経団連とクメール・ルージュ

この他人事感は凄い。

経団連・中西会長「日本の賃金水準が、いつの間にかOECD(経済協力開発機構)の中でも相当下位になっている。春季交渉で、その問題がすべて片づくとは思わないが、非常に大事な課題だ」

OECDから平均賃金(年間)の推移をグラフにする。購買力平価(PPP)換算なので為替レートには影響されていない。

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This indicator is measured in USD constant prices using 2016 base year and Purchasing Power Parities (PPPs) for private consumption of the same year.

金融危機が発生した1997年と2019年を比べると、OECD計は+24%(年率+1.0%)だが、日本は+1.6%(年率+0.07%)に過ぎない。日本/OECD計比は97%から79%に低下している。

下図は1991年から比較可能な23か国での順位の推移だが、企業が「三つの過剰」を解消するリストラクチャリングを本格化させた1998年→1999年から転落が始まっている。2015年には韓国に抜かれて下はメキシコだけである。

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1人当たりの実質成長率や生産性上昇率は中位なので、企業に賃上げ余力がないわけではない。賃金水準の相対的低下は賃上げできないからではなくしないからである。

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その理由は先日の記事でも取り上げたが、大企業の「株主重視」への転換である。

「企業は、株主にどれだけ報いるかだ。雇用や国のあり方まで経営者が考える必要はない」
「それはあなた、国賊だ。我々はそんな気持ちで経営をやってきたんじゃない」
94年2月25日、千葉県浦安市舞浜の高級ホテル「ヒルトン東京ベイ」。大手企業のトップら14人が新しい日本型経営を提案するため、泊まり込みで激しい議論を繰り広げた。論争の中心になったのが「雇用重視」を掲げる新日本製鉄社長の今井敬と、「株主重視」への転換を唱えるオリックス社長の宮内義彦だった。経済界で「今井・宮内論争」と言われる。

日本の株主至上主義がアメリカとは異なるのは、売上増ではなくコスト削減で達成しようとする傾向が強いことだが、これには潜在成長率の差が反映していると考えられる。人件費抑制は需要面、設備投資抑制は需要と供給の両面でマクロ経済の成長を阻害している。

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中西宏明は1946年生まれ(東京大学卒)、「正規雇用者の給料を下げて」「みんな平等に、緩やかに貧しくなっていけばいい」の上野千鶴子は1948年生まれ(京都大学卒)、「貧しさをエンジョイしたらいい」の竹中平蔵は1951年生まれ(一橋大学卒)だが、1970年前後に大学生だった新左翼革命世代には「旧い日本を壊す」ことへの強烈な志向と、個人主義の極致の「合理的精神」がインストールされている。(彼らが新左翼シンパという意味ではないので念のため)

自己の利益を最大化することで、かりに他者が不幸になったとしてもそれに何の道徳的責任を感じたりしない「合理的精神」こそが、自由競争の勝者に求められる資質であると言っても過言ではないだろう。

「旧い日本」の破壊を正当化してくれるのが外来思想で、1970年前後はマルクス主義だったものが、1980年代には新自由主義になり、1997年の金融危機後の混乱に乗じて株主至上主義・金融資本主義に基づくショック・ドクトリンが強行された。日本の構造改革とは、革命世代による30年遅れの日本版文化大革命とも言える。

民主カンプチアのように、思想を輸入した国では本家本元よりも極端な形で実践されることがあるが、日本はその典型で、革命世代が「正しい経済社会」を作るために、中間層の経済的安定を破壊して平等に貧しくする改革を遂行した。彼らがこのような観念(⇩)を全く持っていないこと、彼らの目標が「国民生活を豊かにする」ではないことを理解する必要がある。

忘れてはならない基本的な問題は、日本の一億二千万人の生活をどうするか、よりよい就業の機会を与えるにはどうすべきか、という点なのである。

『動物農場』で人間が経営する農場が「旧い日本」、🐷が改革派(🐕🐏はその手先)、その他の動物が大衆に相当する。🐷の真意を理解できない国民の多数派は、今でも自分たちを貧しくする「改革」を支持し続けているので、外国が自滅してくれない限り、日本の賃金水準が下位から脱出することは難しいだろう。

冒頭の中西会長の発言には「子供を厳しく躾けていたらいつの間にか冷たくなっていた」と言う虐待親に似たものを感じる。

付録

新左翼革命世代の次世代(1959年生まれ・東京大学卒)の自称「広義のリベラリスト」の思想。「旧い日本」を破壊するためには「売国」も大歓迎という手段を選ばない姿勢が明確だが、これがリベラル🐷の本音である。

日本のさまさまな産業が外資系によってのっとられていくことも、過渡的には必要だとさえ思っています。不合理な雇用環境、性別役割分業、さまざまな問題を抱えた家族制度、そうしたものが解体、再組織されるためには、どうしても外国資本が入ってくる必要があります。
上場株式市場における投資の実に半分を外人投資家に依存している今日、未開文明に見える非市民社会的原則が残っていては、彼らの投資を呼び込むことができない。彼らがお金を出してくれないと、日本経済の基幹をなす製造業でさえ動かなくなります。
僕は試行錯誤と淘汰のために、日本がいったんは奈落の底に突っ込んでいくべきだろうとさえ、思っています。

付け加えると、宮台真司の師匠の小室直樹は日本型の混合経済は間違っているとして、株主利益を最大化するために人件費を最小化する「正しい資本主義」への転換を強く主張していた。賃金水準の相対的低下は小室の基準では大成功を意味する。

社会学者が社会の害であることがよくわかる。「それはあなた、国賊だ」。

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