見出し画像

漫才のやめ時がわからない──ネンブツポニーが語る創作の秘密と苦悩

昨年のM-1準々決勝で、戦績こそ振るわないながらも「パワハラ回避漫才」という技巧的なネタで一躍注目を浴びることとなったお笑いコンビ・ネンブツポニー。今年4月に開催された彼らの単独ライブ「東風酒家」は、ライブ入場者とオンライン配信視聴者の合計数が6,000人以上と、コンビとしての動員最高記録を大きく塗り替える結果を残した。

画像5

ネンブツポニーの司馬侑平(左)と弥勒(右)。

──M-1が終わってから、お二人の環境に変化はありましたか?

司馬:M-1っていったって、あれでしょ、どうせ架空のやつでしょ。

──架空のってどういうことですか。

司馬:だって優勝してないんですもん。まず決勝に行けてない時点で、僕らはあれを公式なものだとは認めていないので。

弥勒:うちらが優勝できなかった世界線のM-1はぜんぶ架空ですよ。

──なるほど、では聞き方を変えます。架空のM-1が終わってから、お二人の環境に変化はありましたか?

司馬:まあまあ、でも業界の方とか、コアなお笑い好きの人たちの反応は良かったですけど、その人たちはもっと以前から僕らのこと知ってくれているので、目に見える範囲ではあんまり変わった実感はないですね。

弥勒:別にテレビの仕事が増えたりもないしね。

司馬:どうなんですかね。テレビで使いづらそうなオーラが出てるのか…小器用じゃないというか、MCできるタイプの芸風でもないし、そのへんは最初から狙いに行ってないからいいんですけど。

──先日の単独「東風酒家」は合計6,000人以上が視聴していたということですが。

司馬:やっぱり、オンライン配信があったのはデカイんじゃないですかね。どんなに人気があったとしても会場の収容数には上限がありますから。

弥勒:あとから数字を聞いてテンションは上がりましたけど、やってる間は目の前にいるお客さんがすべてなので。

司馬:実際どうだったの? だって、見た感じ別に満員でもなかったじゃない。

マネージャー:(会場だけの総動員数は)284人ですね。

弥勒:ほら、300人弱しか来てないんですよ。配信で20倍にふくれ上がっただけで。

司馬:なんなら前回より減ってるからね。開場する前にドタバタしてるなと思って楽屋から顔を出したら、スタッフさんが客席の椅子をいくつか間引いて運び出してるところと目が合ってしまって、あわてて引っ込んだ(笑)

弥勒:だから全然、急にブレイクしたとかそういうわけじゃないんですって。あやうく騙されるところでしたよ。

画像6

弥勒(みろく)1991年5月生まれ、愛媛県出身。ボケ担当。

──開演して一本目のコントが「射的工場」。これは「パワハラ回避漫才」で初めてお二人を知った私みたいな人間からすると衝撃的だったというか、あの漫才によって定着したパブリックイメージを自ら打ち消しにいったのかと邪推してしまったんですが……

司馬:なんか、同じようなことを最近も聞かれた気がする。誰やったっけ?

弥勒:バント(マホガニー・中西バント)でしょ。

司馬:あ、そうだそうだ。終わったあとにバントが楽屋来て「あれは世間への復讐なんですか?」って言われたんですよ。

弥勒:元ネタになってるものは一応あって、昔に見たチェコかどっかの映画で、巨大な足が街の建造物を次々に踏みつぶしていくんです。でも主人公の靴職人は最後まで逃げずに靴を作り続けるっていう……まあ、あっちはもっと社会的なメッセージが含まれていたと思いますけど。その映画の足を銃弾に変えて、靴職人を日雇いバイトにしたのが『射的工場』です。

司馬:まあ確かに、内容はともかくとして一発目の名刺代わりに持ってくるネタではなかったかもね。すげえ体力使うもんな。

弥勒:逆に体力が残ってるうちにやっといてよかったんじゃない? 後半ヘロヘロの状態であんなことできないでしょ。

画像6

コント『射的工場』
縁日で使われる射的用の銃を生産するラインで働く二人の工場員。そこは同時に「射的台の上」の世界でもあり、昼夜を問わず銃弾が飛び交う危険きわまりない職場だった……

──「射的工場」しかり「アクリルビュッフェ」しかり、ネンブツポニーのコントからは不条理の匂いを感じることが多いです。ネタはいつも弥勒さんが作られてるんですか?

弥勒:ネタの原型というか、大まかな骨組みのところは俺が考えてます。それを司馬と一緒にああだこうだ言いながら肉付けしていく。あ、でも同じくらい面白いA案とB案で意見が割れたときは俺に最終決定権があるみたいな、そういう暗黙のルールはあります。

司馬:ちなみに最初は普通にコルク銃の設定だったんですけど、実弾で撃たれることにしようって言い出したのは僕です。

弥勒:俺の頭を叩くかどうかで4分悩んだやつの台詞とは思えない(笑)

司馬:あと、工場の窓が全部割れるくだりも僕ですね。他人に危害さえ加えなければ、破壊的な行為って条件反射で笑えるんですよ。これは本当に原初的な衝動だからどうしようもなくて。バントが言ったような世間への復讐は考えてませんけど、ああいう工場の単純作業でバイトした経験はあるので、そこで受けた仕打ちへの復讐みたいなのはあったかもしれない。

弥勒:でも自分から言い出したわりに、衣装に火薬仕込むとき、めちゃくちゃゴネてましたから。

司馬:怖いもんは怖いですよ。それとこれとは別。

画像3

司馬侑平(しば・ゆうへい)1989年生まれ、千葉県出身。ツッコミ担当。

──「東風酒家」で披露された漫才は2本だけでしたが、普段はコントが主流なんですね。

弥勒:漫才をやりはじめたの自体、ここ1~2年くらいからなんですよ。それこそM-1に……あの、架空の。

──(笑)はい、架空ということにしておきましょう。

弥勒:架空のやつに出ようとなってから作り始めたというか。それまではコントと大喜利ばかりやってました。

司馬:『12時間耐久大喜利』っていう気の狂った月例イベントがあって、そこの最多出場記録を持ってます。

弥勒:お客さんはいつ来てもいつ帰ってもよくて、出場者だけが朝10時から夜10時までプロジェクターの前で大喜利に答え続けるっていう……ハードすぎるもんだからメンバーは毎回ほとんど総入れ替えみたいになるんですけど、うちとヤンソンズだけ3回連続で出てる(笑)

司馬:ずっと舞台上にいるからプロジェクターの光にやられて、最後の2時間くらいはお題がほぼ見えてない。

──漫才とコントで、作り方に違いなどはありますか。

弥勒:これは今まで誰にもわかってもらえないんですけど、実はずっと漫才のやめ時がわからなくて。

──漫才のやめ時……?

司馬:出番によって制限時間が違うから、同じネタでも3分なら3分、10分なら10分尺にして対応できる人は強いんですけど、そうもいかないみたいで。

弥勒:M-1でやったようなのは、きっちり4分で終わるサイズで展開も全部決めてあるから、どちらかというとコント寄りの脳味噌で作ってるんです。でもそうじゃない、普通の掛け合いの連続で成立する漫才をやろうとすると、他の人たちみたいに省ける「無駄な部分」がないというか……いや、あのー、そういうことではなくて。

司馬:大丈夫? ゆっくり喋ろうか。言葉を選んでいこうぜ。

弥勒:漫才の終わりって基本「もうええわ」か「やめさせてもらうわ」じゃないですか。自己申告制なんですよね、こっちから意思表明しないとやめられない。逆に言うと、やめないでおこうと思えばいくらでも続けられるんです。

司馬:だからそれを3分でやめればいいだけなんだけど。

弥勒:でも俺はもっとずっと喋ってたい日もあるし……

司馬:12時間大喜利のやりすぎで時間の使い方がバグってんだよ!

弥勒:だから同じネタを尺に合わせて伸縮させるみたいな器用な真似ができなくて。与えられた持ち時間に当てはまるネタがなかったら、その都度新しく作る必要があるんですよね。

司馬:どうしても(ネタ作りが)間に合わないときは僕がタイムキーパーも兼ねて、時間になったら途中でツッコミの台詞を「やめさせてもらうわ」に変えるので、それが強制終了の合図になります。

弥勒:たまに変なところでぶった切られると、すごい消化不良感が残るけどね。残業代出なくていいからこの話だけ最後までさせてくれ、ってなる。

司馬:嫌だよ。俺は絶対に定時であがるからな。

画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?