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弁護士ドットコムの株価はなにを織り込んでいるのか?

ファンダメンタルズ投資の成否を分けるカギ。ひとつだけあげるとしたらそれは、市場織り込みと自分の予想の比較です。

ビジネスや学問から芸術に至るまで、優れた成果をあげる人はまず他者の積み上げに学び、そのうえで独自の方向性を見出すもの。

投資判断も同じです。株価とは他の投資家が考える将来見通しの集約で、投資判断の第一歩は、これと比べて自分はどう思うか。まず、市場がどのような将来を織り込んでいるかを把握しなければいけません

目指すべきは、投資対象の会社が市場織り込み以上の実績をあげるシナリオです。株価の織込みについて「そんな低い成長率のわけがないだろう」と思えたらチャンスなのです。

市場織込みを比較対象に考える

投資判断でよくある失敗は、これはいけそうだと思った銘柄について、自分とは異なる見方からの検証を怠るというものです。

投資は本質的に孤独で、大勢の意見を調整したりバランスをとって行うものではありません。ノイズに振り回されないよう、他者に耳を傾けすぎないのは大事です。

しかし、様々なシナリオを想定し、多方面から将来見通しを検証する必要はあるのです。自ら網羅できれば問題ありませんが、往々にして人の思考は、一度手にした結論に縛られがち

このときサウンディングボードとして役立つのが「市場織込み」です。

株価はその会社の将来業績に翻訳することが可能です。つまり、常日頃、いま市場はこの会社の将来についてこう考えている、という見通しが存在します。

なにも手掛かりがないときに、会社の成長率を推測するのはなかなか難しいもの。でも比較対象となる物差しがあれば、それを大きく上回る確率はどのくらいあるだろう?と考えることができ、問題が格段に楽になるのです。

会社の将来とは、今後のキャッシュフローの推移です。様々なシナリオが考えられますが、最もよく使われるのは「今後10年間の成長率」という単一パラメータで表す方式です。10年後以降は横ばいの前提です。

単純化すると、株価には今後10年間の成長率という数字がくっついているのです。「いまの株価は〇〇を織り込んでいる」とか「市場織込みは〇〇だ」という言いかたをします。

日経NEXT1000構成銘柄の織込み成長率

月曜の日経一面に「時価総額の伸び率大きい企業 弁護士コム5年で12倍」という記事がありました。日経新聞はNEXT1000という、日本経済のけん引役として期待される売上高100億円以下の中堅上場企業をリストアップしており、定期的にランキング記事を掲載します。

今回は過去5年間の時価総額増加率をとりあげ、1位のアイ・アールジャパンホールディングスは45倍、5位のケアネットと6位の弁護士ドットコムがいずれも13倍という結果になっています。

さて、そもそも時価総額の成長をもたらすのはなんでしょう?大きく分けると以下の4要因です。

1) 年間利益が増えた
2) 今後の成長率見通しが改善した
3) 純有利子負債が減少した(=現金の増 and/or 借金の減)
4) 資本コストが低下した

4番目の資本コスト低下は、長期金利・債権スプレッド・株式リスクプレミアムの低下、業績安定性の向上などにより発生します。相場全体の上昇をもたらす要因が多く、ここでは一旦無視します。

3番目はおおまかに言うとバランスシートの改善です。NEXT1000のような借金が少ない会社ではあまり効いてくることはありません。

大事なのは1番目と2番目です。1番目の年間利益は決算発表で示されるため、ネット検索等で確認することが可能です。

実は貢献度が高いのは2番目です。時価総額を大幅に上げた会社は、この先行きの見通し改善が極めて大きな役割を果たしているケースが多いのです。織込み成長率が高まったということです。

もちろん、織込み成長率は正しいかもしれないし間違っているかもしれません。投資判断の第一歩は、織込み成長率についてあなたはどう思うかです。

それでは、過去5年間で最も時価総額を伸ばしたNEXT1000の上位5社について、proproの画面で織込み成長率を見ていきましょう。

proproは、過去実績から限界利益率を弾き、それをもとに織込み成長率を売上高レベルで算出します。年次のブレが大きいキャッシュフローとは異なり、売上高なら過去実績と織込み成長率の比較も容易です。

限界利益率の安定性は会社により様々で、一過性要因・特殊要因が多いと年により全く違う値になってしまいます。この値が定まらないと、将来予想の計算に必要なパラメータが増えることに。

「分析のしやすさ」で示される★の数はこの安定性を示し、★が4や5の会社は、売上高さえ予想どおりになれば利益の額も計算どおりになる可能性が高い会社だということです。

6035 アイ・アールジャパンホールディングス

実質株主判明調査、議決権賛否シミュレーション、各種情報開示資料の作成支援など、企業のIR活動支援を行う。

単年売上成長率
・過去5年間の実績 +11% → +7.7% → +17% → +59% → +7.8%
・今期会社予想 +45%
・市場織込み 今後10年間にわたり年平均+17%

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1431 Lib Work

webマーケティングを活用し、低集客コストで戸建住宅および不動産販売事業を展開。様々な住宅関連のポータルサイトを運営。中期経営計画では2023年6月期に営業利益12億円を目標とする。

単年売上成長率
・過去5年間の実績 +13% → +27% → +36% → +29% → +8.5%
・今期会社予想 +56%
・市場織込み 今後10年間にわたり年平均+23%

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4308 Jストリーム

トランス・コスモス子会社で、ライブ・オンデマンド配信事業を運営。コンテンツプロバイダー向けの動画配信プラットホーム提供、イベント会場へのスタッフ派遣を行う配信支援業務など。

単年売上成長率
・過去5年間の実績 +11% → +11% → +11% → +25% → +54%
・今期会社予想 +6.9%
・市場織込み 今後10年間にわたり年平均+9.3%

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2930 北の達人コーポレーション

化粧品や健康食品などオリジナル32商品をネット販売するEC事業者。Amazonや楽天などECモールでの販売やアフィリエイトを積極展開、事業拡大のためM&Aに注力。

単年売上成長率
・過去5年間の実績 +21% → +96% → +57% → +21% → +8.2%
・今期会社予想 非開示(連結決算移行で昨年度とベースが変わるため)
・市場織込み 今後10年間にわたり年平均+5.5%

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2150 ケアネット

エムスリー同様、製薬会社の医師向けマーケティング活動を支援するデジタルプラットホームと、医療従事者向けの会員制サイトにおける広告事業を展開。

単年売上成長率
・過去5年間の実績 +15% → +30% → +1.7% → +13% → +62%
・今期会社予想 +44%
・市場織込み 今後10年間にわたり年平均+23%

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番外編)6027 弁護士ドットコム

ランキング6位はクラウドサインが注目される弁護士ドットコムです。proproでこの会社の画面を開くと、あまりの高い織込みに圏外表示となっています。過去実績は+49%から+29%へと緩やかに成長率を下げてきたのに対し、織込みはなんと+62%になっているんですね。ご興味のあるかたはこちらで確認してみてください。

織込みが実績と大きく乖離している時は要注意

最後に一点、大事なことに触れておきたいと思います。

たまに株価が、実績と全く異なる成長率を織り込んでいることがあります。proproには「紙テープ」と呼ばれる表示があり、過去5年間の織込み成長率と、実績の5年成長率を比較できるようになっています。

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ここで示したのは北の達人の例ですが、濃い青で示される実績成長率に比べ、水色で示される織込み成長率が極めて低水準であることが分かります。両者は重なってもおらず、その差には驚かされます。

これはどういうことなのでしょう?株価が単にトチ狂っている可能性も当然ありますが、こういうときはよくよく考えることが大切です。

過去5年間、たしかに事業は大きく伸びていて、年率25%以上のペースをたたき出している。それなのに株価は+15%の織り込みに到達したことがない。

(なお、紙テープに示されるのは実際の5年成長を平均単年成長率として表した値なので、前出の単年成長率とは異なります。+25%という場合、1.25 ^ 5 = 3.05すなわち実際に5年で3倍強になったということです。また、1週間以上維持されなかった株価水準、いわば「瞬間風速」の株価は除いています)

注意したいのは、株式市場の本質からすると5年という期間は比較的短いということです。意外に聞こえるかもしれませんが、10年20年というスパンで考えれば伸びなくなるだろうと判断された事業については、株価はなかなか高成長の見通しを織り込みません。

企業は10年20年、場合によっては50年以上も続きます。売上高が小さい間は高成長を維持できたとしても、マーケットシェアが高まるにつれ、業界全体が伸びていなければ自社の業容もどこかで頭打ちになってしまいます。日本のような人口減少国の会社にとって海外展開が重要なのはそのためです。

紙テープの見方については別の機会に詳しく説明しようと思います。織込み成長率と自分の予想の違いについて考えたら、実際の株価が実績を織り込んできたかどうかを併せて確認することを忘れないようにしてください。

投資の本質は「良い会社を安く買う」良い会社はある程度分かるけど、安いとはなにかがなかなか難しいところです。


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