「家ある子」3月10日公演『Orange days』脚本


姉と弟。大学3年と高校2年生 

姉がこたつに入ってみかんを食べている
「ピンポーン」
姉、下手に行く

姉「あ、おかえり」

姉に続いて弟も部屋に入る。

姉「さむい?外」
弟「ううん。別に。」
姉「今日東京寒いよ。どう、姉ちゃんの部屋」
弟「別に。汚い」
姉「は?きれいだわ」
弟「あ~~~疲れた~~~!(こたつに入ろうとする)」
姉「ちょっと手洗ってから座ってよ!きたない」
弟「(こたつに入って腕枕をする)は~~~~」
姉「ねえ、手!!ねえ!」
弟「東京人いすぎ!!」
姉「ねえいいから、手!!」
弟「も~わかったようるさいな~~~」

弟、しぶしぶ上手に手を洗いに行く。姉、こたつに入ろうとして紙袋に気づく

姉「なにこれ」

紙袋の中を見ようとすると弟が戻ってくる

弟「ちょっと見んなよ勝手に!!」
姉「いいじゃん」

弟、姉から紙袋を勢いよく取り上げる。取り上げた後、箱と説明書のような紙を取り出し読み始める。

姉「ていうかさ、手洗うの早くない?」
弟「…なんで、いいじゃん別に」
姉「絶対洗ってないじゃん」
弟「洗ったよ」
姉「石鹸付けた?」
弟「ああ(読むのに夢中)」
姉「絶対水こうやってちょちょってつけただけじゃん。」
弟「…」
姉「もっかい洗って来てよちゃんと」
弟「やだよ、洗ったもん」
姉「は~~考えらんないわ。東京めちゃくちゃ汚いからね?」
弟「…(読むのに夢中)」
姉「電車とか雑菌だらけだからね?つり革とか」
弟「つり革触ってないもん」
姉「空気が汚いの」
弟「…」
姉「は~~」

姉、みかんを食べ始める。ちょっと間。

姉「…それなに」
弟「…」
姉「ねえ」
弟「…」
姉「なにそれ」
弟「…部品」
姉「え?」
弟「自転車の部品」
姉「どこの部品」
弟「…ハンドルのところのグリップ」
姉「へー。どこで買ったの」
弟「別にいいじゃん」
姉「なんでよ」
弟「忘れた」
姉「忘れた?新宿?」
弟「ちがう」
姉「じゃあどこよ」
弟「だから忘れた」
姉「…は~~。いくらしたのそれ」
弟「…2000円くらい」
姉「2000円???え、自転車のグリップで2000円もすんの??」
弟「これ最新モデルのやつなの!東京にしか売ってないやつだから」
姉「え、お小遣いいくら持ってきた?」
弟「……1万くらい」
姉「じゃああと8000しかないじゃん」
弟「…でも靴も買ったからもうない」
姉「え、靴も買ったの?どれ、見たい」
弟「やだ」
姉「なんで」
弟「汚れるじゃん」
姉「は?なにそれ。いいよじゃあもう」

ちょっと間。弟、一通り説明書を読み終えて満足する。姉はスマホを見ながらみかんを食べ続けている

弟「よし(説明書と箱を丁寧に紙袋にしまう)」
姉「…よかったね」
弟「ねえ、のど乾いた」
姉「…」
弟「ねえ、なんか飲み物」
姉「…」
弟「…レッドブルある?」
姉「ない」
弟「じゃあなんでもいいから、ねえ」
姉「…」
弟「は~無視か」
姉「あーもううるさいな!!!」

姉、ティファールで湯を沸かしに行く。弟、その間にもう一つの紙袋から靴を取り出し、こたつの上にのせて靴ひもをいじり始める。

姉「(戻ってきて)おい!!!!」
弟「え?」
姉「いや、靴!!!のせないでよこたつに!!!」
弟「え、いいじゃん新しいんだから」
姉「考えらんないわ!」
弟「待ってすぐ終わるから」
姉「それ買ったやつ?」
弟「うん。」
姉「どこのブランド?」
弟「オニツカタイガー」
姉「へー。いくら?」
弟「……1万5千くらい」
姉「…予算オーバーじゃん」
弟「大丈夫多めに持ってきたから」
姉「…え、今日買い物しただけ?」
弟「ちがうよ。大学とかも行ってきたし」
姉「大学?あ、見学か。えらいじゃん」
弟「別に」
姉「どこ行ったの」
弟「なんで、どこでもいいじゃん。」
姉「なんで教えないのよ、行っただけだからいいじゃん」
弟「えー?……東大とか」
姉「すご!あの赤門のところ?」
弟「うん。なんかインタビューとかしてた」
姉「あーたまにテレビでやってるね。こうも受けた?」
弟「受けないよ、なんでよ」
姉「あそっか、東大生にしてんのかあれ」
弟「そうでしょ。」
姉「ほかどこ行ったの?」
弟「いいじゃんどこでも」
姉「教えてよ」
弟「えー?」
姉「てかさ、こう大学行くの?」
弟「……わかんない」

ちょっと間。え
姉「あ、沸いた」

姉、マグカップにお茶を注いで持ってくる。弟は靴紐に熱中し続けている

姉「お茶、ここ置いとくよ?」
弟「うん、ありがと」

弟、何気なくお茶を飲もうとする

弟「あっっっっっっつ!!!!!!!!!!」
姉「え?あ、ごめん」
弟「シー、シー(熱すぎて変な顔で変な声を出す)」
姉「え、そんなに熱い?」
弟「あっついよ!!これ何??」
姉「お茶」
弟「あっっつ…」
姉「そんなに熱がることある?ティファールよ、ティファール」
弟「飲んでみればいいじゃん」
姉「うん。……あっっっっっつ!!!!なにこれ!」

2人でシーシーいう。姉ちょっと笑う。

弟「ねえアイスない?」
姉「夏に買ってたぶん腐ってるやつならあるよ」
弟「は~~」
姉「あ、ちょっと大丈夫になった。ねえ飲んでみ」
弟「いい後で飲む。……よし」

弟、靴ひもを結び終わり紙袋にしまう。姉は横になり雑誌を読み始める。

弟「ねえテレビ見ていい?」
姉「うん」
弟「(少しあたりを見回してから)リモコンどこ?」
姉「え?そっちにない?」
弟「ない」
姉「絶対あるよ」
弟「(立ち上がって探す)ない」
姉「…(雑誌に夢中)」
弟「(姉の近くに立って)ねえ、どいて」
姉「ん?」
弟「リモコンないから、どいて」
姉「こたつの上にないの?」
弟「ないから早くどいて、一回」
姉「え~めんどくさい」
弟「ねえテレビ見たいから!早く!(姉をちょっと蹴る)」
姉「いたいいたい、は~もうわかったよめんどくさいなあ」

姉、しぶしぶ立ち上がる、姉が寝ていたところにリモコンがある

姉「あ、あった」
弟「ほらあったじゃん」

弟リモコンを取り、目の前のテレビをつける(テレビは客席側)。こたつに肩ひじをつきながらザッピングをする

姉「……あ!!!今日Mステじゃん!!!!チャンネル!!5!!!やばもう始まってる!!早く!!!」
弟「待って、うるさいな~」
姉「ねえ!!早く!!Mステにして!!ねえ!!!」
弟「待って、え!?バナナマンのやつやってんじゃん!(目が輝く)」
姉「はやく!!録画してないから!お願い!」
弟「待ってこれあっちで映んないから!やった見れた!!」
姉「ねえリモコン貸してって!!」
弟「待って、ちょっと待って」
姉「ほんとにお願い録画してないから!!ねえ!」
弟「誰出んの」
姉「嵐」
弟「嵐なんていつでも見れるじゃん!」
姉「見れないから!!今日スペシャルなの!(こたつ越しにリモコンを奪おうとする)
弟「待って待ってって!!今終わるから!」
姉「じゃあいいじゃん早く!」
弟「待って今終わる!」
姉「終わんないじゃん!これも8時からでしょ??」
弟「知らない」
姉「8時からだから!ねえお願い!」
弟「嵐どうせ最後じゃん」
姉「オープニングトークがあるでしょうが!!!!ねえマジで貸してほんとに」
弟「待って」

姉、少しの時間耐える

弟「あはははは、へ~~。…はい、いいよ」
姉「(リモコンをぶん取りチャンネルを変える)……終わってる…」
弟「どうせYoutubeとかで見れんじゃん」
姉「終わった……最初が面白いのに……。は~~~~~(こたつに横になり嘆く)」
弟「…チャンネル変えていい?」
姉「…8時半くらいまでね」
弟「あと10分しかないじゃん」
姉「は~~」

弟、適当にチャンネルを変えてテレビをぼーっと眺める。
時々姉のほうをちらっと見たりする。
しばらく間。

弟「……お母さん来月だって」
姉「……出てくの?」
弟「うん」
姉「…そっか」
弟「…うん」
姉「もともと来月だっけ」
弟「いや、決まってなかったけど、決まった」
姉「そっか。…お母さんなんか言ってた?」
弟「別に。」
姉「めぐ電話くれないなーって言ってた?」
弟「別に。」
姉「そっか。」
弟「…うん」

ちょっと間

姉「どうすんの?」
弟「何が?」
姉「大学受験」
弟「…」
姉「あっち残るんだったらさ、…お父さんと二人じゃん。別にいいの」
弟「…」
姉「お母さんが札幌行くんだったらさ、そっちでもいいじゃん」
弟「北海道はやだ」
姉「なんで」
弟「…寒いから」
姉「そんな変わんないでしょ」
弟「寒いのほんとにやだもん」
姉「じゃあ東京来る?」
弟「……」

ちょっと間

弟「は~~~、もう駄目だ(こたつの上に顔を伏せる)」

ちょっと間

姉「…そういえばさ、この前お笑いの大会あっったって言ったじゃん?…ねえ聞いてる?」
弟「(伏せたまま)うん」
姉「6位だった」
弟「へー」
姉「8組中でね、6位」
弟「…弱いじゃん」
姉「弱いとかないし。ウケたんだけどね、…あんまウケなかった」
弟「ふーん」
姉「早稲田のトリオの人たちが優勝したよ」
弟「ふーん」
姉「…全然だめだったな…」

ちょっと間
姉「…こう」
弟「…ん?」
姉「いろいろごめん」
弟「…」
姉「忙しかったっていうかさ、その、お母さんと全然連絡とってなくてさ、」
弟「…」
姉「離れてるからっていうかさ、その、…逃げたっていうか」
弟「…」
姉「こうがいるからさ、なんか、お母さん大丈夫かなって、思ってたんだよね。たぶん。ほんとにやばかったらさ、電話くれるかなってどっかで思ってたんだよね。お父さんもさ、こうのこととかはあんま言ってこなかったしさ、その、…ごめん」 
弟「…」
姉「めぐがこっち来る前にさ、二人がけんかしてああいうことになって、お父さんが出てけって言ったときにさ、お母さんが出てって、こう出てかなかったじゃん。あん時、…なんか嬉しかったんだよね。ずっとさ、こうがどう思ってるのか分かんなかったから。それをさ、お守りみたいにずっと持ち続けちゃったんだよね。お守りって1年しか効果ないのに」

ちょっと間

姉「こう」
弟「…」
姉「…泣いてる?」
弟「…」
姉「我慢、してたらごめん。…帰りたくなかったらさ、無理して帰んなくていいんじゃない?」 

ちょっと間

弟「……スー、スー(寝息を立てる)」
姉「こう?」
弟「…スー、スー」
姉「は~~~~、…寝てたし。だめだ。(ちょっとうなだれてから)おなかすいたな」
弟「…スー、スー」
姉「こう、ねえ、こう!」
弟「…スー、スー」
姉「は~~」

姉、弟のほうへ行き、わき腹をつかむ

姉「こう!!」
弟「わっ!!!!も~~~びっくりした~~。何?」
姉「夕飯食べにいこ」
弟「え~~もう疲れた」
姉「いいじゃん貴重だよ?出前でもいいけど」
弟「じゃあ出前でいいや」
姉「寿司かピザ」
弟「う~~~ん、…外は何がある?」
姉「サイゼと吉野家と、あと五右衛門パスタ」
弟「サイゼって何」
姉「サイゼリヤ」
弟「何屋?」
姉「イタリアンレストラン。ガストみたいなやつ」
弟「へー」
姉「どこがいい?」
弟「…ラーメンは?」
姉「ラーメン屋ない」
弟「え、ないの?なんにもないじゃんじゃあ」
姉「うるさいな、じゃあいいよカップラーメンで」
弟「じゃあどこでもいいや」
姉「は~~。サイゼでいい?安いし」
弟「うん、別にいいよ」
姉「別にいいよって何」
弟「…別に」
姉「行くよ、ほら、上着来て寒いから」
弟「うん」

2人とも立ち上がって上着を着る

姉「あ、そのみかんの皮ごみ箱に捨ててね、きたないから」
弟「…あ、うん。」

2人とも下手にはける。

おわり


                                                                 (作 大坂理冴)

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