見出し画像

メドピアはエムスリーよりも高騰しているのか

エムスリー4兆円のかたわら高騰するメドピア

下図は年初来の2社の株価を指数表示したものです。コーポレートカラーに合わせ、エムスリーを青、メドピアを緑で表示してあります。

コロナ相場の大底は、メドピアが3月15日、エムスリーが3月16日と1日のズレがありますが、メドピアのほうが下落局面では大きく下げ、その後の回復期にはより大きく上げていることが分かります。

画像4

さて、メドピアは果たしてエムスリーよりも高騰しているのでしょうか?実はこれ、両社のベータが大きく異なることが原因でして、必ずしもメドピアのほうがアウトパフォームしたとは言えません。単純にいうと両社の株は、日経平均やセクター全体の上げ下げにどのくらい敏感に反応するかがそもそも違うのです。相対的に、よりハイリスクハイリターンな株とローリスクローリターンな株だとも言えます。(これは絶対的な意味でエムスリーがローリスクローリターンだということではありませんので念のため)

誰しも許容できる最大損失額がなにかしらあるはずです。仮にそれが500万円だとすると、最大5割下げうる株を1000万円保有することと最大2割下げうる株を2500万円保有することは、最大損失リスクの観点からは同じことに。保有額が少なければ損失や儲けも少なくなりますから、同じ株価倍増でも、損益に対する意味合いは異なってきます。

このため複数の株のパフォーマンス比較を行うときは、感応度を揃えて株価の動きを比較する「ベータ調整」ということを行います。試しにメドピアとエムスリーについてベータ調整すると、こんな株価チャートになります。

画像11

さて、このベータというのはなにによって決まるのでしょう。単純にいうと、事業リスクが高い会社の株価は振幅が大きくなると言って構いません。よりリスキーな事業をしていると株価も動きやすいということですね。

先ほどの最大損失の観点から、何株買うかを決めるときはどのくらい動きやすい株なのかをある程度把握する必要が出てきます。株価は下げる可能性もあるから当然ですね。

株価がより大きくあがったからと言って、即リスクが高いのかというとそれはそうとは限りません。業績に違いがあればそれは株価に反映されて当然だからです。正しい投資プロセスとしては、本質的に両社の事業リスクに違いがあるのかどうかを考えることになります。ぱっと分かることを3つあげてみます。

1)規模   売上高30億 vs 1300億
2)分散   事業ドメイン3つ vs 事業ドメイン5つ+海外
3)利益率  上がりつつある会社 vs 下がりつつある会社

1はいわずもがな、とあるプロジェクトを失ったときのインパクトは事業規模が拡大するにつれ薄まるはず。MRの人員削減を方針として打ち出した武田製薬のような最大手の動向はインパクト大と思われますが、プロジェクト単位で考えれば売上規模が大きいほうが業績のブレは抑えられるでしょう。

2も似たようなことですね。今回コロナ影響について、エムスリーは連結売上高の4割を占めるプラットフォーム事業の再加速が、人材事業その他の短期的な落ち込みをカバーするという説明をしています。多様な事業を手掛けていれば、上げ下げがそれぞれあって、ということになりがちです。

メドピアの場合はプラットフォームセグメントに人材事業が含まれているのですが、そちらとヘルスケアソリューションがともに大幅増収しています。結果、直近2四半期の増収率はエムスリーの+18%, +15%に対してメドピアは+75%, +92%となっており、いわば同じバスケットに卵が入った状態だと言えるでしょう。

B2C割合の低いエムスリーに対し、ベルスケアソリューションは基本的にB2Cだといえるメドピアのほうが分散しているという見方があるかもしれません。ただ、B2C事業というのは先行投資型であることが多く、そもそもの事業リスクが高いということにも留意しておいたほうがよさそうです。12%という利益率はJカーブのまだ低い位置なのかもしれません。

画像7

ちなみにこの2社では、財務レバレッジ(=営業外の固定費)はベータに全く関係ないでしょう。企業価値に占めるネットキャッシュの割合は5%弱と2%弱というごく僅かな差でしかないし、メドピアは配当未実施の成長フェーズ、エムスリーも標準的な2-3割の配当性向でしかなく、余剰現金が企業価値評価に影響するとは思えません。

一方、オペレーショナルなレバレッジ(=営業内の固定費)には若干注意したほうがよさそうです。現状、メドピアは限界利益率>営業利益率であるのに対し、エムスリーは逆だからです。

限界利益率の計算はまさにアートで、あの手この手を使って最も確からしい数値を得るしかないのですが、proproの計算では、メドピアが24%、エムスリーは20%と出ています。2020年3月に至る12か月間の営業利益率はそれぞれ19%と26%なので、その差メドピアは+5%、エムスリーは△6%

画像8

両社主軸のプラットホーム事業は営業利益率が4割もある大変高収益な分野です。上記の差は、メドピアがまだその主軸事業が売上高の75%を占めて成長を牽引中である「フェーズ1」にあるのに対し、エムスリーは既に「フェーズ3」、より収益率の低い分野に進出していることを示します。売上高の差を思い起こしてみてください。

(なお、AIプラットホームをはじめとするエムスリーのエマージング事業群が今後どのような利益率に仕上がるか、ふたたび全社利益率が上昇しはじめる可能性がないのかについてはよく考えるべきポイントです)

実際には今後5年で両社の営業利益率はいずれも22%くらいに向かうと予想され、上記の+5%と△6%は+2%と△2%となるためそれほどベータ差の原因にはならなさそうです。ただ、足元の状況として成長とともに利益率があがる会社とさがる会社、という認識はもつべきでしょう。

これがどのような違いを生むかというと、同じだけ売上高が伸びたときの利益の変化率が、メドピアでは大きくエムスリーでは小さいということです。売上高と利益率がダブルで効く会社と、売上高の成長を利益率の低下が一部打ち消す会社、と考えれば分かりやすいでしょう。

さらに付け加えて言うと、先ほどアートだと言った限界利益率の計算結果、この正確性にも大きな差があります。上図で「Err」とある数字は、計算された限界利益率を過去実績に当てはめるとどのくらい誤差が出るかを示すのですが、エムスリーは5.5%、メドピアは25%と出ています。5%台というのは驚異的な正確性で、実は滅多にお目にかかれません。

これ、簡単にいえば緑と赤の点がほぼ直線上に並ぶエムスリーと、ある程度がちゃつくメドピアだということです。このこともまた、メドピアの事業リスクのほうが高いことを示します。あくまで両社間でということです。

ベータ調整すると見事に一致する両社のうごき

以上からすると、やはり両社の値動きには結構な差がついていても然るべきだといってよさそうです。業界慣習ではよく月次ベータを使うため、ここでは5年間の月次ベータで2社の株価パフォーマンスをエムスリーのベータに揃え、もういちど前掲のチャートに戻ります。

画像7

ベータ調整してやると、実は両社の株はほとんど同じ動きをしていたことが分かりますね。相場が急変すると全ての株の実測ベータが1に近づくことが多いのですが、複数月単位ではだいたい本来のベータを反映します。

ちなみにこういうチャートを描くときは、スタート日をいつにするかで全く異なる形になるので注意が必要ですが、たぶん他の人も見るだろうという設定のなかから選ぶのが大原則です。今の時期なら年初来でよいでしょう。

2社の値動きの違いとして気になるのはメドピアが決算発表後にエムスリーに追いつく傾向があることです。Q2、Q3と書いた地点がまさに開示日なのですが、これ目盛をよくみて頂くと、%にして結構なジャンプです。

日次取引金額の面からは130億円と40億円ですからメドピアも一日3-4億なら株価をそう動かさずに買えそうで、機関投資家が手を出せないとまではいかないでしょう。問題は時価総額で、1000億円以下ということは50億円かったら大量保有報告書です。

やはりある程度の金額を運用する機関投資家は手を出しにくい株であり、ありていに言えば、しっかり調べているプロの割合が少なくてミスプライシングが起きやすいのでしょう。

しかし底値がこれほど一致していたというのは不思議ではないでしょうか。先行きの不透明感が最高潮に達したとき、本当に両社の業績も似たように評価され、それに基づく株価になっていたのでしょうか。

過去実績と将来のギャップに注目

さて、いくらでも話は続けられてしまうので、手っ取り早く、面白いところにすすみましょう。proproを使い、今日の買い値が3月の底値にあたるよう5年後業績を設定します。


6095_0316大底に買い値あわせる
2413_0316大底に買い値あわせる

このとき画面の上半分には、次ような表示が出ています。5年後こうなるなら今日の株価で買えるんだ、という将来業績ですから、「その株いくらで買いますか?」を逆引きしていることになりますね。

2413_0316大底が買いになる将来業績
6095_0316大底が買いになる将来業績

図が小さくてちょっと見づらいと思いますが、エムスリーでは26%から16%に向かって増収率が落ちてきたところ、今後5年間は、ちょっと底上げされた22%だということになっています。20.3期の16%が一時的な落ち込みなのかはありますが、四半期別の売上高をみると既に19.3期のQ3から目立って成長率がおちていますから、さっと見て決めるなら傾向と考えてよいのでは。

画像10

メドピアは16.9期と17.9期がおかしなことになっていますが、14年6月に上場した会社ですからその時期は少し間引いてみる必要があるでしょう。17.9期はヘルスケアソリューション事業の子会社2つの新規連結が増収60%の半分を占めるため、同基準にひきなおすと 30%, 41%, 38% ときていたものが今後5年間は、一段ひくい27%だということになっています。

どうでしょう。人によってはここでちょっと待てよとなるかもしれません。両社とも実質無借金の高マージン事業をしていますから、最悪ケースでも資金繰りの問題などがないのは明白です。つまり素直に5年後を考えればよいのですが、そこに向けた増収率がガタンと下がる vs ひゅっと上がる。これってなにか変なのかもしれません。

もしエムスリーについて、今後どんなに世界景気が落ち込んでも22%の増収率にとどまることはないだろうと思えるなら、メドピアの27%についても思いを寄せてみるとよさそうです。

もうひとつの観点は両社とも5年後の営業利益率が22%と計算されているところなのですが、こちらは宿題にしておきます。こんな着眼ポイントがあるんじゃないかと思ったかたは、是非noteにあげたりしてみてください。

ロビンフッダーが日本にも

さて、最後に現在からみた振り返りをひとつ。最近日経新聞などでもロビンフッダーという言葉を目にすることがあると思いますが、米国ではここもと手数料競争が再燃し、若年層がこれまで以上に手軽に株式投資を始められる環境になってきています。

このことの是非は種々ありまして、個人的にはペイメントフォーオーダーで稼ぐビジネスモデルはいずれ規制対象になるような気がしていますが、とはいえダンピングする人が現れると価格破壊は否応なしに進みます。

この新しい売買フローが世界中で超大型テック株を探し求めてうごく、という話はもういろんなところで目にしているかたも多いんじゃないかと思いますが、そうした需給でエムスリーが選好されるという要素もひょっとしたらあったかもしれません。


その株、いくらで買いますか?

元ファンドマネジャーに教えてもらう、マンツーマン講座のお申し込みはこちらから。

画像11

ツイッターフォローお願いします!🤟

最後までお読みいただきありがとうございました。proproのミッションは「個人投資家の目利き力アップでよりよい社会をつくる」。共感してくださったかたはサポート機能からオススメ設定して頂けたら大変嬉しいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?