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My Timeless Favs of 2010's: Part 10

さてさてさて。やっと最後の10枚です。うわー。

91. Torba [Musica Convenzionale] (Edizioni Aaltra / 2019)

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Fragment Factoryより発表された[Musique Inconcrète]と対をなす形でリリースされた作品。対、というより本作の続編が[Musique Inconcrète]という関係みたいですね。本作と比較するとそちらはかなり「音楽的」で、僕の耳としてはミュジーク・コンクレート/コラージュ的な本作のほうが好みでした。クリアーな音の質感、ほどほどに混雑したあらゆる音たち。物音や人の声もあれば、楽器のような音(演奏っぽくはない)もある。それらがはっきり聞こえるときやすべて混ざり合って濁流のようになるときなどがあって、40分間とおして強烈な音響体験だった。

92. Walker, Harris, English [Walker Harris English] (Obsolate Future / 2017)

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Conor Walker、Thor Harris、Lawrence Englishによるトリオ作品(作品タイトルに合わせるため、ここではファースト・ネームを省略しました)。Derek Jerman(デレク・ジャーマン)監督の映画「Angelic Conversation(邦題: エンジェリック・カンバセーション)」かな?そこで音楽を担当したCoilにどことなく雰囲気が近いような気がした。作品としては(言い方が悪いけど)普通のアンビエントっぽく感じる。フィールド・レコーディングにきれいな音を重ねるというのは僕の耳にはある種のクリシェ的に響くので。ただ本作では珍しくダルシマー(エキゾチックな音のする弦楽器です。細かいことはWikiかなにかで)が用いられていて、たぶんその響きにCoilとの類似性を感じた。もうJohn BalanceもPeter Christophersonも存命でないので新しい活動を見られないぶん、本作を聴いてこみ上げてくるものがあった。

93. 上原和夫 [イヴェント '73] (Edition Omega Point / 2012)

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試聴: Omega Point Website

Edition Omega Pointの作品は70年代とかの国内電子音楽作品が中心なので、これが12年リリースだとはこないだまで気付かなかった。本作ではタイトルのとおり73年のパフォーマンスの記録なんですが、はじめて聴いたとき1曲目(というより、パート1と言うべきなのかな?)の岩を穿つ音の強烈さに圧倒された。ガツン...!ガツン...!と静かに、でもはっきりと打ち付ける音。そこからさらに4曲目までさまざまな変化をしていくその展開も素晴らしい。その頃まだ僕は生まれていないので無理なのだけど、このパフォーマンスを観たかったなあ、なんて思ったり。ちなみにこれ、現場の音と録音をライブ・ミックスしているみたいなんですが、岩の音はどっちなんでしょうね?録音の問題で違いがわからないのだけど、そういった想像するのも楽しいです。

94. 河野円 [Inside-Out, Outside-In] (Hitorri / 2013)

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試聴: Hitorri Website

空のカセット・レコーダーを使用するという、ちょっと特殊な演奏家の河野さん。本作は'In'と'Out'と題された2曲の構成。音だけを切り取って聴いてみればSachiko Mさんなどとも親和性のあると言えそうなシンプルなトーンが、ゆらゆらとその表情を変えながら移ろっていく。この「ゆらゆら」という音の変化は、パフォーマンスの過程でレコーダーを動かしているからなのかなーと思う。こういった繊細な、でもしっかりとした音というのには強く魅了されてしまう。音のシンプルさも含め大好きです。最近はお忙しそうでなかなか演奏の機会がないけれど、またいつか出演の情報を見かけたら観に行きたいな。

95. 中村としまる & Martin Taxt [Listening to the Footsteps of Living Ones Who Are Still on the Ground] (Ftarri / 2017)

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中村としまるさんの演奏はこれまでに何回か観ていて、ノー・インプット・ミキシング・ボードの予測不可能性と戯れているその感じが楽しい。自分でも機械を使った演奏をするので色々な人の演奏を聴いたり観たりしているんですが、「機械」として操作するような人もいれば、「楽器(というか飼いならされていない動物?)」と格闘しているような人もいて、どちらも違った面白さがある。僕の目や耳で感じる範囲では、としまるさんは後者かなあ、と思ってます。少なくとも最近の演奏では。

本作はMartin Taxt(チューバ)とのデュオで、特に最後のパート'Okinawa'では激しい音のぶつかり合いが楽しめる。この時のとしまるさんの音はかなり「楽器」のような側面をもっていて、ディストーションがかったような音はもちろんなんですが、荒れ狂う獣か何かと戦っているような音の動きが(子どもみたく稚拙な表現だけど)純粋に格好いい。2000年ごろのとしまるさんの音には静謐な雰囲気があってAxel Dörnerとの演奏[Vorhernach]とか大好物なんですけど、近年のノイズっぽい爆音っぽい感じはアグレッシヴな共演者との相性がすごく良いように感じて、本作でのチューバとの掛け合い(?)はそのなかでも特にいかつい。(あ、今気付いたけどなんだかチューバの話がないがしろになってるな、すみません…)

96. 増渕顕史 [R, R, R] (Headlights / 2018)

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試聴: M1('Resonate #1 ')

数の問題から50枚選ぶ段階では泣く泣く外した本作。Zoomin' Nightから発表された作品でのインタビューではMorton Feldmanの話が出てきているけれど、たしかに本作を聴くとその音楽性としての共通点を感じる。それは別にイミテーションとかそういったものではなくて、演奏のなかの「無音の部分」に対する空間のとらえ方とか、音の残響に対する感覚とか。増渕さんの落ち着いた演奏にはそうした一音一音をものすごく大事にする姿勢がうかがえて、聴こえてくる音すべてが気持ちいい。息をのむような緊張感という感じはないのだけれど、静かな音の海のなかに少しずつ沈み込んでいくような感覚は他の演奏家にはなかなか出せない特徴だと思ってる。

97. 森重靖宗 [Ruten] (self-released / 2017)

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正直に言えば、本作を前半こと先日のベスト選に入れていなかったことに気付いたのが理由で残りの50枚を選ぶことにしたのでした。この作品は僕のなかでは結構重要というか、今の国内における即興演奏のフィールドにおいて森重さんの演奏にはどこにも属さない、というか、他の誰とも違うといった特殊さを感じていて、それに惹かれて何回か演奏を観に伺ったり、デュオでの演奏を企画したりしてたりします(デュオでの演奏会はコロナで延期となっていますが、来月以降どこかでリベンジしたいところですね)。チェロひとつだけで(あるときはピアノだったり他の楽器だったりしますが)、本人の内面にある感情が溢れてくるかのようで気迫があります。YouTubeには映像がいくつかアップされているので、せめてそれを観るだけでも...!

98. Various Artists [Traces Two] (Recollection GRM / 2015)

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試聴: A1(Dominique Guiot 'L'Oiseau de Paradis') / B1(Rodolfo Caesar 'Les Deux Saisons')

70年代の電子音響作品を掘り起こして集めたコンピレーション作品。すべて未発表だと思います。収録されている4曲すべてが尖っていて、そのあたりは60年代の電子音楽から感じられる「機械や手法もろもろ手探り感」みたいなものをやっと通り越えたこの時代ならでは(?)といった印象も。60年代の作品は結構「テープを切ったり貼ったり色々やってみました」とか「機械のツマミをいろいろいじってみました」みたいなものも多くて、大御所の作品でも好きになれないものがいくつかあったり。でも、本作に登場する4名は音にヴァリエーションがあったり緩急や展開をつけてみたりしていて、「こういうものを作ってみたい」という意思があるんじゃないかな、と感じた。この[Traces]のシリーズは3種類出ているけれど、個人的にはこの2番目が断トツで面白いと思った。

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あれ、98番目で終わっている?と思ったあなた。正解です。98枚で挫折しました...というのは半分冗談で(つまり半分は正解)、特別枠として入れておきたい2作品があったから。映画です。

99. Aleksei German 「Hard to Be a God」 (2013)

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アレクセイ・ゲルマン監督作品、邦題は「神々のたそがれ」。モノクロのなかで甲冑を着た人たちが登場する「地球ではないどこか」での、とある男の話。グロテスクな表現はないものの、どこを切り取って観ても悪趣味な雰囲気に包まれていて、観終わったあとの感覚はあまり快いものではないです。あらかじめ。

上のトレイラーを観ればすこし分かってもらえるかなと思うんですが、古い笛(のようなもの)を吹いたり、甲冑がキシキシ言ったり、人が牽く車があったりどぶのなかなどを歩いたりと、視覚的だけでなく聴覚的にも刺激にあふれた作品です。こうした「人の動き」と聴き手が判断するような音で物語がつくられている/表現されている映画をたくさん観たことは僕の制作にも大きく影響を与えたのではないかなと思います。[Ulysses]とかの作品にはフィールド・レコーディングで「物語」を作ろうという試みも含まれているので。

100. Lucien Castaing-Taylor & Véréna Paravel 「Leviathan」 (2012)

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「リヴァイアサン」。いくつか同名作品がありますが、ドキュメンタリーのほうです。北米の漁業船に同乗し、そこでの船員の活動や漁業の様子を捉えた作品となってます。非常に生々しい環境音(鳥や水の音、巻き上げ機などの機械音など)が常に鳴り響くものとなっており、余計な物語性がほぼないことも作品にとっていい作用をしたのではないかと思いました(途中、孤独な船員の様子をとらえたシーンがあったと記憶しているんですが、そういった部分は数少ない例外のカットです)。

本作は聴覚情報よりも視覚情報の刺激のほうが観るものを引き付ける要素として強いように思います。ただ録音も素晴らしいので、(本来こういうのは変ですが)目を閉じて本作を聴いたときに入り込んでくる情報量に圧倒されてしまうのではと思いました。

ちなみに本作で監督を務めるお二方はハーヴァード大学「感覚民族誌学研究所」の方々で、その詳細などについてはこちらから情報を手に入れることが出来ます。ご興味あれば。

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いやはや、自分でやっておきながら言うのもなんですが、やはり100枚というのは馬鹿ですね。こんなにもしんどいとは。一人で文字まで考えるなら2桁に抑えておいたほうがいいと思います。ではでは。

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