【本】ピーター・パレット編『現代戦略思想の系譜』(1989)ダイヤモンド社
1 本書について
ピーター・パレット編、防衛大学校「戦争・戦略の変遷」研究会訳『現代戦略思想の系譜ーマキャヴェリから核時代まで』(1989)ダイヤモンド社
原本は、Peter Paret,Makers of Modern Strategy:from Machiavelli to the Nuclear Age
2 要 旨
「クラウゼヴィッツは、戦略を、戦争目的達成のため戦闘ないしは戦闘を仕掛けるとの脅しを用いることと定義した。しかし、戦略は、広義には、国家の戦争政策を実施に移すため、その国のあらゆる資源を開発し巧みに掌握し、これを利用することとも解し得うる。
戦略を以上の広狭二つの意味で用いると同時に、本書には、ある一つの理念が一貫して流れている。つまり、戦争というものは歴史を通じて社会、経済、政治の不可欠の一部であるから、戦争だけを分離して研究するのではなく、つねにより大きな非軍事的文脈の中に位置づけて考察しなければならない、ということである。本書の執筆者の多くは、軍事史の研究者ではなく、外交史や政治史、思想史、科学史、文化史の著述で知られている。
本書の大きな特徴は、現代における戦略的課題は何かという視点から歴史をみていることである。マキャヴェリ、ナポレオン、クラウゼヴィッツ、モルトケ、さらにはマルクス、毛沢東など綺羅星の如く輩出した天才的戦略家の思索の跡を辿り、近世から第二次大戦後の核戦略に到るまでの戦争・戦略の推移を要約する。
戦争の諸現象はその過去を研究することでよりよく理解することができる。-これがこの本のメッセージの一つである。「戦争と平和についての理解の増大」という時間を超越した大義のために本書は捧げられている。
「その時代、その国に適する戦略を開発しえない国は滅ぶ」と言われる。現代の我が国の戦略を見出していくためには、まず、それぞれの時代のそれぞれの国の戦略がいかに形成され、その結果がどうなったか、について学ぶことが必要である。」(裏表紙より)
3 目 次
日本語版への序文
序文
Ⅰ 近代戦の起源
1章 マキャヴェリ ◉戦争術のルネッサンス
2章 一七世紀の「軍事革命」 ◉マウリッツ、グスタフ・アドルフ、レイモンド・モンテクッコリ
3章 ヴォーバン ◉戦争に及ぼした科学の影響
4章 王朝戦争から国民戦争へ ◉フリードリヒ大王、ギベール、ビューロー
Ⅱ 戦争の拡大
5章 ナポレオンと戦争の革命
6章 ジョミニ
7章 クラウゼヴィッツ
Ⅲ 産業革命から第一次世界大戦まで
8章 軍事力の経済的基盤 ◉アダム・スミス、アレグザンダー・ハミルトン、フリードリヒ・リスト
9章 エンゲルス、マルクスと革命・戦争・軍隊
10章 戦略のプロイセン・ドイツ学派 ◉モルトケと参謀本部の誕生
11章 モルトケ、シュリーフェンと戦略的包囲の原則
12章 デルブリュック ◉軍事史家
13章 ロシアの軍事思想 ◉西欧モデルとスヴォーロフの影
14章 ブジョー、ガリエニ、リョーテ ◉フランス植民地戦争の展開
15章 アメリカの戦略 ◉その発端から第一次世界大戦まで
16章 海戦史研究家アルフレッド・セイヤー・マハン
Ⅳ 第一次世界大戦から第二次世界大戦まで
17章 戦略家としての政治指導者
18章 火力に逆らう男たち ◉一九一四年の攻勢ドクトリン
19章 機械化戦争時代 ◉一九一四~一九四五年におけるドイツの戦略
20章 リデル・ハートとド・ゴール ◉限定責任と機動防御のドクトリン
21章 大空からの声 ◉ 空軍力の理論家たち
22章 ソ連戦略の形成
23章 ヨーロッパにおける連合国戦略、一九三九~一九四五年
24章 太平洋の戦争におけるアメリカと日本の戦略
Ⅴ 一九四五年以降
25章 核戦略の最初の二世代
26章 核時代における在来
27章 革命戦争
28章 現在および将来の戦略に関する考察
原註
文献解題
執筆者紹介
訳者あとがき
人名検索
4 本書の特徴及び意義ー「用兵思想史研究上の最重要書籍」
本書の意義について訳者は3点挙げている。
1.現代における戦略的課題という視点から歴史を見ている点
2.従来は通説として扱われてきた事項の再吟味、神話の打破がきわめて多い点
3.戦後四〇年間の欧米における研究動向・文献などの鳥瞰図としての意義
加えて本書では、各章において「軍事思想家が如何なる時代背景と彼ら自身の立場から思索し、後世に残るような軍事思想を編み出し、それが後世にいかに解釈され継承されていったのか」を詳細に解明している。
このことから本著は日本において出版されている全ての書籍の中で「用兵思想史研究上最も重要な書籍」であるといえる。
現在日本語訳は絶版し古書は高騰している一方、原本はkindle及びペーパーバックでも販売されていることから、日本においても再販及び電子書籍化を要望する。
5 本書の難点
1.古代及び中世における用兵思想史上の記述がない点
2.約30年近く前の書籍であり、記述内容がやや古い点
3.中東、アジア、アフリカ、南米における用兵思想史上の記述が限定的である点
このことから日本においても本書を補完する「日本における戦略(ないし用兵)思想の系譜」に関する書籍の出版が待たれる。