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書評『カンビュセスの籤』(藤子・F・不二雄)を読んで

おはようございます。
今日は有給を取っているのでこの時間からの投稿になります。みなさん仕事は元気にがんばっていますでしょうか。

今日は最近読んだ漫画の中でも、特に印象的なものを紹介したいと思います。

タイトルは『カンビュセスの籤』

作者はあのドラえもんの原作者として有名な藤子・F・不二雄さん
『ドラえもん』『パーマン』『おばけのQ太郎』など、
子供から大人まで今日でも楽しめるメルヘンチック・平和・笑いと涙にあふれた作品を多く世に送り出した、
もう誰もがご存知の名作者かと思います。

結論から言うと、
あの『ドラえもん』『パーマン』『おばけのQ太郎』など、
夢にあふれたメルヘンチック・平和な作品と同一作者だとはおおよそ想像つかないくらい残酷・シリアスな物語です。
そのため全員には決しておススメできない、まさに読む人を選ぶ作品だと言えます。

逆に考えると、それだけ考えさせられることが多い・深みを与えてくれた作品だなと感じました。

アニメ『カンビュセスの籤』より(1991年)
https://www.youtube.com/watch?v=Lp5T6dW3t84

本文ネタバレを含みますので、ぜひこのアニメを読んでから以下文を読んでみてはいかがでしょうか。(勿論アニメを飛ばして下記継読してもかまいませんのでそこはお任せいたします。)

①あらすじ(中盤まで)
②あらすじ(中盤以降、ネタバレ含む)
③この作品から考えられること


①あらすじ(中盤まで)

舞台は紀元前の古代ペルシャ時代から始まります。

古代ペルシアの兵士サルクは、カンビュセス王の命によりエチオピア遠征に行軍の一部として向かう。
しかし、道半ばにして食糧が尽き、
残った行軍は生き残りを賭けて籤(くじ)を引く。

赤籤を引いた者が残りの仲間の「食糧」にするという恐ろしい籤。
当たり籤を引いてしまい恐れをなしたサルクは、
仲間に襲われ必死の思いで逃亡する。

その時、突如として時空の歪みにはまり、
サルクは未来世界へと迷い込む。

そこは終末戦争(文脈から見るにおそらく核戦争)で生命体の一切が滅び、死の荒涼と化した不毛の世界だった…。

サルクは、そこでただ一人だけ生き延びたエステルという少女と出会う。
少女もまた、終末戦争で焼けつくされた世界の中、数少ない仲間の中から23万年をかけて生き延びたのだった。

飢え疲れ、瀕死のサルクを介抱するエステル。
言葉が通じないながらも、不思議で数奇な2人の男女の交流が始まる。

なぜ彼女だけ生き延びたのか。残りの仲間はどうなったのか。
答えは、介抱したサルクに食糧として分け与えた「ミートキューブ」に隠されていたのだった…。

②あらすじ(中盤以降、ネタバレ含む)

エステルもまた、終末戦争で生き延びた家族・親戚の中で生き残りを賭け、籤を引いていたのだ。

人工冬眠をかけ、体力維持をかけるためにも1万年ごとに籤を引き、仲間の肉を食べる。
仲間は「ミートキューブ」として食糧と化し、後世に生きる仲間のために蓄えられていったのだった。

そしてもはや地球上には存在しない救援をあきらめ、
地球外へSOSの発信をかけ救援の要請をはるか何十万年かけて続けてきたのだった。

少女の生い立ち・生き延びた理由を聞き驚愕するサルク。
何万年経ち文明が進化し、倫理も発達したと思われていた世界でも、
実は同じ歴史がまさに繰り返されていた。

2人もまた、籤を引き次の生命をかけてどちらが生き延びるかを決めねばならなかった。

恐れおののきその場から逃亡するサルクだったが、もはや地球上どこに行っても不毛の砂漠。どちらにしても死は免れない運命だとサルクは悟る。

諦めてシェルターに戻り自分の命を差し出そうとしたサルクに、エステルは「当たり籤を引いたのは私」と言い切る。

そしいてエステルは自ら裸体になり、ミートキューブになるための説明をサルクに果たすのであった・・・。

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②この作品から感じること


作品の前説で、作者の藤子さんは「なぜ人は生きるのか」ということを伝えています。

『なぜ人は生きるのか』という問いに対して、さすがご名答というものを僕は未だ聞いたことがありません。ただひとつ言えるのは、後世にかけて輪(=生命)が構成され、鎖としてひとつなぎでどこまでも後世に切れなくつながるようにという願いがあるのではないかと思うのです」

僕も同じような感想・考えに至りましたが、
だからこそ『食べることができる』『平和に世を生きることができる』ということに喜びとありがたさを感じなくては、
という思いをひしひしと抱きました。

ラストシーン、果たしてサルクは生き延びたのか。果たして地球外から救援の手は差し伸べられたのか。それとも地球は滅亡し生命一切息絶えたのか・・・。

答えはわかりませんが、自分がこの世にこの時代に生を受けた意味、与えられた命と人生を精一杯享受すること、
一切無駄にせずこの生を全うせねばという、
月並みではありますがこのような回答に至りました。

このアニメ・漫画、
ネット上では「藤子作品のトラウマ回」として幅広く知られているようです。

確かに『ドラえもん』に慣れ親しんでいる子供たちからしたらこの作品はいささか過激・かつ深刻なものに捉えられるかもしれません。

しかし、ある程度年齢を重ねてそれなりに人生を経験してきた自分(まだまだ人生これからですが)からすれば、
単なる恐ろしい・蓋を閉めたくなるような作品では終わらない「壮大なテーマ」を感じさせます。

子供・大衆向けに作品を描くことが多かった藤子・F・不二雄さんでしたが、
実はこのように読者に深く考えさせられるSFストーリーを数多く手がけています。
「SF短編集」として多くの作品が残っているので、興味のある方はぜひ呼んでみてはいかがでしょうか。(僕は早速ネットで注文しました笑)
https://www.amazon.co.jp/%E8%97%A4%E5%AD%90%E3%83%BBF%E3%83%BB%E4%B8%8D%E4%BA%8C%E9%9B%84SF%E7%9F%AD%E7%B7%A8%E9%9B%86-PERFECT%E7%89%88-%E3%83%9F%E3%83%8E%E3%82%BF%E3%82%A6%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%81%AE%E7%9A%BF-SF%E7%9F%AD%E7%B7%A8PERFECT%E7%89%88-%E8%97%A4%E5%AD%90%E3%83%BBF%E3%83%BB%E4%B8%8D%E4%BA%8C%E9%9B%84/dp/4091762018

またの機会に書評を書きたいと思うので、
その時にまた藤子さんの作品を深く見つめ、自分の人生とも照らし合わせていければと思います。

思った以上に筆に力が入り長文になりました。笑
ここまで読んでくださった皆さんに感謝します。ありがとうございました。
またの機会にお会いしましょう。


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