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党大会は、伝えられるように人事面で習派大勝の結果となり、早くから目指していた異例の三期めに入ることが確定しました。現在、メディアは事実主体で伝えている段階で、やがて論評に移行するでしょうが、ここで論評しておこうと思います。
習派はしばらくは勝利の美酒に酔うでしょうけれども、事態は打開されていないばかりか、中国の袋小路はさらに深まることでしょう。以下では読みやすいように、論点主体に述べてゆきます。

習政権は春先には、三期めに黄信号が灯っている状態でしたが、そこから猶予期間があったことで国内的な難局を乗り切りました。
春先に拡大した新型コロナの蔓延と、それに対する中国独自の対策としての都市封鎖(p.48参照、効きの悪い国産のワクチンにこだわるあまりに、経済活動を犠牲にして地域の感染が収まるまで待つという、後進国モデルの政策)に伴う混乱と、経済成長の低下によって、政権は一時は危機的な状況にありました。なお今回は党大会の悪材料となることが確実だった、経済指標の定期的な公表を延期するという、姑息な手段まで動員されました。

・ 今回の人事にみる決定的に重大な変化は、過去20年間続いた、紅二代(習主席以下の革命貴族)と団派(共産主義青年団派の略称、旧ソ連流の若手から人材を発掘する機構)のバランスが決定的に崩れたことです。
団派については胡錦濤前主席派とも、やはり退任する李克強首相派と言い換えてもいいでしょう。以前にはこれ以外にも、主要な勢力の一つとして江沢民前々主席派の、上海閥と称されるグループがありましたが、現政権による禁じ手というべき、この間のなりふり構わない汚職摘発を通じて、一様に弱体化していました。
今後の中国は、人材の供給源が習派に限られたことで、実際には政権として弱体化してゆくでしょう。政治局常務委員(7名)ばかりか政治局員(24名)に至るまで固めたことで、意思決定自体は容易になっているのですが。
なお習派といったところで、福建省や浙江省などの、彼が以前に任地として行った先々で習氏の知遇を得た気心の知れた部下ばかりで(正確にいえばすべてが直接の部下だった訳でもなく、今回の政治局常務委員メンバー7名の中には、近平氏の亡くなった父親の地元の役人であった時に、その陵墓を拡張するといったゴマ擂りで近平氏の歓心を買うことで栄達した者が2名も入っています)、日本であれば身内の内輪で固めた、「お友達政治」と批判される対象です。

・今回干された他派がクサることもあって、人材登用という観点では国家的には明らかなマイナスです。 特に共青団系の人材はコネの余地が少なく、実力主義で上がってきた人々なので、なおさらです(次期首相が見込まれる習派の李強氏に関しては、政権にしてみれば一時期共青団にいた人物であるという申し開きはできますが、共青団の主流の人材とは到底いえません)。
・ カウンターパワーを欠いて、権力闘争をする内部の活力すら喪った中国の指導部は私的な党派と化しました。文化大革命以来の個人崇拝はその証にほかなりません。政権は今後ますます内部からの健全な批判を欠いた独善へと向かい、主席は完全に「裸の王様」化して、本書に記した奈落(p.203以下)への転落に拍車がかかってゆきます。今回主席と習派の握った異例の大権は、体制自体の末路の現れといえます。
「習派」なるものは主席個人をめぐる複数の地方閥と学閥が並立したものです。経済運営に長けたエリートも在籍しておらず、指導部内で数は増えたものの人材は手薄と評する外ありません。よくて徳川家康の幕府総業時の怪僧 天海のような人物であり、「政策プロデューサー」ではあっても行政の実務を継続的に務めて成果が出せるタイプではありません。極論するならば「おべっか使い」で出世した幹部が大半です。
主席自身以外に全体を統括できるリーダーは不在で、後継者候補も育てていないので、今後万一 習氏個人の健康が損なわれることがあれば、意思決定ができなくなり、中国指導部は一挙に弱体化するリスクを孕んでいます。
現政権は、政権崩壊後の国内の動乱の拡大の危険性を内包した政治的メカニズムともいえるでしょう。

他派にしてみれば、今回は彼らがやりたいようにやるに任せたものの、現政権は遠からず、経済で保たなくなると突き放して見ているのかもしれません。
先述の李強 次期首相に関しても、短期間上海のトップに据えられている間に上海の感染状況が拡大し、長期にわたる都市封鎖を余儀なくされたことで、その指導力が疑問視され、一時は首相の目はなくなったと考えられていました。これを今回強引に引き上げたことだけでも、習派に対する反感は国内に相当強まっているといえます。

今回は特定の記事を下敷きにしている訳でもないので、画像は何でも好かったのですが、退任の見込まれる共青団のホープ、胡春華副首相にしてみました。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGM2310S0T21C22A0000000/

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