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0496 - 北半球料理のお店に行った時の話

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前回の投稿で触れたように、車で出かけた際に通った場所がトリガーとなって昔の記憶がドドドと蘇り「その頃と現在の違いを楽しむ」マイアハ体験が、自分の中で最近のブームとなっている。

その流れで、また1つ思い出したことがある。

以前、磐田市に「北半球料理」という看板を掲げた飲食店があった。和食でも中華でもフレンチでもなく「北半球」である。ユーラシア大陸と北アメリカ大陸はすっぽりと。アフリカ大陸も半分以上。なんなら南アメリカ大陸も一部が対象となる「北半球」の料理を提供するお店。ある意味「地球料理」と掲げても良いんじゃないかってくらいな風呂敷の大きさだ。

現在、その場所は違うお店になってしまっており、ネットで検索しても閉店・移転について何も情報が出ていない。いつ無くなったのかも不明だ。少なくとも、現在は磐田市内では営業していないことは間違い無いだろう。

たしか2004年頃。1度だけ、そのお店を利用したことがある。

扉を開けて中に入ると、4人テーブルが3つほどの小さな店内。奥から男性(たぶん50歳前後)が出てきて「こちらの席へどうぞ」と案内してくれた。どうやら、その男性が1人で切り盛りしているお店らしい。

差し出されたメニューを見て衝撃を受けた。びっくりするほど分厚い。さすがにタウンページとまではいかないが、ハローページくらいの暑さはあったように思う。(今でも通じる例えだと何だろう、、、ジャンプコミック1冊分くらいの厚さかな)

恐る恐る開いてみると、これでもかというメニューの多さ。料理だけで何品あるのだろう。和食とか中華といったエリアではなく、たしか食材や料理のジャンルでカテゴライズされたメニューになっていたのだが、料理の名前と説明文を眺めているだけで30分以上はかかりそうな勢いだ。

そんな分厚いメニューを差し出されるだけでもちょっとした苦行だが、更に「男性がずっと横で立って待っている」という状況が僕に大きなプレッシャーを与えてくる。焦る気持ちを表に出さないよう出来るだけ平然を装いつつ、パラパラとページを進めていると、男性はこう切り出した。

「メニューの最後にコース料理の案内があるんですよ。初めての方なら、そちらにしましょう」

え、そうなの。「そちらにしましょう」という語尾がほんのり気になったが、言われた通りに終わりに近いページへワープしてみたところ、4〜5種類のコース料理が記載されていた。男性は言葉を続ける。

「初めてに限らず、ウチにいらっしゃるお客様のほとんどはコースをご注文されますね」

なるほど、コースがあるのは親切だなと一瞬感心したが、いやいや、むしろコースを頼んでもらうためにワザと分厚いメニューを用意しているんじゃないかと訝しく思ったことを今でもハッキリと覚えている。

当時の僕は素直にその提案を受け入れることができなかった。理由は単純、値段が高かったからだ。最も安いコースでも5000円。今夜はどこで夕食しようかなーと軽い気持ちでお店に入った身からすれば、そこまでのものは求めていない。「いや、そんなに食べられないので、何か単品で注文します」と答えて、ゆっくり選ぼうかと思ったのも束の間、男性はこう切り出した。

「それなら、このカレーにしましょう」

えっ? カレーが「オススメですよ」ではなく、カレーに「しましょう」とは?

更に男性は続けた。

「カレーだけだと栄養が偏るので、温野菜も追加しましょう」

えっと、温野菜も追加「しましょう」とは?

「食後はコーヒーに決まりですね。ウチは布のネルドリップなので抜群に美味しいですよ」

えっとえっと、コーヒーに「決まりですね」とは?

それぞれの値段を確認したところ、合計で2000円を切るレベル。想定していた予算は確実にオーバーしていたが、ギリギリ許容範囲だったので言われた通りに注文してみた。振り返ってみて感じるのは、最初に5000円〜のコース料理を見せられた直後だったので、2000円でも「安い」と感じてしまった罠だったように思えてならない。

ここまで読んで、なんとなく男性の「クセの強さ」を感じている方がいらっしゃるかもしれない。ご安心を、この注文のくだりはプロローグにすぎないのだ。

(つづく)

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