歩くのが楽しくなる本-赤瀬川原平『超芸術トマソン』-
この記事は「2023 好きなこと・ものを書く Advent Calendar 2023」12月15 日分として書いたものです。
はじめに
はじめに
超芸術トマソンに関して初めて知ったのは中学生の時だったと思う。私が通っていた中学校では授業とは別に追加で受講できる講習があった。その中に尊敬している先生の(科目としては)国語の講習があったので受講した際にこの本について知った。ちなみになぜその先生を尊敬していたのかというと私自身の性格を正確に(ダジャレではない)見抜いていたからである。その講習は学年をまたいで行われており、私の学年の参加者は私だけ(1/220)で全体で20人いないくらいだったとおもう。授業形式は普通とは異なり、かなり自由な形式のものだった。飲食はもちろん自由だし、席はコの字に並べられ、唯一あったルールは今まで座った席に座らないことだった。その講習では、漫画のコマ割りについて学んだり、映画や歌詞に関して分析を行ったりした。その中で紹介された本が赤瀬川原平の『超芸術トマソン』である。先述の講習の内容を聞いただけでこの本も面白そうだと思うことだろう(すくなくとも筆者はそう思う)。
赤瀬川原平について
赤瀬川原平(あかせがわげんぺい、1937年-2014年)は画家、作家である。前衛芸術だけでなく、マンガや小説を執筆するなど多方面で活躍した人物である。「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」という前衛芸術のグループを形成したり、「路上観察学会」を創設したりした。
『超芸術トマソン』
超芸術とトマソン
超芸術とは「芸術のようでありながら、役に立たなさと非実用性において芸術よりももっと芸術らしいもの」のことをいい、その中でも不動産に関わるものをトマソンという。細かい定義をしていても面白みが伝わらないと思うのでトマソンに関してその例を見ながら触れていこう。
例えば、写真①は一番上の階からその下の階には行けるが、ドアがないので入れないし、地上まで階段があるわけではないので地上に降りることもできない。つまり(その機能としては)まったく意味のない階段なのである。
続いて写真②を見ていこう。フリーの写真なので場所はわからないが公園かどこかにあるたった四段しかない階段である。この階段もここにある必要も意味もないものである。
繰り返しになるがトマソンはこういった「不動産に付着していて美しく保存されている無用の長物のこと」(p.26)を指している。もしかしたら皆さんも街中で見かけたことがあるかもしれない。他にもトマソンの例として、出てもそのまま落下してしまうようなところについているドアだったり(例:外壁についているが足場がない2階のドア)、何も守るものがないのに壁についている庇があげられる。
先ほどから繰り返し言っている「トマソン」という言葉だが、赤瀬川原平氏が名づけ、提唱したものである。少しひどい(かわいそう)と思うかもしれないが、なぜトマソンと名付けられたのか、以下がその理由である。
これはひどいけど笑ってしまう(笑)。今の時代なら、雑に言うとポリコレ的にアウトなかもしれないけど…。しかもその後には、
とある。ここまでくると確かにトマソンがその定義にぴったりすぎるなと思うし、それに感動しさえもする。トマソンの由来についてはここまでとして、本書を手に取ってみたくなるよう、トマソンの種類をいくつか簡単に紹介する(著作権の問題があるため残念ながら写真はなし。ぜひ調べてみてほしい)。
トマソンの分類
無用階段:写真①と写真②にようなもの。一番最初に見つけられたのが無用階段であり、「四谷の純粋階段」がトマソン一号である。
無用門、無用庇、無用窓、無用橋:ふさがれてしまった門、下に何もないのにある庇、ふさがれた窓、埋め立てられた川にかけられる橋など。
アタゴ:道路脇にある意味不明の突起物。愛宕山に向かう途中で発見されたためこのように命名された。
さいごに
この本の面白さは、「なんだこれ必要ないじゃん(笑)」という面白さだけではない。世の中には(機能的に)無駄だと思われているもの、必要とされていないものがある。でもそれは特定の価値観によって意味(価値)づけがされていることだということに気づかされるし、そのような気づきのきっかけはいたるところにあることに気がつかせてくれるところにこの本の面白さがあると思う。
冒頭の講習を通して、学ぶこと(「勉強」だけでなく、経験することも含む)を通して自分の中の価値観が変化することの楽しさを知ることができた。それがなければ、社会的な意味や経済的な価値だけで物事を測るつまらない人間になっていたかもしれない。この価値観の変化の楽しさを読者につたえたくて本書を紹介した。外出した際は(もちろん室内でも)トマソンのことを思い出して探してみてほしい。と、「いかにも」な学びの経験を書きながら、私は仕事の依頼をことわり社会への参加を延期している。
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