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初音ミクNT非公認攻略ガイド その4

最終更新日:2021.2.9
このnoteに書かれていること
・ベタ打ち〜Piapro Studio NT内での作業様子(3)
 └Growl(がなり声)、裏声
・繋がった音の切り方
・有声音と無声音の基礎知識

■作例

今回は遂にAdo「うっせぇわ」のサビを初音ミクNTでカバーしていきたいと思います。それでは作例はコチラ↓

(解説するのは歌パートのみです)

この解説は、2020年12月25日にリリースされた
・Piapro studio NT v3.0.1.5
・音声データベース v1.0.0.4
で解説しています。

前回までの内容

その1 主な内容
・既存楽曲の歌を耳コピするための事前準備
 └楽曲データを読み込み、テンポを合わせ、ループ区間を設定
・オーディオファイルの書き出し

その2 主な内容
・ベタ打ち〜Piapro Studio NT内での作業解説(1)
 └人の歌声のピッチを観察
・歌詞入力〜子音と母音について解説

その3 主な内容
・ベタ打ち〜Piapro Studio NT内での作業様子(2)
 └ ポルタメント、ヒーカップ唱法、Voice Color
・ビブラート
・ノート末尾に飛び出る謎の灰色部分の正体(自動接続)

■出だしの「はぁ゛ぁ゛ぁ゛」を作ろう

まずピッチカーブからご覧ください。直線ツールで書きました。

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発音し始めにオーバーシュート気味に一瞬うわずったあと、一旦ノートの半音したまで下降、その後直線的かつ緩やかに上昇、語末に急激に上昇、と打ち込んでみました。
なお、この次に「う」という母音が近い位置にあり、初音ミクNTが自動的に音を繋げてしまうため、音を切り離す必要が出てきます。
その方法についてはこのnoteの下の方で解説します。

・Growl(グロウル、がなり声)を入れてみよう

グロウルってなんだろう?実際にどんな音?と思うじゃないですか。そこでスティービー・ワンダーの名曲「As」やクリスティーナ・アギレラの歌を聴いてみましょう。下の動画の0:14から。

しかしこの人達どういう"のど"してるんですかね...(凄

初音ミクNTでGrowl(がなり声)を有効にするには
Voice Driveの文字の左側にある丸いボタンを押し"青く点灯"させ
→グロウルの種類を選択
→Effect Level(エフェクトレベル)を押し、
出てきたオートメーショントラックにドットを打ち込みます。

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今回は荒々しくも気品があるPop Growl2を選んでみました。

こうした音を汚すエフェクトは経験上あまり強く掛けすぎると音質的に良いことがありません。私の場合、強いところで70%、それ以外は50%以下にして、聞きながら調節するのですが、初音ミクNTから歌声を書き出し、DAWで声を大きくした際に「アラ」が目立つようになるのを見越して甘めに設定するようにしています。


■サビの「裏声」?をつくろう

「うっせぇ〜」の「せぇ〜」について

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とあるボイストレーナーによると「せぇ〜」の部分は「裏声」らしいのですが、そもそも「裏声」とは何でしょうか?
ファルセットでしょうか?
頭声(とうせい、ヘッドボイスのこと)でしょうか?
ベルカントでしょうか?
「裏声」は男声に使う言葉で、女声には使わない?

まったく古今東西ボーカルトレーナーの使う言葉はいい加減なものが多くて困りますね。

「通常の発声よりも純音に近い声」という説明もよく見かけます。
声帯にある声帯筋が関与せず、その外側の声帯縁(粘膜上皮・ラインケ腔・声帯靭帯からなる層)しか振動しないため、声門閉鎖期がない→声門開放率が大きく、純音に近づくということらしいです。

また、息の成分や共鳴の具合で「裏声」と呼んだり呼ばなかったり、芯が有るだの無いだの、本当によくわかりません。

様々な話を総合すると「裏声」と呼ばれる声色の特徴は「基音付近が強く、上音が"いい感じ"に弱い、フルートのような音」のようです。

〈補足〉基音・上音・倍音とは
自然界の音は沢山の異なる周波数の純音が合わさった複合音として表すことができます。下のグラフ(スペクトログラム)は各純音の強さを縦軸で、各純音の高さを横軸で、時間変化を奥行きで表したものです。
歌声や楽器といったピッチの感じられる音では、このグラフの一番左側にあるような山を基音、それより右側を上音と呼びます。上音の中でも基音の周波数の整数倍にあたる山を倍音と呼びます。

スライド2


今回は「裏声」らしい音を目指してパラメーターの組み合わせ(E.V.E.CのSoftやVoice Voltage、Super Formant Shifter、Note Gain)をいくつか試してみましたが、うまく作り出せずに諦めました。
ひょっとしたら今後配信が予定されている追加DB「Whisper+」「Dark+」が「裏声」に合うのかもしれませんね。ちょっとだけ期待しましょう...。

・ピッチの動きで「裏声」らしく聴こえる?

さて「裏声」というと音色だけの問題として扱われることが多いように思いますが、実はピッチカーブの問題でもあるように思います。

このツイートの右上Aのグラフ、声がひっくり返るところでピッチが急上昇していますね。Bのように滑らかに声区(ボイスレジスター)を推移させられないポップス歌手は多いですし、女声の場合はピッチカーブを急上昇させるだけで「裏声っぽい」と認識された経験があります。

というわけで、今回の作例では音色の作り込みは諦めたものの、ピッチカーブでそれらしさを作る方向で打ち込んでみました。

スクリーンショット 2021-02-09 18.41.02

もうひとつ、初音ミクNT(Original)のような声質でピッチの高い声を出したとき、ビブラートによる音色変化が"それっぽさ"を醸し出します。下の動画のようなビブラートDepth 40%以下、ビブラートRate 70%の設定を是非試してください。(途中からビブラートが掛かります)


■Consonant Rate の設定

画面下に設定した値を表示しておきます。

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Consonant Rate は数値が高いと子音の区間が伸び、低いと狭まります。上の図で行くと、「せ」は126%と長く、「わ」は47%と短くなっています。
「わ」は手前の「せ」の母音をしっかりと伸ばすために子音区間を短くしました。ちなみに「う」は母音なのでConsonant Rate は操作できません。

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初音ミクNTはVOCALOID時代と比べて子音区間を縮めることが多くなりました。これは初音ミクNTがVOCALOIDよりもいわゆる滑舌(かつぜつ)を良くしようとして、つまりハキハキと歌うように予め子音区間が長めに調整されているためだと思われます。(良いか悪いかは別として)

最後に有声音の無い[ s ]の子音単体ノートを置いて、母音の無声化した「す」を再現してみました。

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やり方は「す」の歌詞入力済みノートをダブルクリックして下段のボックスの母音[M]を削除するだけです。この場合、子音の発音するタイミングはノート内の範囲となります。通常のノートの状態、つまり置かれた位置より手前に子音が発音される状態ではないので注意しましょう。


■その他、各種パラメーター設定

Super Formant Shifter の設定

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選択されているノートを-60%にしています。これは好みの問題かもしれませんが、-60%付近で声がガサつかず艷やかさが付け足される気がしています。音の高さや発音にもよるのでしょうけれど......

Voice Voltage の設定

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60%~70%の範囲で操作しています。音高やSuper Formant Shifter などの音色の兼ね合いで値を決定しましたが、Voice Voltage を上げてしまうと声がガサついたりギラつく事があったので難しいですね。

■完成

こちらが完成したサビのボーカル(ソロ)になります。


■〈特集〉繋がってしまった音を切る方法

作例でも冒頭「はぁ゛ぁ゛ぁ゛」の後に「うっせぇ」の「う」が近くにあって、母音「あ」と「う」が近いため、そのままだと初音ミクNTが自動的に音を繋げてしまうという場面がありました。

このような場面で音を区切る方法を5つ紹介します。

1.[Sil] や [Asp] といった特殊なノートを挟む【無音】
2.Note Gain を-100%にした母音ノートを挟む【無音】
3.ブレス(ノート)を挟む
4.Dynamics(ダイナミクス)をゼロにする【無音】
5.Breathiness(ブレジネス)を高くする

1.Sil と Asp

発音記号[Sil]は促音(小さな「っ」)を歌詞入力すると出てくる記号で、無音を挿入するノートです。おそらくSilence(サイレンス)が由来なのだと思います。

発音記号[Asp]はVOCALOID時代の裏コマンドで、これも無音を挿入するノートです。こちらは言語学でいう気音(きおん)を指す「Aspiration(アスピレーション)」から来ているのではないかと思われます。

この2つはどちらも無音を挿入する点は共通しているのですが、異なる点があります。それがこちら↓

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Sil : 近いノートのピッチに影響なし
Asp : 近いノートのピッチを引っ張る

なお、SilやAspでノートやフレーズ同士が繋がっていても、またノートが自動接続される間隔内であってもグループ化されません。よって、ピッチ操作で切り離しておきたいスキマにはSilやAspを置くと安全です。
(面倒ですけど)

2.Note Gain を-100%にしたノートの活用法

SilやAspの代わりに、Note Gain を-100%に設定したノートを挟んでも無音を挿入できます。この手法には、下の図のように違う母音を挟むことで、先行ノートの末尾付近に一瞬だけ母音の中間音を付け足せるという特徴があります。(図でいくと「あ」と「え」の中間)

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語末に英語などでよくある二重母音のニュアンスを付け足すこともできます。

余談:VOCALOID時代に「?」という発音記号(母音の語尾を声門閉鎖したときのように変形するコマンド)がありましたが、初音ミクNTにその発音記号を打つとバグる(母音が反転したうえノートオンより前に飛び出る)ので、正直どうしようかと思っていたところでした。

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それがNote Gain -100%ノートで解決(同母音を設置)できそうですし、上述したような二重母音や母音の脱落もVOCALOID時代のようにやむを得ず母音を無声化する裏コマンドで乗り切るようなことはせずに、Note Gain -100%のノートでスマートに解決できそうでホッとしました。

3.ブレスのノート

歌詞入力か発音記号に [br1]~[br5]と書くことで5種類のブレスが出せます。

特徴
・近接ノートのピッチを引っ張る
・ノートの音高は音色に影響なし
以下パラメーターが有効
Attack Speed
Dynamics
Breathiness
Super Formant Shifter
Voice Voltage

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#初音ミクNT の新パラメーターAttack Speed、ブレスに"だけ"はちゃんと作用することを発見しました!

マニュアルに書いてある「母音」には全くと行っていいほど作用していませんが...

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4.Dynamics(ダイナミクス)

「声の抑揚を調整する」と公式マニュアルに書かれているDynamics(ダイナミクス)ですが、実際には抑揚というより単に音量ボリュームの上げ下げ程度しかできないパラメーターです。

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厄介なことに、こうしたオートメーショントラックで操作するようなパラメーターは、ピッチと違ってノートの移動・サイズ変更・コピー&ペースト等に連動することはありません。ノートを変更したらいちいち手で直す必要があるのです。

そのためダイナミクスで音を切るのは管理の面から基本的におすすめできません。それでも優れた点がひとつあります。

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それは緩やかに音を小さくするなど、減衰のカーブを自由に作ったり速度を調節できる点です。これは他の方法では実現できません。

5.Breathiness(ブレジネス)

今回の作例では音の区切りを完全な無音ではなく、多少息漏れしている音も欲しかったので、Breathiness(ブレジネス)を使って、喉からの声を消し、区切りをつけました。

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Breathiness(ブレジネス)は、上げていくとヒソヒソ声(無声音)になるパラメーターです。このパラメーター、中途半端に使うと声がガサガサして、しかもそれがあまり綺麗ではないため、思い切って喉の声が消えて息の音(無声音)しか出ないところまで一気に上げるのが良いと思います。


■〈特集〉有声音と無声音

初音ミクNTのパラメーターBreathiness(ブレジネス)で操作することになる、有声音と無声音について解説します。

まずは実際の音を確認してみましょう。

動画の前半は有声音、後半は無声音です。

有声音とは声帯という"のど"にある器官の"ふるえ"をともなう音のことです。初音ミクNTにおいては明瞭なピッチ情報を持っているので、ピッチカーブ編集でわかりやすい変化を起こします。
また、肺からの呼気(気流)の音もきちんと鳴っており、声帯由来の音に混じって声のキャラクターに影響を及ぼしています。Breathinessを0%から上げていくと、声帯由来の音のボリュームが下がっていき、呼気の音が残される仕組みになっています。

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無声音とは声帯の"ふるえ"が無い音のことです。この音は初音ミクNTにおいても明瞭なピッチを持っていないため、ピッチカーブ編集をしても変化はほとんどわかりません。この無声音については「声」に含まないという考え方もあり、ややこしいのでここでは「音」と表現しておきます。

Breathinessを100%にすると、マニュアルには「ハスキーな声」とありますが、有声音はカットされて無声音だけになります。
※このことから初音ミクNT制作チームは無声音も"声"として扱っていることが伺えます。

・母音の無声化

Breathiness(ブレジネス)には、繋がった母音を切り離す以上に重要な役割があります。それが母音の無声化です。

母音については当ガイドその2で解説しましたので、そちらもどうぞ。

歌を作っていると、母音をしっかりと発音しないほうが"自然"だったり曲に"あっている"といったことが出てくると思います。
早口なフレーズや、外来語(カタカナ語)を初音ミクNTに発音させるときなどに母音を無声化させる処理が必要になるでしょう。

日本語では、カ行音・サ行音・タ行音・ハ行音・パ行音の子音が無声子音です。母音が聞こえにくくなるのは、「き・く」、「し・す」、「ち・つ」、「ひ・ふ」、「ぴ・ぷ」の後ろにカ行音、サ行音、タ行音、ハ行音、パ行音が連続した場合です。たとえば、 「すき(好き)」 「きく(聞く)」 「くさ(草)」 「つき(月)」 「した(下)」 などの単語の中の、無声子音に挟まれた母音は無声化して聞き取りにくくなります。

また、これらの音が文末に来たときも無声化が起こりやすく、特に「〜です」の「す」、動詞の「〜ます」形の「す」は普通無声化します。ただし、無声化が起こる環境にある母音でも、その母音がアクセント核を持つ場合は無声化が起こりにくくなります。たとえば、 「笛を吹く」 などの 「ふ(高)・く(低)」 は「ふ」にアクセント核が来るので、無声化が起こりにくくなります。一方、 「洋服」 の 「ふ(低)・く(高)」 は「ふ」にアクセント核がないので、無声化が起こりやすくなります。
引用:東京外国語大学言語モジュール

・閉音節と開音節

(保守的な)日本語は音節(ひとまとまりと感じられる連続した音)が基本的に子音+母音となっており、語を母音で終わらせる「開音節(かいおんせつ)」が多くあります。

一方、日本語の変化に敏感な作詞家・作曲家の手によるポップス歌謡やラップには、子音連続や、語を子音で終わらせる「閉音節(へいおんせつ)」という英語などによく見られる言語のふるまいが取り入れられています。

そうした閉音節化しているような日本語の歌詞に対応するには、今のところ下記の方法が有効です。
・子音単体ノート(母音の発音記号を除去)
・Dynamics で母音部分を 0%に
・Note Gain -100%ノート(適宜 Consonant Rate 調節)
・Breathiness 100% で母音部分を無声音化

↑動画の前半は「ポップス」の「プ」と「ス」を母音で終わらせる開音節で発音したもので、後半はそれを子音で終わらせる閉音節で発音したものになります。「プ」はNote Gain -100%、「す」は子音単体ノートです。



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今回の内容は初音ミクNTを扱う上で、マニアック過ぎて誰にも見向きもされないバグを利用したちょっとした裏技をご紹介します。これを初音ミクNTユーザー以外が知ったところでなんにもなりませんし、ユーザーが知ったとしても......
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