銀行のヴァーチャルなmoney creation

先日の記事の補足説明。要点は以下の通り。

新発国債を⑴銀行以外の民間経済主体が引き受ける場合は民間部門の銀行預金が取引銀行の中銀預金と両建てで減少するが、⑵銀行が引き受ける場合は減少しない。このことは、⑵では銀行の対政府与信によって取引には表れないヴァーチャルな預金のcreationが生じていることを意味する(故に±0)。財政支出後の民間部門の預金量が⑵と⑴で異なるのは、国債消化時の預金のcreationの有無のため。

図の✚の左右は資産と負債、上下は増加と減少を示す。

民間の経済主体XがA銀行から金を借りる。XはすぐにYから現金払いで物品を買う予定があるので、預金口座への振込ではなく直接現金を借り出す。

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XがYから物品を現金払いで購入する。

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YがB銀行に現金を預け入れる。

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一連のプロセスによるバランスシートの変化が④になる。B銀行にYの預金が現出している。

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銀行が借り手に信用供与すると信用貨幣がcreateされることから、この預金の真のcreatorはXに貸したA銀行であり、単に現金を預かっただけのB銀行ではないことがわかる。

そのことは、AとBをまとめて銀行部門、XとYをまとめて非銀行部門とすると明確になる(⑤)。新たに増えた銀行預金に対応するのはA銀行の貸出金なので、①でA銀行の貸出によってcreateされた預金(→同時に現金と交換される)が現金の移動によってB銀行に移ったものである。

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ドイツBundesbankの解説にあるように、現金の銀行口座への預け入れではmoneyの形態が変化するだけでcreationは起こらない。

When a bank customer withdraws money from his or her account, the book money is turned into cash. When its customer makes a cash payment into the account, the cash becomes book money again. No new money is created by withdrawing from or paying into an account. The money merely changes its form.

スイスの中央銀行SNBの総裁が住宅ローンの例で説明するように、銀行が借り手の債務を引き受けると同時に中銀預金(⑥のC預金)を借り手の支払先の(取引銀行の)口座に送金することもmoney creationの一形態である。

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By far the most common form of loan in Switzerland is a mortgage. When a mortgage is taken out for the purchase of a house or an apartment, the deposit does not normally even appear on the borrower’s account, since the bank remits the loan amount directly to the seller of the house or apartment in exchange for the mortgage certificate.

従って、新発国債をA銀行が引き受けて中銀預金を政府預金口座に送金することも、A銀行による実質的なmoney creationになる。銀行が「金を貸す」とはcreateした預金を貸す(→バランスシートを両建てで拡大させる)ことだが、⑦に預金が現れていないのは、同時に中銀預金と両建てで減少するので±0になるためである。

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その後に政府が民間業者に支払うと、民間業者の銀行預金が増えるが、この預金はB銀行がcreateしたものではなく、現金と同等の中銀預金が"merely changes its form"したものである。

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そのことは、国債を銀行以外(❼ではノンバンク)が引き受けた場合と比較すると明らかになる。❼+⑧では預金がノンバンクから民間業者に移っただけで増えていない。B銀行は預金の真のcreatorではないためである。

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仕訳を表層的に解釈すると⑦はmoney creationを伴わない「国債と中銀預金の交換」、⑧は政府支出とB銀行によるmoney creationだが、各取引の本質的な意味を理解すると、その解釈では説明がつかないことが分かる。俺様定義による素人判断は禁物である。

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