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Talkin'bout CoffeeTalk ep.2

前回あれだけ熱く書き殴ってしまったので、もう今回は書かないつもりだったのだが、自制できなかった。

イントロダクション

たとえばの話をしよう。
きみは… "バンシー"ってどんな種族だか知ってる?
知らなければウィキってくれてもいいけど。
アイルランドの伝承に登場する妖精で…
近いうちに死者が出る家の前に老婆の姿で現れ、
叫んだり、すすり泣いたりする…
そういう"不幸の象徴"として知られているよね。
だから、ゲームに登場するバンシーの大半は忌み嫌われてる。
場合によっちゃ、恐怖とか魅了とか麻痺だとか、
そういった"災厄"をもたらすこともあって…
プレイヤーの多くは、バンシーを見るなり、
先制攻撃で叩き潰そうとするわけ。
……。
だけど、想像してみてほしいんだ。
べつに難しいことじゃない。
さっき説明したようなバンシーの特徴が、
その見た目やイメージへの偏見から形作られた…
実際に"現在を生きる"彼らの姿とは、
まるで違うものだったとしたら?
このカフェにバンシーのお客さんが訪れたとき…
きみはその子を、
"バンシーだから"という理由で追い返すのか? って。

没入的な非日常へ

フェイクニュース、レイシズム、炎上と誹謗中傷、マーケティング戦略、集団心理、やりがい搾取、生態系破壊、都市伝説、メタフィクション、異文化理解、ファストファッション、燃え尽き症候群、死生観、ワークライフバランス、移民問題、記憶と忘却、タイムパラドックス……その他ありとあらゆる分野にまたがる話題が、Coffee Talkの世界では手を変え品を変え描かれる。こうした社会的テーマやメッセージがゲームの中で扱われること自体は特に珍しい話でもないが、その種類だけを見れば、まあ、やや詰め込み過ぎのような気がしないでもない。

ここで重要なのは、それらのテーマについて真っ向から議論が行われるわけではないという点だ。たしかに正面切ってきっちりと語るには、どれも時間のかかりすぎる議題ではある(だからこそ1作品につき1テーマ程度しか、通常は扱われないのだろう)。だが、適当にあしらっているかといえばそんなことはない。上記のような問題はすべて登場人物のバックボーンに自然な形で埋め込まれ、その生活の内側に溶け込んでいる。だから、登場人物と会話を重ね、彼らのことを知り、感情移入をするうちに、おのずとそれらのテーマについて(プレイヤーの問題意識の有無に関わらず)考えを巡らせることに繋がってゆく。他者の話を聞くことと、他者の暮らしを想像することはニアリー・イコールなのだ。それはこのゲーム独自のシステムというだけでなく、われわれが実生活で他人と会話する中で無意識に行っている行為でもある。

ゲームにおいて、世界観に没入させる最短のルートは「プレイヤー自身の意思が物語に反映されること」だと考えられていた(少なくとも僕はそう考えていた)。ところが、このゲームには会話の選択肢が存在しない。プレイヤーにできるのは目の前で展開する人々の会話の行く末を静かに見守ることと、注文された飲み物をレシピに従って提供することだけだ。もちろん、正しくオーダーに応え、全員にとってのハッピーエンドを見守ることが「目指すべきゴール」であるのは確かだけれど、ときに本作ではそれさえも斜め上へ飛び越えてきて…いや、これ以上は言うまい。その目で確かめてもらわなければ、意味がない。

対立する2つの意見があったとして、プレイヤーはそのどちらにも与しない(できない)。プレイヤー自身の思想信条と異なる発言を登場人物が行ったとして、プレイヤーはその是非をジャッジしない(できない)。カフェのマスターという与えられた職務に忠実に、プレイヤーはあくまでも中立的な立場を貫くこととなる。その場その場ごとの反射的な判断を求められず、作品世界に直接干渉できないことが、逆に、じっくり両者の言い分に耳を傾け、向き合う時間を与えてくれる。当事者ではないからこそ、俯瞰的な視点から問題を見つめ直すことができる。それは一瞬の判断ミスが命取りになるようなFPSにも、衝動的なワンクリックが巡り巡って見知らぬ誰かを破滅させるSNSにもない特徴だといえるかもしれない。

ここまで読んでくれる人の多くはすでに本編をプレイ済みなのかもしれないが、もしまだだったら無料の体験版だけでも試してみてほしい(けど、いきなり「Coffee Talk 2」から始めるのはあまりおすすめしない、なぜなら「Coffee Talk」の後日譚である本作にたっぷりと込められた人物相関図の深みを十分に味わえない可能性があるから…いや、しかし、これは僕が前作もプレイしたことのある人間だから言ってるだけの身勝手な意見なのかもしれない…のだが、いや、しかし…しかし…)。
体験版で"体験"できる1日は、ごく自然な会話でありながら、驚くほど大量の伏線が仕込まれている。何をもって「伏線」とするかの定義は人によって違うかもしれないが、少なくとも、そこに登場するほとんどのエピソードは後から本編に再登場し、別の形で語り直されることになる。もし語られなかった部分があるとすれば、それはゲーム内世界ではなく現実のシアトルの…あるいはこのゲームの開発元であるインドネシアの、そしてわれわれが暮らす現実の世相を反映しているはずだ。


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