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アフタートーク・スクリプツ (後編)

(前編はこちらから)

佐倉もち[Ver3.0]:トーク・スクリプツの会話って、どちらかが電話して、もう片方がそれに出る…ってところから始まりますよね。最近だと私は、大勢で話すにせよ1対1にせよ、ビデオ通話する前に「いつなら話せる?」って確認することが多くなってて。そういう、あらかじめ約束があっての通話って、この中だとどれになります?
辻本直樹:言われてみると、まだそのパターンは作っていないかも。映像が始まるより前から通話が続いているもの…Ver2.0なんかは「ちょっとネタ合わせしたいんだけど」と言ってから電話をかけている可能性はありますけど。
佐倉:うん、想像はできますよね。なんていうか、コロナ前と後で、電話する理由が変わってきたような気がします。これを伝えたい・話したいという用事より、おしゃべりすること自体が目的になってきているなと。
岡本セキユ[Ver7.0]:今の情勢的にはそっちのほうがリアルなんでしょうけど…実際、僕も劇団会議の時なんかは先に予定を聞いてから電話するんですけど。「会話が起こるきっかけ」という劇作の視点で考えると、先に約束をしてしまうと物語が始まりにくい気がする。
さいとう篤史[Ver0.0]:まず「電話がかかってくる」っていう矢印が、お客さんにとっても話を聞く動機になるからね。
セキユ:自然現象みたいなことなんだと思うんですよ。雨が降ってきて「あっ、雨だ」となるように「あっ、電話だ」という反応があったほうが、物語の導入としてうまく流れてくれるというか。
菊地奈緒[Ver10.1]:いきなり前置きなしに会話から入って、徐々に情報を明かしていく方法を使うと「実はここがこうなってて」と繋がった時の達成感は得られると思うんですけど、エチュードだとなかなか難しいのかも…好みではあるんですけどね…
さいとう:構成するための手数が増えていくと、段取りを「こなさなきゃ」って感覚のほうが強くて、エチュード性は薄くなってしまうんじゃないかな。いや、もちろん辻本さんがやりたいって言うなら止めはしないですけど。俺は止めないですけど。
辻本:「やれ」って言われてるようにしか聞こえない(笑)

Ver6.0 タイムカプセル/ブックマーク

さいとう:カロリー(加糖)の衣装のカラーリングがやばいんだよな。
セキユ:土橋さんが「このズボンの柄なんやねん」って言ってました。
加糖熱量[Ver6.0]:なんやねんってなんやねん。
さいとう:告げ口じゃん。
セキユ:いやいや、言っといてくれって言われたから言ったんですよ。この場を借りて。
辻本:このあたりからLINEのグループ通話機能で音声をモニタリングするようになっていきましたね。

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セキユ:永瀬さんの、本をパラパラやる動きがすごいなと思って…
辻本:すごい?
セキユ:難しくないですか? 僕、これを自分がやれって言われたらできないと思う。
西田麻梨果[Ver5.0]:わかります。片手でできないですよね。
永瀬安美[Ver6.0]:私も最初、そんなのできるかなって思ったんですけど、意外とできました。
セキユ:パラパラするっていう動きはできると思うんですけど、電話で会話しながら芝居の動きとしてやると「パラパラする」になっちゃうなと思って。こんな自然にはできなさそう。
辻本:「本に挟まってる写真を探しながら」としか指定してないんですけどね。
さいとう:演出のオーダーの仕方なのかもね。動作じゃなくて動機だけを伝えているからかも。
西田:永瀬さんが急に「カトウ!」って止めに行くのがすごく好きです。それまで穏便というか、距離があったのに。
セキユ:「カトウ」って、怒るのにいい名前ですよね。強めに言いたくなる。
辻本:没テイクではもっと素早くて、「ヘイ!カトウ!」って。
永瀬:言ってましたね。
西田:ここのカロリーさんの気遣いも見ててつらいんだよな…「これだけ返す?」とか。いいから丸ごと返せよ!ってなる。
加糖:呆然としたところでタイトルが出るのがいいよね。
辻本:小声で「えっ…」ていうね。頑張って表示のタイミングを合わせました。

Ver7.0 金曜日のミッション

さいとう:始まった瞬間から、セキユくんの前髪の垂れ具合がたまらなくて。
セキユ:あれ、いいでしょ。僕のこだわりポイントなんですよ。
辻本:そうだったの?一回も言及しなかった、ごめん。
セキユ:(映像を見ながら)この角度ね、僕が一番いい感じに見える角度。土橋さんは欲がないから、ちゃんと遠い位置に立ってるな。
さいとう:でも全然じっとしてないよね。画面の左右で静と動って感じがある。
辻本:本人は後で映像見返して「動きすぎ」って反省してましたけど。
セキユ:エチュードなんだけど、やっぱり「満席だったことを伝える」とか「新宿と品川の間違いに気付く」のような最低限のポイントを通過するときは、どうしても芝居になっちゃうな…と思いました。

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さいとう:好みかどうかだけでいうなら、俺はシリーズの中で一番好きかも。
辻本:反応を聞くかぎりだと、二人がカップルに見えた人はすごく多かったみたい。
セキユ:いちおう設定上は友達なんですけどね。実際、ああいうノリで接する女友達がいるので。
さいとう:色眼鏡なんだけど、「ふざけんなよ」とかブツブツ文句言いながらも結局一緒にご飯食べに行く…っていうのがイチャイチャにしか見えなくて。
辻本:やろうと思っていた設定に対して、たまたま決まった組み合わせが男女だったってだけなんですよ、実際は。
さいとう:セキユくんと土橋さんっていう組み合わせの化学反応もすごく良かったと思う。ロジックvsパッションみたいな。
辻本:これ、何を食べに行くかは最初決めてなくて、土橋さんに何がいいですか?って尋ねたら即答で「ガパオ」って返ってきた。
加糖:「ガパオ」って音の響きが面白いから採用になったんだろうなとは思ってました。
さいとう:音の面白さはあるだろうね。普段そんなに何度も連呼する単語じゃないし。
辻本:土橋さんが「ガパオ」と言うたびに、毎回セキユくんが「タイ料理」って訂正する流れも作ってたんですけど。
セキユ:あ、それ言われたのはわかってたんですけど、あんまりできてなかったですね…
さいとう:「ガパオ」の強さに押し負けちゃうんだよ。
辻本:撮影が終わったあと最終調整しながら3人で話してるとき、いつの間にかビデオがオフになってるなと思ったら、土橋さんは弁当を買いに行ってました。
セキユ:「今ほっともっとにいるから待ってください」っていう謎のターンが発生して。
さいとう:奔放だなあ。

Ver8.0 礼服救出大作戦

辻本:Ver8.0は没バージョン(現在は無料公開しています)があるので、そっちを見てみましょうか。環境音入りまくりのやつ。
永谷ちゃづけ[Ver9.0]:私、この(部屋の電気が)ついた瞬間の依田さんの感じが大好きなんですよ。
さいとう:わかるわかる。ドン!っていうね。
辻本:リモートでは物の受け渡しができないぶん、Ver4.0の猫やVer6.0の本など、そもそもの所有権を入れ替えるやり方は何度か試してるんですけど、これは依田さんのいる部屋自体が本人の家じゃないってパターンです。
ちゃづけ:棚の場所を教えているくだりで、それは思いましたね。誰の部屋なんだろう?って。
辻本:帰省中の妹が東京で一人暮らししているアパートへ、近所に住んでいる姉が合鍵で訪ねてきた…という設定。
佐倉:依田さんが座らないのも、そういう理由だからなんですね。他人の部屋だから。
矢島選手権[Ver2.0]:あと、この礼服探してる家のリアリティ好きです。築30〜40年くらいの…すりガラスの引き戸とか。
佐倉:あー!わかります!
辻本:この部屋、たしか和室だけど電気はリモコンでつけるタイプなんですよね。
西田:そういう、ちぐはぐさが余計リアルに見せてるのかもしれない。
木村友里[Ver9.0]:部分部分でアップデートされている感じがリアリティありますね。
矢島:もう片方の家はオルガンが置いてあったりとか、一人暮らしっぽくはない「実家」というリアリティがある。
辻本:まあ、リアリティっていうか、リアルな家なんだけど。
ちゃづけ:リアリティって言葉と、リアル住んでる部屋っていう(笑)途中で廣瀬さんがスプーンを取りに立ち上がるのは、演出ですか?
辻本:あ、これはそうですね。動きを付けたくて指定しました。座ったままにしちゃうと画が変わらないので。
ちゃづけ:ここ好きなんですよ。仲のいい人と電話してると、たしかにこういう関係ない動作するなと思って。
辻本:(電話の内容が)込み入った用事だとあまり動けないんですけど、これくらい気を許した間柄と話題だったらできるんですよ。
西田:手持ち無沙汰を紛らわすための余計な動きってありますよね。
木村:それは見返して思いました。電話するとき自分もやるなーって。

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ちゃづけ:これも好きだなー、(姿勢が)デロンデロンで。
佐倉:姉妹としてのバランスが取れてますよね、この二人。
セキユ:廣瀬さんの動きとか台詞って、こう来るだろうなって思う間とかタイミングに対して全部ちょっとずつズレて入るのが、すごく目を引くというか…見なきゃいけなくなる感じがあるんですよ。
佐倉:(見終わって)え、環境音、ありました?
菊地:ほとんど気にならなかった…
辻本:音量が小さかったからかな? 中盤くらいのところで猫の喧嘩と、廣瀬さんのご家族のうがいの音が入ってるんですよ。
佐倉:聞きてぇー!
西田:没になった理由がおもしろすぎる…
辻本:あと、もうひとつ理由としては、インターホンに対して廣瀬さんも怖がってて、アーバンホラー感が強くなっちゃったんですよ。
佐倉:たしかに、家主がビビったら怖いですもんね。
さいとう:礼服を使う側から使われる側になりそうな…
木村:そんな伏線いやだ…

Ver9.0 同じ月が聞いている

佐倉:Ver9.0に出てくるぬいぐるみって、偶然ですか?
辻本:偶然です。
さいとう:それはすごい。
ちゃづけ:木村さんとは初対面だったのが、ぬいぐるみの存在で一気に距離縮まりましたよね。
辻本:当初のスクリプトには書いてなかったけど、部屋の様子を見ているうちに発覚して、「これはもう話に絡めるしかないよね」となって作り替えました。
佐倉:自分の話ですけど、Ver3.0のときも川峰さんと偶然マグカップがお揃いだったから、これを見たとき「え、まさか?」と思いました。
木村:今もありますよ。
ちゃづけ:あ、取ってきますか?
辻本:すごい、この画面上に同じぬいぐるみが4体いる…
佐倉:有名なぬいぐるみなのかな。
ちゃづけ:ヴィレッジバンガードに大量にいます。
さいとう:穏やかな表情してるなあ。

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西田:木村さんの背後の地図は何ですか?
木村:あ、これは東京メトロの路線図です。
佐倉:なんか部屋狭くない? 気のせい? 幅がさ…
辻本:机のある場所が端じゃないらしいんですよ。
木村:部屋のドアを開けて中に入ると、ちょうど私が受付に座ってるような位置関係になる。
さいとう:大学の守衛室みたい。
佐倉:いや、ここで電話してるの相当かっこいいよ。
辻本:たぶん、この地図とか机の印象も含めて、木村さんの役を「塾講師」にしたんだと思います。で、この回で初めて画面外に月を登場させました。
さいとう:ずっとシリーズで見てきた人からすると、サプライズだよね。
佐倉:私、この月が出てくる瞬間を見逃して、10秒巻き戻して見ました。「いつの間に?」って。
木村:ふわっと出てくるからね。アハ体験みたいに(笑)
さいとう:ぬいぐるみが顔から出てくるのも面白いね。2つあるとわかって(登場人物が気付く前に)見ている方は「あーあ」と思っちゃうんだけど、でもお互い嬉しそうだから安心できた。
ちゃづけ:そこは演出がしっかりついてましたね。
辻本:残念そうな雰囲気にはしないでくださいってお願いしてました。「ごめん」って言うまでの溜めが少し長いだけでも変に気を使ってるニュアンスが出ちゃうので、ここは珍しく細かいダメ出しをしたかもしれない。
佐倉:でも最初から見てると、その程度じゃ怒らなそうな仲っぽいなとは思いました。

Ver10.1 扉を開くのは君だ

辻本:毎回、タイトルは映像ができあがってから似合うものを考えるんですけど、この時は「これしかない!」というのが降りてきましたね。
菊地:あれは辻本さんしか知らないんでしたっけ? キツキツバージョンは。
辻本:最初にやったテイクですよね。あれは公開してないです。
菊地:知人に見てもらったんですけど、「うわ、うわ、きつい、つらい、つらい…」と言われてしまって。
西田:どんだけキツいんですか…
辻本:たしか「3秒で言って」って台詞があったんですよ。「3、2、1」「あ、あ、な、なくしました」みたいな。
上岡:ひぃー。
さいとう:今日ここに梅田くんが来ていない理由も納得がいく…
菊地:やめてやめて(笑)

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西田:あーあ、どう森なんかやって。おまえあとで怒られるんだぞー。
辻本:Ver10は2本あわせて1つの作品だったので、合計4人で話し合いながら作ってます。
西田:菊地さんは何を作ってるんですか?
菊地:トマトスープです。なにか手を動かしながらできるものが欲しいなと思って。
さいとう:梅田くんの探し方からして、この部屋には絶対ないってわかるもんね。
木村:しまうはずのない場所まで探してますからね。
辻本:そういえば、最初のテイクで鍵を探す演技をしているとき、本当に梅田くんの身に覚えのない鍵が部屋から出て来たんですよ。
さいとう:トゥルーエンディングじゃん。
辻本:鍵をなくしたとは違うんですけど、過去に似たような経験(軽い返事をしたあとで結果的に嘘をついたことになってしまう)を僕が実際にしたことがあって、それを元に書いたんですけど…案外いろんな人の心に刺さったみたいで。
上岡実来[Ver10.2]:ギュッてなった。
菊地:なりますよ。
木村:褒め言葉ですけど、梅田さん側の気持ちで見てたから、ずっとしんどかったです。
佐倉:私は逆に「早く言ったほうが楽になるのに!」と思ってました。いま言うべきだよ、ってタイミングが5回くらいあったから。
辻本:ちなみに、菊地さんはどこのタイミングで「こいつ鍵なくしたんじゃないだろうな」って思い始めました?
菊地:同じことを聞き返してきた二回目くらいですかね。あれ、こんな子だったかな?って。
西田:その「こんな子だったかな」がつらいんですよね。
辻本:普段テキパキやる子だけにね。
川峰はる香[Ver3.0/10.2]:これも最初のテイクだと思うんですけど、梅田さん「絶対あります、多分」みたいなこと言ってて。
菊地:言ってた言ってた。
辻本:多分と絶対は両立しない、って怒られてました。
さいとう:菊地さんの対応が素晴らしいですよね。静かにイライラする感じ。いっそ声を荒げて(電話を)切ってくれたほうが全然楽なんだけど。
西田:こういう説教ができる先輩は、鍵が見つかっても怒りは解けない。
辻本:鍵がなくなったらなくなったで、菊地さんは店長としてそれなりの対応をしなきゃいけないから。
西田:そうなんですよね。悪人なんじゃなくて、ただ問題を解決したいだけだから。
木村:(電話が切れる)あ、虚無だ。虚無の顔。

Ver10.2 約束されたB.B.Q.のための序曲

辻本:で、こちらはVer10.1の裏で起こっていたエピソードです。打って変わって、とにかく楽しそうに会話してもらおうと決めてましたね。
川峰:ああ、(Ver10.1は)怒られてたから。
辻本:こっちが楽しそうであればあるほど、梅田くんがかわいそうになるという構造です。
川峰:梅田さんが見つけられなくて困っていた鍵を、実は私が持っていたっていう。
さいとう:台本があると、大体このくらいで何分って感覚でわかるけど、エチュードだと時間がわからなくなるよね。
永瀬:あ、それはすごくあります。
川峰:でもこの時、何度やってもほとんど同じタイムだったんですよね。
辻本:そうなんですよ。しかも、編集中に間違って川峰さんのテイク3と上岡さんのテイク1の映像を合成してしまったことがあって、なのに最初の40秒くらいまで違和感なく会話が成立していたんですよね。
セキユ:すごい。
川峰:タイムキーパー上岡。
辻本:あ、そろそろ鍵が出てきますよ。
西田:これか! この鍵、この鍵覚えとこう。

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辻本:鍵を取り出すときノールックで机に置いてくださいって指示だったんですけど、川峰さん難しかったですか?
川峰:ノールック自体はとくに難しくなかったですけど、置いたときにチャリンって鳴らなかったことはありましたね。
辻本:実はこのあと梅田くんが助かるルート、一つだけ用意してあるんです。川峰さんから鍵を受け取っていないことを思い出して、川峰さんに連絡を取って受け取りに向かえばいいんですけど。
西田:あー…まあでも、それは起こらないでしょう。
さいとう:探して、気付いて、電話したら(川峰さんが)スヤスヤ寝てる、だよね。
川峰:しかも次の日バーべキューで朝早く出発するから、早寝してるでしょうし。
西田:「詰み」ですよ。
川峰:私も私でこの鍵、机に放置して気付かないままなんですかね。
辻本:自分が鍵当番の時は手にしているものだから、そこまで異物じゃないと思うんですよ。よくよく考えたら今日ここにあるのはおかしいけど、というくらいで。
川峰:明日のことで浮かれてるから気付かないままかもしれない。で、朝起きたら大量のラインが来てるのかも…


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