本情報を確認していこう

この曲は120BPMなので、クオンタイズが1/4になっている画面を見るときに縦線の幅は500msec(ミリ秒)

画像1

というふうに意識しながら観ていこう。

また、使われている音列から、この曲のキーはDであることがわかる。
基本的にDメジャー・スケール上にノートが配置されている。

スケール

↑私にはこう見える......

曲全体を聞いてみた私の所感だが、Voice ColorのSoftやVoice Voltageの値が下がっている箇所(声のトーンを落とそうとしている箇所)ではラウドネス(ヒトが感じる音の大きさ、音量感)が著しく下がっており、これは後からコンプレッサー(DAWのエフェクト)や、ボリュームオートメーションの描画によって、音量感の凸凹を均す予定なのかな?と思ってしまった(というか私なら後で修正する)。
今回のアーカイブ内で語られていた重要Tipsとして「声色のコントラスト」と「トレモロ」が挙げられると思う。

尚、本稿はcilliaさんが語った言葉を「」で記述する際に、かなり私の超訳が入っているので注意してほしい。(動画を見るんだ)

■歌詞(非公認)

(注意:漢字変換、文節は私が勝手に付けたものなので信用しないように)

はじめての出会いのような目で
いつものおはようには何か違った
遠去った日々の夕暮れにとけた雲
思い出せないみたいなの
遠くに消えてた君と過ごしていた あの時間が
あの頃の君はもう

わかってた 一瞬で気づいていた
一息で君の世界 変わってたんだ
新しい涙に 跡もない
覚悟をしていた そのはずだった

望んでいた運命は 崩れて行くんだ
抱きしめていた あの君は
アィ ブラァス ユ ナゥ  
砂時計の残りに 落ちていた記憶に
たった一人はずれていた
アム ツィンケナ ビュ ずっと


■ベタ打ちとピッチカーブ編集後の比較

まずはピッチカーブ編集から観ていこう。
初音ミクNTの操作画面では、
・青いラインは編集前のピッチカーブ
・赤いラインは編集後のピッチカーブ
となっている。

詳細については今後有料箇所に記述していこうと思うので、乞うご期待。

例えば、cillia さんのビブラート分析。

ビブラート01

こういう、アホっぽいことをやって

ビブラート03

1,000msec(1秒)間に約6.3〜7.7回振幅させていることなどから

ビブラート04

・早いところで周期(Vibrato-Rate)は約6.3Hz~7.7Hz
・遅いところで周期(Vibrato-Rate)は5Hz前後
・振幅(Vibrato-Depth)は50cent〜80cent(4分音〜半音以内)
・始点と終端の振幅は小さく描く傾向にある。
・波形は台形というか三角波に近い

ビブラート05

などということがザックリわかってきたりする。


・ パラメータ「Voice Voltage」の編集

「Voice Voltage を今回は多用した」

画像3

「Voice Voltageは声色(トーン)を変えたい(変わるであろう)箇所で使う」

VoiceVoltage裏声

「Voice Voltageを使って裏声にしている」
値が-40%(マイナスになると声が柔らかい印象になる)に設定されていて、更に出だしのピッチカーブが半音内で波打たせた後、急激に4度(半音5つ分)上昇させている。

「裏声だとわかりやすくするために、特に細かくピッチを描き込む」(29:18付近)

注目したいのは「裏声」になる直前のVoice Voltageの跳ね上がっている箇所。「裏声」にしたいノートと、その直前のノートの声色のコントラストを大きくすることが「裏声」らしさをより感じさせる方略なのだという。(2021.11.7の東京編では直後のノートも含めていた)

「ヒトは歌うときに長いノートになると声の質感が変わっていく、と私は思っている」

ロングトーンの最後の方でビブラートが少し入り、最後音量が消え行く瞬間に急激に上昇するピッチカーブ(ヒーカップ)が書き込まれている箇所で、Voice Voltage を上昇させている。これはVOCALOIDでは音色の差し替え以外で実現できなかった手法だ。初音ミクNTではパラメータ操作による声色変化のダイナミクスレンジが若干広がった為、こうしたことが試されるようになったのだろう。


・ パラメータ「Attack Speed」の編集

「Attack Speed は125%くらいで設定されているが」(※1)
「私は結構(Attack Speedの値を)低めに設定している」
「特に暗い・哀しいフレーズを作りたい箇所は下げる」
「て(t e)の子音がAttack Speedを下げると「つぇ」になる」(※2)
「特にタ行・カ行で操作するとかなり変わる」

※1: 実際は子音によって異なる初期値がメーカーにより90%~107%の間で設定されている(Piaprostdio 3.0.3.8)
※2: Attack Speed は母音の鳴り始めを操作するパラメータだが、結果的に直前の子音の"聞こえ"(印象)にも影響しているものと思われる

動画中、クリプトン社員の操作がおぼつかず、cillia さんが指摘している箇所とは違う箇所のAttack Speed を操作してしまっており、値を変えた前後の比較ができなくなってしまっている。


・ Voice Voltage とピッチカーブの連動

「Voice Voltageと同時にノートの"まわり"(ノート両端付近の箇所のことだと思われる)にピッチカーブの上げ下げを付加することで、自然性を高めることができる」

動画中、クリプトン社員の理解が追いつかず、cillia さんが指摘しているVoice Voltage とピッチカーブ編集の連動がわかるように画面表示されていない。
話がピッチカーブだけの箇所に逸れてしまい、途中cilliaさんも話をあわせてしまったのでこれでこの解説は終了である。

「な」のピッチ

ちなみに、「の(n o)」の子音部分(n)の急上昇しているピッチカーブは「強い感じになる」ので付けているとのこと。

「ピッチベンドを描くときに普通は下から上に描く」(しゃくり)

しゃくり
画像10

図の出典

ノートが下に行く(下行形のメロディ)の場合、アンダーシュート(※3)して、戻るときにまた少し行き過ぎて(オーバーシュートして)から戻るカーブを「何年も前からずっと使っている」

オーバーシュート

※3:オーバーシュート・アンダーシュート
異なる音高に移動するとき、目標となる音高を瞬間的に行き過ぎる区間。この区間が長過ぎたり、大きくし過ぎたりすると所謂"音痴"にできる。

画像9

図の出典


・ パラメータ「Dynamics」の編集

「静かな曲はダイナミクスを大事にしないといけないと思っている」

「ノートにインパクトを与えるために、ピッチカーブが上昇する直前の区間で  Dynamics(音量操作)を下げている」

ピッチ&ダイナミクス

ピッチの上昇・下降にあわせて Dynamics も描き込んでいるようだ。
私にはトレモロ効果が付与されているように感じられた。

トレモロとは、ある1つの音、もしくは距離のある2つの音との間を、何度も素早く反復させる奏法のことを指します。トリルとは言葉も演奏法も似ていますが、実はちょっと違います。隣り合った音との反復であるトリルに対して、トレモロは、同じ音か、隣り合わない音との反復を意味します。
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その52


■cillia さんへのインタビュー(超訳)

Q1. いつから楽曲制作をはじめたか
A. カバーは11年前から オリジナル曲は2年くらい前から
音楽の知識がないので勢いでやっている。
始めたときは高校生。自分の声だと出来ないカバーがたくさんあった。VOCALOIDなら出来るのではないかと思って始めた。

Q2. 動画投稿サイトに初めて投稿したときの気持ちは
A. 誰も見てくれないと正直思った

Q3. 動画投稿サイトのコメント欄はみていたか
A.全部見てます オリジナル曲は緊張して見ています
 カバーは自分が本当に好きな曲をカバーしているので、頑張ったところや好きなところで好意的なコメントが付いていると本当に嬉しい。「仲間だー!」と思う。一緒に楽しんでいます。

Q4.  一番嬉しかったエピソードは
A.初めてのオリジナル曲を投稿したとき、好意的なコメントが付いたこと

Q5. 苦労したところは
A. たくさんある。曲を作っているとき一番迷うのは歌詞。毎回苦しい

Q6. 歌声合成ソフトの調整テクニックはどのように磨いてきたのか
A. 7年前(?)からVShifter(※4)を使って好きな歌い方のピッチのラインを表示できるようになった。当時そのラインを自分の作品に取り入れようとしていた。イラストの練習と結構同じ。
様々な歌手の歌い方を取り入れて、何年か掛けて今のスタイルになった。

※4:現在のVocalShifterのこと
参考:Vocal Shifter ビギナーズ・ガイド

Q7. オリジナル曲を作るときの歌詞や曲のアイデアは日常生活のどんなところで浮かんでくるのか
A. 最初からアニメのシーンのようなものが頭に浮かんできて、そのイメージに合わせようと作っています。初のオリジナル曲「Scattered Glass」(2019.11)はガラスが落ちているようなイメージがあって、そこからDAWとかキラキラな音を入れようと思った。

Q8. オリジナル曲で思い入れが深い曲や印象深い曲はどれですか
「Scattered Glass」自分の過去の思い出を込めた曲

Q9. 初音ミクをテーマにして何か創作したいものはあるか
A. いつかLive2Dを使って初音ミクのPVを作ってみたい、動かしてみたい

Q10. 他の人が作ったボカロ曲は聴くのか
A. 最近は結構忙しくて聞けていないが、何ヶ月は毎日ランキングを見て新しい曲を探していた

Q11. ファンにメッセージを
A. 応援してくれているみんな本当にありがたい。永遠に応援してほしい


■cillia さん情報

youtube
ニコニコ動画
Soundcloud
Twitter
Patreon

ニコニコ動画:黒田とCilliaのVOCALOID4ゆっくり調教(2015.1)
ニコニコ動画:黒田とCilliaのVOCALOID4ゆっくり調教vol.4(2015.4)
夏代孝明の作品にVOCALOID Editerとして参加


■ピッチカーブ編集の詳細な分析

ピッチカーブがビフォー・アフターでどの様に変化したか解説していこうと思う。すこし大変な作業になる為、暫時更新になることと、ここから先は有料としたい。尚、2021年11月7日公開時点では動画リンクくらいしか無いので、覚悟して購入してほしい。繰り返すが、このnote記事を応援したい人だけが購入してほしい。

※更新があった場合は都度通知されます。

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