成人における慢性咳嗽と関連する脳の形態異常:前帯状皮質・左前頭葉灰白質萎縮

Chronic cough-related differences in brain morphometry in adults: a population-based study
Johnmary T. Arinze, et al.
CHEST Journal, Published:February 11, 2023
DOI:https://doi.org/10.1016/j.chest.2023.02.007
https://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(23)00187-3/fulltext

【背景】咳嗽過敏症患者では、咳嗽刺激に対する中枢神経応答が増大し、その結果、中枢の咳嗽処理系に不適応な形態変化が生じている可能性がある。
【研究課題】成人の咳嗽過敏症患者では、咳嗽過敏症に関係する脳領域の体積は慢性咳嗽でない患者と比較して異なるか?
【研究デザインおよび方法】2009年から2014年にかけて、人口ベースのコホートであるRotterdam Studyの参加者は、脳磁気共鳴画像診断を受け、少なくとも3ヶ月間毎日咳をしていると定義される慢性咳嗽の問診を受けた。FreeSurferソフトウェアを用いて、脳の局所容積を定量化した。文献調査に基づき、慢性咳嗽における脳機能活動の変化と過去に関連した7つの脳領域を同定し、検討した。慢性咳嗽と脳局所容積の関係を多変量回帰モデルで検討した。
【結果】研究参加者3,620名中9.6%(n=349)に慢性咳嗽が認められた(平均年齢68.5±9.0歳、女性54.6%)。慢性咳嗽のある参加者は、慢性咳嗽のない参加者に比べて前帯状皮質(ACC)体積が有意に小さかった(平均差:-126.16 mm3、95%CI、-245.67~-6.66、p=0.039)。ACCを除く他の脳領域では、咳の状態による体積の有意差は認められなかった。ACCにおける体積の差は、左半球でより顕著であり(平均差:-88.11 mm3, 95% CI, -165.16 to -11.06, p=0.025) 、男性でより顕著だった(平均差:-242.58 mm3, 95% CI, -428.60 to -56.55, p=0.011 )。
【解釈】慢性咳嗽者は、咳の抑制に関与する脳領域である前帯状皮質の体積が小さいことがわかった。


Structural and Functional Correlates of Higher Cortical Brain Regions in Chronic Refractory Cough
Eun Namgung, et al.
CHEST Published:April 29, 2022
DOI:https://doi.org/10.1016/j.chest.2022.04.141
https://journal.chestnet.org/article/S0012-3692(22)00884-4/fulltext

【背景】慢性難治性咳嗽は、心理的・社会的なQOLを著しく低下させる。抑制性コントロールの喪失は、慢性難治性咳嗽の根底にある中枢神経生物学的機序の可能性が示唆されている。
【研究課題】慢性咳嗽に関連した構造的・機能的変化は高次皮質脳領域で生じるか?
【研究デザインおよび方法】慢性難治性咳嗽患者15名と年齢・性別をマッチさせた健常対照者15名の脳における構造的および安静時の機能的変化を評価した。T1強調MRIに基づくvoxel-based morphometryを用いて全脳の灰白質体積を測定した。安静時機能的MRIを用いて,大規模な脳内ネットワークにおける内在的な機能的結合性を検討した.相関分析により、これらの脳の変化と咳の期間、重症度、および影響との関係を調べた。
【結果】健常対照者と比較して、慢性難治性咳嗽患者は、左前頭葉クラスターの灰白質体積の減少および左前頭頂部ネットワーク内の機能的結合の増強を示し、これらは咳嗽スコアの増大と関連していた。さらに、左前頭葉ネットワーク内の機能的結合の亢進は、咳の心理的・社会的影響の大きさと関連していた。左前頭葉灰白質体積の減少は、咳の持続時間の長さと関連していた。
【解釈】左前頭葉脳領域の構造的・機能的変化は、慢性難治性咳嗽の心理的・社会的影響および疾患持続時間に関与している可能性がある。我々の知見は、慢性咳嗽の認知的変調を標的とした介入アプローチの開発に新たな展望を与える。


原因なのか、結果なのか?

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