ファンノベル・アシアン戦記#5
始めに・ご注意
※この物語は海神蒼月の空想・妄想の産物です。登場人物に実在のライバーさんのお名前が登場しますがご本人とは直接関係ありませんので、この作品に関するお問い合わせ等はご迷惑になるためお控え下さい。
5:商業都市・フェティクス
馬車に揺られてやってきました商業都市・フェティクス。
大陸中から旅をしてくる行商人達が必ず立ち寄る交易都市で、聖󠄀ファーリア大陸のすべての品物がここにあると言われる都市だ。
もちろん、かなり大きな街でその分人口も多い。
商業が発達するのに比例して、周辺での工業も栄える。
朝も昼も夜も活気が衰えない眠らない街でもある。
しかし街の治安は比較的良い。
理由は隣町が王国軍が詰めている軍事都市・ファニティであり、フェティクスの治安はこうした軍付属の警察組織が睨みをきかせているからだとも言える。
ぽくぽくと緊張感のない馬の蹄の音を聴きながら、俺とメノウは広く整備された石畳の街道を往く。
目的地はギルド「ほしふる組」のフェティクス支所だ。
「メノウは来たことあるのか?」
俺はなんとなく聞いてみる。
「んぁ?あるよ?」
退屈に任せて小さくちぎった干し肉をカミカミしていたメノウが間抜けな声を上げた。
「フェティクスじゃ知り合いが会社をやってて、よくパシらされてさぁ…」
メノウがふと遠い目をしてしまったので、俺はそれ以上追求するのはよした。
あまり良い思い出じゃなかったらしい。
もしかしたらダマされて土を掘っては埋める仕事を1日中やらされてたのかも知れない。
「…あ、あそこ」
何か言いかけた言葉を投げ捨ててメノウは前方を指さした。
ここの街道沿いにはかなりデカい建物が並んでいる。
そのうち、頭1つ抜けているデカい建物を指しているようだ。
「あれ…か?」
指先を目で追った俺はちょっとビビった。
セイファルアの「ほしふる組」の本拠地もかなりデカかったが、ここは更に上を行った。
「フェティクスは支所なんだよな?」
建物からメノウに視線を移して聞く。
「そうだね」
俺の言わんとしたことを察したのか、メノウは軽く苦笑いを浮かべながらそう言った。
☆
「ん?お客さん?」
入り口前に馬車を止めると開け放たれた入口の傍に立っていた、真っ白なケモ耳の女の子がちょこちょこっとやってきた。
「ここ、ほしふる組であってるか?」
俺が聞くとケモ耳少女は頷く。
「あ、もしかして こゆちゃんの遣いで来たの?」
ぱぁっと笑顔。
「ああ、お遣いだ」
俺が言うとケモ耳っこはぷぷぷと笑い出した。
「お兄さんみたいな大の大人がお使いってww」
こんにゃろ、人目もはばからずに「ぷーくすくす」しやがって。
あと、字が間違ってるぞ。
「これ、誰に渡したら良いのかな?」
メノウが聞くとケモ耳っこは自分を指さす。
「ん?発注したのはボクだよ?」
…あ?
「いや、明らかに三下っぽいじゃんか。イキリは良いから責任者…っていうのか?…に来たぞって伝えてくれよ」
俺は御者台を降りて馬の首を撫でながら言うと、ケモ耳っこはPonすかおこらはった。
「誰がPonだ!」
いや、怒るのそこか…ってかなんで思ったこと読まれてるんだよ?
「言ってないし。で?」
はいはい、と俺が軽くあしらうとケモ耳っこは ずいっと近寄ってきた。
「だ!か!ら! ボクがほしふる組・フェティクス支所の所長のアルバだよ!」
と、可愛らしすぎて ぷんすかしてもさほど怖くない顔ですごんできた。
「はいはい。ほら、よしよし」
そう言って俺はケモ耳っこ改め、アルバの頭を撫でててやった。
「こらー!本気にしてないなー!?」
と わめくけど、耳はピコピコ、しっぽはわさわさ。
頬も幾分上気している。
…こいつ、さては頭ナデナデに弱いな?
「ね、アシアン?」
その様子を見ていたメノウは御者台を降りて寄ってくる。
「あ?メノウも撫でて欲しいのか?」
アルバの綺麗な白い髪をナデナデしながら聞くと、結構素の声で「じゃなくて」と素っ気なく遮られてしまった。
もこもこをナデナデしたかったのに、無念。
「預かった手紙、宛名がアルバになってるんだけど?」
もこもこベストの内側からすいっと出てきた手紙の封筒には「親愛なる アルバへ」と書かれていた。
「お…?」
俺は手紙を見ていた視線をアルバに向ける。
頬を真っ赤にしながらこっちをにらみつける(全然怖くはないんだが)アルバ。
「あー…うん。えー…あー?」
なでなでなでなで
「もうっ!いつまで撫でてるんだよ!」
アルバは俺の手から離れる。
今まで散々無抵抗に撫でられていたくせに…
「あやまらないよ!」
俺はドヤってみた。
腹パンが来た。
結構重い一撃だった。
「…ぐふっ…それで…荷物にお間違いはないでしょうか?」
メノウはテーブルに案内されてお茶を飲みながら、床に正座させられてアルバさんに問う俺を見下ろしている。
建物に入るなり、テーブルの椅子に座り「お茶はまだか!」とギャグをカマしたら鳩尾と、やや金的を掠って俺は悶絶する羽目になった。…いてぇ。
「こゆちゃんの遣いじゃ無かったら入口に吊してるとこだよ、まったくもう!」
と、かなりオコなご様子で目録をペラペラ確認している。
まったく、冗談の通じない奴め。
マジの一発入れやがって。
「ん、おっけーだね」
アルバはメノウに向かってニコッと笑う。
「このお茶、おいしーね」
ほくほく顔でお茶を飲むメノウ。
この羊、お茶の味が分かるのか?
「なんか失礼なこと考えた?」
メノウがチラリとこっちを見遣ってきたので、俺は反射的に目を逸らした。
うう、人外っコ2匹が俺をいじめる…
「でさ」
アルバは少しマジな表情で床に正座の双剣士…つまりは俺の前にやってくる。
「これから、どうするの?」
アルバの声も表情も今までのおちゃらけを吹き飛ばす空気感を纏っている。
「わからん。何せ記憶もロクに無いし行く当てもない。メノウもいつまでも素性の知れないヤツに付き合わす訳にもいかないだろうな」
俺のマジトーンに、メノウがピクリと反応したのを視界の端に見た。
「そっか…」
アルバは腕組みをして目を閉じた。
「ボク達ほしふる組は厳密には冒険者ギルドじゃないから、クエストを斡旋はできないんだ。キミは…」
そういえば自己紹介をしていなかったなと思い立ち、「アシアンだ」と補足する。
「…アシアンは剣士なんだね? 」
アルバはそこまで言って「ん?」と小首を傾げた。
「双剣士・アシアン? アシアン…ブルームーン?」
何か記憶のどこかになにかが引っかかっているようなもどかしさ。
「ま、いいか。今日のところはこの街に滞在するんでしょ?」
アルバはそれ以上深く考えるのは止めたようで、俺とメノウに視線を送る。
「今からセイファルアにとんぼ返りはしんどいなぁ」
俺は天井を見上げる。
おまけに馬車ともここでおさらばだ。
徒歩じゃ更に時間がかかってしまう。
「さて、どうしたもんか」
アルバに向き直って苦笑いしてみる。
「ねぇ、メノウちゃんはなんでこんなのと一緒に旅してるの?」
アルバはヤレヤレと表情で物語りながらメノウに問う。
「行き倒れをほっとくと寝覚めが悪そうなんだよねぇ」
メノウの横顔が苦笑いしている。
「え?なに?アシアンって行き倒れなの?」
にまぁっとアルバが笑う。こっち見んな。
「おまけに記憶喪失じゃ余計ほっとけないでしょ?」
メノウの表情が完全に「しょうがないなぁ」になっている。
「…記憶喪失なの?」
アルバが俺に問う。
「地面に倒れてて、この羊に木の枝で尻を突かれたところ以前の記憶が無いんだな、これが」
正直に言えば、「俺」の記憶はある。
だが、アシアンの記憶は断片的でどこか他人事だ。
…いや、まんま他人か。
フォースやアシアン達の冒険譚はかつて随分昔に自分で創作して書き綴ったから断片的には覚えている。
だが言っても、自分の中では中2ゴコロ全開のある意味夢小説的な扱いだから記憶にあまり残っていない。
俺──つまりは海神蒼月の記憶ならバッチリだ。
要はアシアンとしての記憶が無い以上は「記憶喪失」と言う表現は間違いではない。
「…その割りには随分呑気に見えるんだけど?」
アルバさんジト目。
「悩んで騒いだって状況が好転する訳でも無いからな」
それに、自分の作った世界を体験出来るなんてそうそうある話じゃない。
そっちのワクワク感が今はまだ勝っていると言うだけだ。
「ま、それもそうか」
アルバさん、くるりと回れ右。
てくてくてくと3歩歩いてもっかい回れ右。
「話し通しておいてあげるから、『流星亭』っていう宿屋に行ってボクの紹介だって言いなよ。そしたら今日の宿くらいは都合してくれると思うからさ」
アルバは人差し指を立てて、俺たちにそう告げた。
☆
アルバに礼と別れを告げて俺たちはアルバに言われた通り『流星亭』の前にやってきた。
うん、やってきたんだけど…
「これまたデッカいな…」
俺、上を見上げてあんぐり。
「なあ、ほしふる組ってどんだけデッカい組織なんだ?」
メノウをつい見てしまう。
「んー、よくわかんないけど組織としてはかなり大きい部類に入ると思うよ?」
口元に人差し指など宛てながらメノウは応える。
つくづくほしふる組の影響力ってヤツとあの幼女が繋がらなくなっていくような気がする。
いや、なんならあの取りまとめ役のココロニ・ノンノなる女性が大黒柱に思えて気さえする。
中に入ると小広いホールの奥にカウンターがあり、受付のお姉さんが座っていて。
「あの、ほしふる組のアルバって言う子にここを紹介されたんだけど、今晩の寝床を都合してもらえないかな?」
俺が率先して受付のお姉さんに告げると「アルちゃんの紹介なら」と質素ではあるが決して粗末ではない部屋に通された。
俺とメノウが同じ部屋に。
「今、お食事ご用意しますね」
などとのたまって、案内してくれたスタッフさんはパタムとドアを閉めた。
俺もメノウもしばし放心。
「…一緒の部屋か」
確かにタダ飯まで喰らおうとしてるヤツが贅沢は言えまい。
俺より少しだけ長く放心しているメノウを尻目に食卓になるであろうテーブルにつく。
ガタッッという椅子を引く音で我に返ったらしいメノウは呆れた表情をした。
「ほんと大した肝っ玉だわ」
溜息のようにそう言うと、メノウは俺の正面に陣取った。
★
「それにしても一足遅かったか」
今し方、セイファルア名物の「ぶっかけうどん」なるものを平らげて一言。
うむ、これはなかなか美味い。
朝焼亭なき跡、セイファルアの名物は大司教の建てた、あの馬鹿デカい教会だけになってしまったかと思ったらこんな美味いものが名物になっていたのか。
調子に乗って3杯も喰ってしまったではないか。
「すぐに追えば追いつけたのでは?」
と、上品に頬に手を当てて小首を傾げる対面の美人…ロザリー。
ごもっともだが、自分もセイファルアへの里帰りは久々なのだ。
少しくらい物見遊山の旅を味わっても良かろう。
「あー、店主」
俺はカウンター奥の若いタヌキの亜人に声を掛ける。
「はい、なんでしょう?」
洗い物でもしていたのだろう、エプロンで手を拭きながらこちらへやってくる。
「実は人を探している。アシアンなる双剣士に聞き覚えはないか?」
アシアン、という名に心当たりがあるようで店主は反応を示した。
「アシアンさんって…あの行き倒れのですか?」
おずおずと聞いてきた言葉は俺の想像の斜め上だった。
「行き倒れだと?」
あのアシアンがか?
俺との旅の最中はアイツはそんなことに陥る事なんて無いように思えた。
「ああ、ごめんなさい。この人、別に怒っている訳じゃないのよ」
ロザリーの声で俺は我に返った。
見れば店主はすっかり恐縮しているようだ。
「ああ、すまない。驚かしてしまったか」
俺は深呼吸をすると、椅子に凭れ直した。
「いえ、大丈夫です。やはりアシアンさんはあの…」
店主は俺の方を見ながらおずおずと。
しかし皆まで言わない。
この若い店主は聡い子だ。
俺の正体に気付いた上で濁している、
「さてな。追いついて首根っこ捕まえてみないとなんとも、な」
無意識に溜息が出た。
「さて、美味いうどんとやらをごちそうになった。もし良ければまた訪れたい。構わないか?」
俺とロザリーは示し合わせたように共に立ち上がり、店主は
「ええ、いつでもお待ち申し上げております」
と、最上級の笑顔で俺たちを送り出すのだった。
☆
ファティクス・流星亭
…の一室。
俺は壁に凭れ、床に座って眠る。
メノウのことはひょいと持ち上げて問答無用でベッドに放り込んだ。
どうせメノウのことだ、俺が床で寝るなんて言ったらなんだかんだと言い合いになりそうだったので実力行使だ。
いくらナニがアレでも一緒のベッドに入る訳にも行くまい。
ベッドが1つしか無い以上はメノウに使わせるのが当然だ。
メノウにはここまで返しきれない恩を受けてきたのだ。
そのくらいは ささやかなものだ。
俺がさっさと床に腰掛けたのを見て、メノウもそれ以上何か言うのを止めたようだ。
ただ一言だけ、
「ありがと、おやすみ」
とつぶやくような声が聞こえた後は、規則正しい寝息が程なく聞こえてきた。
やはり疲れていたのだろう。
そんなメノウの方をちょっとだけ見遣りながら俺は目をつむる。
微睡みの前、
『これ以上、メノウのことを引き回して良いものか?』
と、
俺は…
答えの出せない問いを繰り返すのだった。
#5:商業都市・フェティクス
終わり
あとがき
…という名の本音ぶっちゃけのコーナーですw
書き始めてから随分時間が経ってしまい、その間にも随分と自分の推し環境にも変化がありました。
出演予定だったライバーさんの卒業や、新たな出会い、縁。
とても正直に言えば、この先の展開を決めあぐねています。
アシアンの中の海神蒼月が思い悩む通り、本当にこのまま雪乃メノウを引きずり回しても良いものかという点も勿論。
きっとこの後の展開はこんなにまったりした物にならなくなると思います。
雪乃メノウという子はこういう日常系でも戦記物でもこなせてしまう強いキャラクター性があり、きっとアシアンと海神蒼月の旅の最期を見届けることが出来るのだろうと思います。
今後、どんな人物がアシアンとメノウの前に現れても上手く立ち回ってくれるだろうという信頼感があります。
アシアン戦記、といいながらなんだか「雪乃メノウ戦記」になりつつある気もしてます。
こんな便利な素敵なキャラはそうそう居ません。
妄想に付き合わせて済まんな、めのちゃん。
さて、アシアン・メノウの旅の裏にはフォース・ロザリーの旅が進行しています。
少しだけアシアンとフォース・ロザリーの関係性をおさらいしておきましょう。
かつて昔、それは今や吟遊詩人に唄われる程の昔。
アシアン戦記、そしてそのベースとなった物語であるフォース戦記の舞台となる聖ファーリア大陸では2度の「神聖大戦」というものが怒っています。
第1次神聖大戦はレルア地方の大草原で強大な魔物達との戦争が起こりました。
その筆頭が今や聖フォース大陸の王、フォース・ランデルティナ・トラップの両親と、セイファルアの教会隠居の大司教「フリード・グリーン・クライスター」、『黄昏の聖騎士』の二つ名を持ち、セイファルアのパブ兼フォスの育ての親である「グライフェル・トゥルーズ」(マスター)達、総勢6名のパーティーでした。
この際、人間の勝利と引き換えに、グライフェルは老いない呪いを受けます。
フォースの両親、カインとエリスは親玉の封印の人柱になったと言い伝えられています。
まぁ、フォースと妹のアリーナがきちんと生まれているあたり、まぁやることはやっていたようですw
そのお陰で第2次神聖大戦が起こった際はフォースと、神官のロザリーを始めとしたドタバタパーティーが、またしても魔物を利用して力で大陸を支配しようとする野望を阻止するのです。
フォースが所属する、グライフェルが経営するパブ兼何でも屋の『朝焼亭』のもう一人の所属冒険者が、ローク島出身の双剣士であるアシアン・ブルームーンという訳なのです。
ちなみに…第2次神聖大戦の説明が薄いのは、まだ未完だからです。
だからアシアン戦記を書き進めることは、フォース戦記の結末を確定させる作業でもあります。
勿論「パラレルワールド」という夢オチのようにすることも出来ますが。
ともかく、今はこのアシアン戦記の行く先をもう少しだけ追ってみようと思います。
とても筆は遅いですが、完結はさせるつもりです。
それでは次回、第6話でお会いしましょう。
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