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MAC症治療にリファンピシン不要?

”MAC症治療にリファンピシン不要”という話を学会・講演会などで聞くことが多くなった。

Ingen, Jakko van, Wouter Hoefsloot, Véronique DartoisとThomas Dick. 「Rifampicin has no role in treatment of Mycobacterium avium complex pulmonary disease and bactericidal sterilising drugs are needed: a viewpoint」. The European respiratory journal 63, no. 5 (2024年5月2日): 2302210. https://doi.org/10.1183/13993003.02210-2023 .


マイコバクテリウム・アビウムに対するリファンピシンの最小発育阻止濃度分布を、マイコバクテリウム・ツベルクロシスおよび黄色ブドウ球菌のそれと比較したもの。黄色ブドウ球菌およびM.ツベルクロシスの判定基準値はそれぞれ0.06および0.5 mg・L-1である。データは[4-6]から引用。

現在のリファンピシン/エタンブトール/アジスロマイシン療法はマイコバクテリウム・アビウムコンプレックス肺疾患(MAC-PD)の治療期間が長く、毒性があり、治療成績もあまり良くありません[1]。結節性気管支拡張症と線維空洞性病変を合わせた メタ解析では、65%の持続的な培養陰性化率が報告されており、初期治療が成功した後でも30%の再発率が報告されています[2]。

MAC-PD文献では、リファンピシンやエタンブトールなどの従来の抗結核薬の細菌に対する感受性と臨床成績の間に見かけ上の不一致がしばしば報告されています[3]。しかし、最小発育阻止濃度(MIC)データ、薬物動態/薬力学(PK-PD)パラメータ、および治療成績のレビューから、リファンピシンに関してはそのような不一致はありません。3つの証拠から、リファンピシンはMAC-PDの治療で単に無効であることが示されています。この事実は、呼吸器科医、感染症専門医、臨床微生物学者、および非結核性抗酸菌(NTM)薬剤開発コミュニティーで広く認識される必要があります。


1)まず、リファンピシンのMICがマイコバクテリウム・ツベルクロシス、黄色ブドウ球菌、M.アビウム(図1)に対して明らかに異なることから、M.アビウム(MACの代表)に対するリファンピシンのMICは、黄色ブドウ球菌(0.06 mg・L-1)やM.ツベルクロシス(0.5 mg・L-1 [4–6])の臨床的判定基準を大きく超えていることがわかります。他の薬剤との相乗効果によりこの低い本来の活性が克服されるという説もありますが、その相乗効果を示した試験でも、リファンピシンのMICは0.5 mg・L-1を下回ることはなく、薬力学的ターゲットを達成できないことが示されています[7, 8]。この相乗効果の臨床的な意義は未だ証明されていません。

2)2つ目に、PK-PDの研究からもリファンピシンがMAC-PD治療に有効ではないことが示唆されています。最近、時間濃度曲線下面積(AUC)/MIC比が>197.3であることが、MACに対するリファンピシンの有効性を規定する指標とされました[9]。MAC-PD患者におけるリファンピシンの平均AUCは68.42 mg・h・L-1 [8]なので、リファンピシンの抗菌活性を発揮できるMACのMICは(68.42/197.3) 0.35 mg・L-1以下に限られます。しかし中央値4 mg・L-1 (図1)ですので、リファンピシンが有効となるには(197.3×4) 789.2 mg・h・L -1のAUCが必要になります。結核患者でも過剰用量の50 mg・kg-1でさえ平均AUCは571 mg・h・L-1 [10]と、そのレベルには達していません。相乗効果を考慮してもこの薬力学的ターゲットは達成できません[7、8]。リファンピシンが肺病変部位に蓄積したり、MACの生理的特性によりAUC/MICの目標値が達成できるかもしれないという期待は根拠がありません。実際、最近の中空繊維モデル試験では、リファンピシンの病巣部(上皮液)および細胞内薬物動態を考慮した場合、治療レジメンからリファンピシンを除いても抗菌活性に影響がないことが示されています[11]。

3)3つ目に、結節性気管支拡張症に対する2つの臨床試験で、中空繊維モデルの観察と同様に、エタンブトール/マクロライド2剤併用療法がリファンピシンを含む従来の3剤併用療法と同等の有効性があることが示唆されています[12, 13]。これらの試験では、細菌量の多い症例(空洞、塗抹陽性)で失敗リスクが高くなることも指摘されましたが[12, 13]、リファンピシン含有レジメンでも同様の傾向があります[14]。つまり、リファンピシンを除いたことによる結果ではありません。 マクロライド耐性の出現リスクも、臨床試験[12, 13]や中空繊維モデル[11]のいずれにおいても増加しませんでした。細菌量の多いMAC-PDでは3剤併用が必要かもしれませんが、その3剤目にはリファンピシンを使うべきではありません。細菌量の少ない結節性気管支拡張症のほとんどの症例では、エタンブトール/アジスロマイシン療法とリファンピシン/エタンブトール/アジスロマイシン療法のランダム化比較試験(ClinicalTrials.gov識別子: NCT03672630)が現在進行中であり、より決定的にリファンピシンがMAC-PD治療に活性を付加するかどうかを示すことになります。単独での無効性に加えリファンピシンはCYP3A4誘導を介してマクロライドなど他の抗生物質の薬物動態を悪化させます。リファンピシンはアジスロマイシンの曝露量を30%、クラリスロマイシンの曝露量を65%低下させます[8]。MAC-PD治療では、アジスロマイシンの血中ピーク濃度が0.4 mg・L-1を超えると良好な治療成績が得られることが知られています[15]。しかし、リファンピシン併用時のアジスロマイシン血中ピーク濃度は0.27±0.18 mg・L-1と低下し、リファミンピシン非併用時の0.35±0.26 mg・L-1よりも不利になります[8]。この臨床的意義については、アジスロマイシンの肺や細胞内への良好な移行が指摘されていますが、それは血中濃度と組織/細胞内濃度の勾配に基づくものであり[16]、血中濃度が低下すれば、当然肺および細胞内濃度も低下します。



成人肺非結核性抗酸菌症化学療法に関する見解 ― 2023年改訂 ―876fc7b7e79db16bd4f10d91fc884e3c.pdf (kekkaku.gr.jp)でもRFPの注意書きに関して

*RFP忍容性の低い症例,薬剤相互作用を懸念する症例ではRFPを減量,さらに除くことも検討する(付記のRFPの項を参照)。RFPを除いた場合にはCAMの血中濃度が低下しないので,低体重の患者ではCAMの減量(400~600 mg)を考慮する。AZMを使用する場合には用量調節は必要ない。週 3 回投与では,基本的に 3 剤併用が望ましいが,忍容性が低いと判断した場合には,RFPの減量(300 mg~450 mg)を考慮する。
TDM: Therapeutic Drug Monitorin

RFPのポジションの低下の印象が否めない

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