2023年度　東京医科歯科（東京科学）大学　医学部学士編入試験（問題２）　解答例・再現答案・開示点数

2022年に実施された、2023年度入学の筆記試験（問題２）の解答例です。有料パートには、再現答案と開示した点数が載せてあります。

• 筆者は、２０２３年度、２０２４年度入学の、２回受験しました。

• 私が個人的に作ったものです。

• 一次不合格者です。ただし、筆者は別の大学での通過経験があるほか、医学系大学院を修了しているため、分野における専門知識を有しています。

• 別解や誤りのご指摘等はぜひコメントまでお願いします。特に(3),(4),(5)は別解があるかも。

• 問題は過去２年分、大学から入手できます。

• 出典：Is a “Cytokine Storm” Relevant to COVID-19? (June, 2020)

はじめに

• 当日、教室のホワイトボードに「解答言語の指定がない場合、日本語、英語どちらも可」とありました（問題用紙にはその注意書きはありません）。

• 英文（論文）のことを「本文」、(1)など、かっこがついたものは「設問」と呼称していきます。

• 問題冊子p11から問題２が始まっています。このnoteでは、In its most … から始まる文章を"introduction"とよび、Cytokine storm has … から始まる段落を段落１として番号を振っていきます。設問はp14で終わっており、全部で６段落あることになります。

設問と解答例

(1) 下線部(a) の tocilizumab について、どの様な機序を有する薬剤か本文中の記載に基づき、日本語で説明せよ。

解答例（解答欄は２行）：
インターロイキン６の活動を標的としたモノクロナール抗体。

コメント：
直後の文章を和訳すればOKです。「リガンドに拮抗」など本文にないことは、知っていても入れないほうがいいです（理由は後述）。

(2) 下線部(b)に述べられている complex interplay が何を意味するか説明せよ。

解答例（解答欄は２行）：

• サイトカインストームには定義がないこと。

• サイトカインストームは関連する因子が複雑で、メディエーターによる病態の定量が難しいこと。

• サイトカインストームは関連する因子（の相互依存）が複雑であること。
  

コメント：
１段落はCytokine storm has no definition. から始まっており、段落全体がそれについて述べられているため、この文（の単純な和訳）を解答に使ってもいいかも。
他にも、段落全体を踏まえて２、３個めのような解答例のようにするのもいいと思います。

あえて注意を述べるならば、時間に追われながら設問だけをみて、長めの解答を作ろうとしないように気をつけることです（私は当日、解答欄の行数が５行くらいあると勘違いして、段落をまとめようとしてしまっていました・・・）。解答は２行以内にまとめる必要があります。

サイトカインストームとは

ここで、本文中で重要なcytokine strom についてまとめておきたいと思います。段落１「サイトカインストームという用語には定義がない（"cytokine storm has no definiton." ）」とはあるものの、段落１と段落２がヒントになります。

• インターフェロン（IFN）、インターロイキン（IL）、TNF(tumor-necrosis factors)、ケモカインなどによって特徴づけられる過剰な免疫反応（特にIL-6）。

• 予後が悪い（adverse outcomes）。

"a hyperactive immune response characterized by the release of interferons, interleukins, tumor-necrosis factors, chemokines, and several other mediators."（段落１）
"the term cytokine storm was described as a feature and associated with adverse outcomes."（段落２）

• つまり、「IL-6などの因子が血液中で高い」「予後が悪い（重篤な症状）」の２点が特徴であるといえます。
  

(3) 真のサイトカインストームを来すと、本文中で指摘されている疾患を箇条書きせよ。

解答例（解答欄は５行）：
acute respiratory disease syndrome
cytokine release syndrome
systemic inflammatory response syndrome
sepsis

上記それぞれの疾患が解答になる理由

ARDS (acute respiratory distress syndrome)：

• COVID-19がサイトカインストームを起こすかどうかという議論をするために、ARDSがSCOVID-19 と比較されている。

• 特に、ARDSの過剰炎症性の表現型は、サイトカインの値が高いこと、ショックの頻度の高さ、予後の悪さによって特徴づけられる、とあること：

The hyperinflammatory phenotype of ARDS is characterized by elevated proinflammatory cytokines, an increased incidence of shock, and adverse clinical outcomes.

段落２（p12）

CRS (cytokine release syndrome)：
５段落（p13）に "cytokine release syndrome (CRS), a term frequently interchanged with cytokine storm" とあるため。

systemic inflammatory response syndrome, sepsis は自信がない：
この２つが入るかどうか、私は自信をもって判断がつきませんでした。以下「解答になる理由」と「ならない理由」について検討していきます。

真のサイトカインストームを来すと考えられる理由：

• systemic inflammatory response syndrome（全身性炎症反応症候群）は、救命医療において歴史があるという言及もあり、筆者が述べるadverse outcomesに該当すると思われる。

• 敗血症（sepsis）を定義するために、「一連の症状（This constellation of symptoms。以下）」が用いられている。

「真にサイトカインストームを来すとはいえない」理由：

• 「サイトカインストームと称されるもの（purported cytokine storm ）」という表現がされている。

• 血液中のメディエータについての言及が微妙（単にmanifestations とある）。

"The manifestations of elevated circulating mediators in the purported cytokine storm are likely to be endothelial dysfunction and systemic inflammation leading to … .
「サイトカインストームと称される（purported）ものにおいて、循環するメディエーターの値が高いことの現れは、（熱、頻脈、多呼吸、低血糖へとつながる）内皮機能不全と全身性炎症である可能性が高い」

”This constellation of symptoms already has a long history in critical care, known as systemic inflammatory response syndrome, and was used to define sepsis for decades. "
「この一連の症状は、全身性炎症反応症候群として救命医療において長い歴史があり、敗血症を定義するために数十年用いられてきた」

6段落（p14）

pneumonia は以下の記述から、あてはまらないと思います。

One hypothesis is that severe viral pneumonia from COVID-19 produces primarily severe lung injury, without the same magnitude of systemic responses in most patients with COVID-19 as reported in prior studies of the hyperinflammatory phenotype in ARDS.

3段落（p12）

この設問が難しい点：

• 筆者の主張する「サイトカインストーム」の特徴を理解する必要があること

• 「ウイルス名」は「疾患名」ではないこと。つまりSARS-CoV-1, influenzaなどは明確に誤答。

• 疾患の名前（および症状）が複数登場すること（ARDS, alveolar microthrombi, influenza ARDS, tachycardia, tachypnea, sepsis）。

• それぞれがサイトカインストームを来すかどうか、検討するのに時間を要すること。