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カプチーノは午前に飲むべきか?ーオーストラリアでの経験からー

 先日、授業中、コーヒーが話題になった。コーヒーを大好きな学生がいたのだ。私が「カプチーノが好きです」と言うと、肯定的な、しかし驚きの反応が学生からあった。カプチーノ好きは珍しいのだろうか。

 今日、妻とレストランに行ったのだが、メニューにカプチーノはなかった。そこで、「カプチーノはないのかな」と言うと、妻から「私はカフェラテ。なんでカプチーノが好きなの?」と聞かれた。なぜカプチーノが好きなのか。おいしいからと言えばそれまでだが、そもそも、私がカプチーノの存在を認識し、初めて飲んだのはいつだったのか。すぐには思い出せない。

 しばらくすると記憶がよみがえってきた。大学生の時、指導教員の先生とカフェに行った時、先生は「カプチーノ」を注文した。同席した学生もカプチーノを勧められたので皆注文した。この時が初めてのカプチーノだったと思う。指導教員の先生は「オーストラリアのカプチーノはおいしい」と言っていた。その時、カプチーノの英語の発音も教えていただいた。カフェで皆でカプチーノの英語での発音を練習したことを覚えている。当時、1990年代初頭であった。

 それから時が過ぎ、2000年頃、調査でオーストラリア、メルボルンに行った時の話になる。調査が終わり、12時半を過ぎていた。私はおなかがとても空いていた。ビクトリア州教育省前のストリートにはレストランは無く、一軒のカフェがあった。その名をコミューン(commune)と言う。コミューンに入ってみる。なぜか入口から会計の場所まで迷路のようになっている。カルチェラタンのように。教育行政機関の官僚が集うカフェの名前がcommune(庶民)だなんてわるい冗談だ。そう思った私はひとり愉快な気分になったが、教育行政官僚の他の客達は、当然何も気にしていなかった。

 外は冷たい雨が降っていた。冬のメルボルン。コミューンで、昼食のパンとドリンクを買う。温まるために「English Tea, please」と注文した。完璧なオーダーのはずだった。ところが、店のマスターが「No」と言う。「Why?」と聞くと、「Coffee, only」と言う。そうか、ここはコーヒー専門店か。コーヒーを頼もうとしたが、メニューには多数のコーヒーの種類が並び、圧倒される。マスターはなぜか私をじっと見て動かない。早く決めろということなのか。そう思った瞬間、Cappuccinoという英単語が見えた。すぐに決めて注文した。「Cappuccino, please」発音も完璧だった。と言うか、カタカナのカプチーノに抑揚をつけるだけで、正しい発音になる。これで伝わった、と思うと、マスターは、納得したかのように、ゆっくりと「Oh. You  drink,  Cappuccino」と言った。その時、13時だった。

 オーストラリアに行く度、シドニーでも、メルボルンでも、カフェでカプチーノを注文した。カプチーノには、いつもキレイなデザインアートが描かれていた。

 ある時、一つのことに気がついた。午前にカプチーノを注文すると店員は笑顔で、「All right 」と言う。しかし、午後に注文すると、店員は決まって「Oh, you drink, cappuccino」(あなたはカプチーノを飲むのね)と言う。怪訝な顔こそしないが、微妙な空気が流れる時もある。なぜなのか。気にも留めなかったが、調べると、イタリアでは、カプチーノは午前11時までに飲むものであることがわかった。カプチーノはミルクが多いからだそうだ。

 オーストラリアは、イタリア系移民が多く、イタリア文化が根付いている。オーストラリアを「小さいヨーロッパ」(Small Europe)と呼ぶ人もいるくらいだ。メルボルンやシドニーで、午後にカプチーノを注文した私は、変わった人か朝寝坊した人と思われたのだろうか。私のようなカプチーノ好きには午後であってもおいしい。しかし、下記の動画のような真相を知った今では、渡豪した際、午後はカプチーノを注文すべきか、他のドリンクを注文すべきか迷うところである。何時であっても、注文した以上、カプチーノを混ぜる際、スプーンの動かし方が不機嫌にならないように注意しなければならない。

(©️Dr Hiroshi Sato 2023)



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