土木学者のデタラメ消費税分析

土木工学が専門の藤井聡がこの番組で出鱈目だらけを喋っていたので、特に目立った点を指摘する。

経済成長率

まず、この記事(⇩)の2ページ目の実質民間最終消費支出のグラフを示して、

「日本経済は2014年4月の消費税率引き上げによる落ち込みから2014年3月の水準に戻るまでに8年かかる」
「2.61%→1.14%→0.41%の三つの関係から数学的に外挿すると、2019年10月の消費税率引き上げ後の伸び率は0.21%に低下する」
「日本経済は2%落ち込むので、2019年3月の水準に戻るまでに10年かかる」
「安倍内閣は民主党の状況に戻るまで18年かかる」
「これどうするんだというのが僕の学者としての心からの心配・憂慮です」

との内容を述べていたが、民間最終消費支出の伸び率をGDPの伸び率と混同させることを狙っていたと思われる。

確かに、民間最終消費支出は駆け込み需要で急増した2014年Q1の水準には戻っていないが、安倍内閣発足前の2012年の水準は上回っている。GDPは2015年Q2には2014年Q1の水準を超えているので「8年かかる」は完全な誤りである。

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片山さつきが「2.61%のまま行けた証拠が全くないんじゃないですか」と突っ込んでいたがその通りで、1997年度以降に家計消費の伸び率が低下した主因は、企業の経営方針が「最高益を上げても賃金を抑制する」株主至上主義になって労働分配率が低下したことで、消費税率引き上げではない。実質賃金が低下しているのに家計消費が2.61%で伸び続けるわけがない。

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下のグラフの薄緑色の直線の傾き(実質GDP伸び率)は1.7%と1.1%だが、この0.6%ポイントの低下は2014年4月の消費税率引き上げによるものではなく、主に世界経済のいわゆる「長期停滞」を反映したものと見るのが妥当である。

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実際、景気拡大が続くアメリカ経済も、実質成長率は低下している。

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国民が熱狂的に支持した構造改革によって、日本経済は内需主導から外需頼みになってしまったので、海外経済の減速が成長率低下に直結する。経済成長率の低下の主因は藤井が言うような消費税率引き上げではない。

税収

藤井は「消費税が伸びると所得税と法人税が下がるのは必然的な現象」「97年の消費増税以降、税収がどんどん下がって60兆円あったものが39兆円に」と述べたが、これが誤りであることはデータを確認すればすぐにわかる。

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一般会計の税収が60兆円だったのは1990年度と1991年度で、1996年度は52兆円、1997年度は54兆円、39兆円になったのはリーマンショック~世界大不況に直撃された2009年度なので、「60兆円→39兆円」は1997年の消費増税とは関係ない。

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2014年の消費増税後も所得税と法人税は増えている。国と地方の税収は2018年度には過去最高を更新している。

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片山が指摘していたように、法人税は実効税率が49.98%(1997年度)から段階的に29.74%(2018年度)へと大幅に引き下げられたことが減収の主因で、藤井が言う「消費税率引き上げ→景気悪化→企業業績悪化→法人税減収」ではない。所得税も同様である。

藤井は消費税率10%の場合と、8%と5%にそれぞれ減税した場合の2035年度の税収を「計量経済データに基づいて京都大学で推計した」結果を

10%:51.2兆円(2018年度比-15%)
8%:56.7兆円(同-6%)
5%:80.3兆円(同+33%)

と示したが、このような明明白白な嘘をつきまくる人物のシミュレーションを鵜呑みにできるはずがない。片山が「それは申し訳ないけど成り立たないと思うな」と言う通りである。

学者ではなく社会運動家

藤井の数々の嘘はこれまでにも[ファクトチェック]で検証しているが、専門知識不足のために誤ってしまったのではなく、読者・視聴者をミスリードするために、データをつまみ食いして不適切なグラフを次から次へと作成する常習犯である。確信犯的に「消費税廃止という大義のためなら嘘は許される」「社会運動家としては正しい」と思っているのだろうが、学者としての誠実さを欠いていることは間違いない。「学者として」「京都大学教授として」と殊更強調するのも、「うそ、大げさ、まぎらわしい」を自覚しているからだろう。


古市 上野さんはずっと敵がいたわけですか。
上野 そう。だから戦略的には動きますよ。私は経験科学の研究者だから嘘はつかないけど、本当のことを言わないこともある。
古市 つまり、データを出さないこともある?
上野 もちろんです。
古市 それはいいんですか?
上野 当たり前よ。それはパフォーマンスレベルの話だから。
上野 そう。その話を小熊英二さんに話したら、「社会運動家としては正しい選択です」と言ってくれました。

京都大学は自浄能力を示すべきではないか。

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