質屋と信用貨幣のつくられ方

信用貨幣の原理を理解するには質屋が参考になるという話(先月の記事の別バージョン的な内容)。


個人が現金を調達できる場所の一つに質屋がある。質屋は客が持ち込んだ物を質預かりするか、買取の代金として現金を支払う。

手持ちがさびしいときに物を担保として預けることで、借金をすることなく現金を手に入れられる質屋。
まずは、質入れを希望される物の市場価格を調べます。そこから弊社を含めた質屋の業界内の買取価格を調べ、品物の保存状態をチェックして、そこから預かり品の査定価格を出すという流れですね。

質屋の機能は「客が持ち込んだ物の流動化」と表現できる。客が調達できる貨幣の量(金額)は物の市場価格によって決まる。

質屋は「現在の物と現在の現金」を交換しているが、これを「将来の物と現在の現金」の交換、更には「将来の現金と現在の現金」の交換(キャッシュインとキャッシュアウト/返済と貸出)へと発展させて、現金を預金に変えれば銀行になる。質屋との根本的な違いは二点。

①流動化する対象が物から「将来のキャッシュフロー」に拡張される
②質屋が貸し出す貨幣は外部から調達した現金だが、銀行は自行が発行する預金

物が担保になるのは市場で売却すれば貸した額の現金を回収できるからである。従って、将来に借り手から受け取るキャッシュフロー自体も貸出の担保や買取の対象になり得る。

それから今までと違いまして、これは企業そのものを担保にするというふうな考え方に近いのであります。で、企業そのものを担保にすると言いますと、こいつは大陸法的と申しますか、ドイツ流と申しますか、概念から言いますというと、企業というものは担保にならぬ。ところが、イギリスのような実際的な見地から法律を解釈する国におきましては、これはむしろアーニングスを主とする企業収入というものを担保にするのだという見方からいたしまして、これは今までの不動産登記でなく、物を主体とするのじゃないというふうな考え方から、会社の登記簿に登記して、しかも画一に対抗要件とか成立要件とかいうような争いにつきましては、これを一本に成立要件にしてしまう。そしてとにかく会社の登記簿に持ってくる。ここは、従来の担保というものは、大体物です。ここに企業担保は物権とするとございますが、物権とは、こういうふうな法律は漁業法にもたしかあったと思いますが、漁業法もやはり不動産を準用していると思います。これだけはとにかく企業そのものを担保とするというふうな見方に、もちろんのれんとかいうふうな、企業財産に含まないようなもの、こういうものは除いていますが、できるだけ企業を担保にするというふうな観念から会社登記簿に登記をし、しかも成立要件にしたということは、最も妥当な措置だと思います。

仮に借り手が期日に100円を返済できるのであれば、その100円に対しては100円を現在価値に割り引いた金額(例えば98円)を貸し出せる。質屋が物と現金を交換するように、銀行は将来のキャッシュフローと現在のキャッシュフローを交換するわけである。将来に返済されるキャッシュフローに対応する額の預金を発行して貸し出すのが銀行のビジネスということで、銀行の信用貨幣の創造――借り手の「将来稼げるキャッシュ」の流動化――が、マクロでは経済の潜在力の解放と実現につながる。

質屋のビジネスのリスクは査定を誤ることだが、銀行にも借り手の将来のキャッシュフローを過大評価して回収できない額を貸し出してしまうリスクがある(→不良債権問題)。その場合、発行された信用貨幣は価値を裏付ける資産を欠く(貴金属貨幣なら品位不足に相当する)欠陥品になるので、貨幣の機能を果たせなくなってしまう。つまり、銀行間決済や、異なる銀行の利用者間の決済には使えないということである。

民間銀行が発行する預金には「品位不足」が混入する可能性があるので、そこに「品位が保証された貨幣」のニーズが生まれる。その「純度100%の貨幣」を発行するのが中央銀行で、質屋と同様に、民間銀行から資産を質預かり・買取する際に中銀預金を発行する。対象となる資産は原則として市場に流通する信用リスク・流動性リスクが十分に低いものに限定される。市場が貨幣の価値を保証するわけである。

👇は日本銀行マーケット・レビュー2002-J-11「日本銀行の適格担保制度と最近の担保受入状況」の説明。

通貨が通貨として機能するためには、中央銀行の資産の健全性に対する国民の信認確保が不可欠である。日本銀行が金融機関に資金供給する際に受入れる担保資産についてもその健全性の確保が重要となる。
このため、日本銀行では、適格担保とする金融資産の基準として、「信用度」と「市場性」を重視している。金融資産の元利金の支払いが確実か(信用度)、市場での売却による資金化が容易か(市場性)の2点を中心に吟味して、適格担保資産を選定している。
前述の基本的な考え方の下で、日本銀行は、国債、政府短期証券、政府保証付債券、地方債、交付税及び譲与税配付金特別会計に対する証書貸付債権(以下、交付税特会向け証書貸付債権)、預金保険機構に対する政府保証付証書貸付債権(以下、預金保険機構向け証書貸付債権)、財投機関等債券、外国政府債券、国際金融機関債券といった公的機関等の債務と、社債、資産担保債券(ABS)、手形、CP、資産担保コマーシャル・ペーパー(ABCP)、企業向け証書貸付債権といった企業等の債務を、適格担保としている。
The Eurosystem publishes a list of what it will accept as collateral, referred to as eligible assets. These assets may be bonds or other shorter-term securities that can be traded in the markets.

中央銀行は政府の支出とは無関係に通貨を発行できるので、政府が先に支出しなくても、国民は納税に用いる通貨を入手できる。従って、「政府が先に通貨を支出しない限り、民間部門は税金を納めることも、国債を購入することも論理的に不可能である」というMMTの説明は明明白白な誤りである。MMTが中央銀行や財務省や金融業界のプロたちに全く相手にされていないのはそのためである。

政府は、納税者が通貨で租税を支払う前に、通貨を支出して(あるいは貸し出して)、経済に供給しなければならない。支出が先で、租税は後――これが論理的な順序である。

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モズラーの説明では、政府は誰か費用をまかなってくれる人を探すことなどせず、さっさと支出することによって自国通貨を生み出す。
まずは支出が先に来るべきだ。なぜなら支出がなければ、国民には税金を払うためのお金がないのだから、とモズラーは推論した。
政府(その他の権力)は支出をすることによって通貨を世に送り出し、国民が国家への債務を支払うのに必要なトークン(代用貨幣)を入手できるようにする。当然ながら、政府がまずトークンを供給しなければ、誰も税金は払えない。

MMTは現実ではなく、新左翼のイデオロギーであり、願望(失業者ゼロ)である。

反証

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『昭和財政史-昭和27~48年度』第7巻 国債 第2部 国債発行政策への転換

前者〔市中消化〕にあっては、まず日銀が金融政策の立場から、国民経済の成長に必要な適正な通貨の供給量を見定め、その通貨供給の手段として買オペまたは貸し出しを行うのであって、その場合買オペの対象または貸出しの担保が政府債、社債、あるいは手形となる場合もあれば国債となる場合もあるというにすぎない。要は、日銀の通貨供給が安定した経済成長に必要な範囲で適正に行われる限り、その結果として日銀が公債を保有することになってもそれは金融のメカニズムを通じて行われるものであり、それによって公債発行がみだりに流れるおそれはない。
日銀の債券買いオペは従来、売戻条件付きで、かつ当該債券の理論価格により行われてきたが、昭和41年2月より政保債を対象に、市場価格を基準とし売戻条件をつけない、いわゆる無条件買いオペが開始された。41年度中もこれが踏襲されたが、さらに42年2月より買いオペ対象債券に新長期国債が追加され、また、42年2月のみの臨時措置として、利付金融債も加えられた。
各種債券中最も信用度が高く、流動性もあり、保有層も広範囲な国債が買いオペ対象債券へ追加されたことにより、37年11月以来とられてきた成長通貨の債券買いオペによる供給方式も一層安定的な制度となった。

👆これが中央銀行が国債を買う理由。政府の支出を賄うためではない。

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