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日本の賃金が上がらない三つの理由

日本の賃金が上がらない三つの理由

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日本の賃金が上がらなくなった理由についてはこれまでにも再三記事にしてきたが、最近また話題になっているので、今回は三点に整理する。

多くの日本人の所得が低迷している最大の原因は、この国の少数の真の富裕層にあるのではなく、企業所得と家計所得の差である。企業は「内部留保」、つまり賃上げや投資、あるいは税金で経済に還元されない利益をため込んでいるのだ。

もし、企業がその余剰資金を賃金に回していたら、今日の生活水準は大幅に向上し、消費者の需要も高まっていただろう。中小企業でも同じパターンがみられており、ため込んだ現金が増える一方で、労働者の報酬は減少した。

日本企業はバブル崩壊以降、ずっと低金利なのに債務の最小化をひたすら進めた。この間、人員削減などのリストラに取り組んだものの資金調達をしながら新分野に挑戦することを躊躇 ちゅうちょした。
企業が成長するにはリストラして余剰となった、おカネやヒトを新しい事業分野へと再配分して、新陳代謝しなければならない。しかし、日本の経営者の多くは再配分する新事業を見いだせず、身の丈を縮めたに過ぎない。
考えてみれば当然だ。30年の間、コストカットしか得意技がなかった経営者に「新しい事業を見つけ、挑戦せよ」と迫っても、その経験も知識もない。

一点目は、人口減少→国内市場の量的拡大が見込めない→(物価が安定していれば)売上高は右肩上がりにはならない、との認識が定着したことである。

増収が期待できない環境では、企業は

  • 固定費を抑える/下げる

  • 固定費の変動費化を図る(→雇用の非正規化)

ようになるが、これは家計の購買力減少→企業の国内売上の減少につながるので、ひとたびこのような均衡に陥ると(輸入インフレなどの外的要因が加わらない限りは)半永久的に脱け出せなくなる。

二点目は、賃上げに対する企業経営者の認識の変化である(上場/非上場や企業規模の違いを問わない)。

構造改革前の日本的経営の時代には、企業が儲かれば従業員にも昇給やボーナスで還元するというのが社会通念だった。

しかし、バブル崩壊~金融危機の大不況~構造改革を経て企業経営者からはそのような観念は失われ、「企業の本来の目的は利益追求なのだから、利益を減らす賃上げは経営者にとっては失点(負け)」「賃下げは経営者の得点(勝ち)」という観念が取って代わった。営利企業は慈善団体ではないので、賃上げしないことのマイナス(従業員の意欲の低下→労働生産性の低下や退職されて人員不足になるなど)が大きくならない限りは賃上げする理由は無いのである。

日本企業の性格はこの10年間で本当に変わったと思います。しかし、透明性の確保のための社外重役の導入とも、意思決定機関の効率を高めるための統治組織の変革ともあまり関係のない変わり方です。どういう方向への変わり方なのか、もっとも端的にいえば、経営者マインドにおける経営目標の優先順位の変化です。15年前だったら、株価の維持よりも従業員の待遇をよくすることが、ずっと重要に思われていました。今はその逆なのです。

p.34

輸出などのお陰で景気が回復して、企業利益が上がっても、賃金の上昇や、家庭の支出の増加が生じて総需要に貢献しなければ、景気拡大の機運が鈍くなり、回復しかけた景気は短期間で消える可能性が高くなります。そして、賃金が上昇しないのは、経営者マインドの変化、すなわち株主への奉仕を優先目標にしてきたことに起因しています。

p.37

三点目は、企業が「お金の殖やし方」に関して賢くなったことである。

AERAの記事には「新しい事業を見つけ、挑戦せよ」とあるが、それよりも、「支出を減らすほうが簡単だし、そのほうが自分でコントロールしやすい」。

投資のパフォーマンスを年間0.1%上げようとすれば、リサーチのために膨大な手間暇がかかる。リターンを0.1%上げるために、週に80時間も働くプロの投資家もいる。だがそれよりもはるかに少ない労力で、生活費を2、3%減らすことは可能なのだ。どちらが追い求める価値があるかは容易にわかるだろう。
収入についても同じことが言える。少ないお金で幸せになる方法を学べば、必要なものを買っても十分に手元にお金が残る。収入を増やしてもお金は残せるが、支出を減らすほうが簡単だし、そのほうが自分でコントロールしやすい。

人口減少と高齢化が続く日本国内に成長機会が乏しいことは明らかなので、企業はリスクが大きく多大な労力も要する「挑戦」よりも、確実なコストカットで利益を上げて金融資産(主に現預金と対外直接投資)を積み上げているのである。対外直接投資の大幅増加は、「挑戦」を国内ではなく海外で行うようになったことを示している。

日本銀行「資金循環」

日本は1980年代には「社会主義が最も成功した国」と呼ばれたが、21世紀には「賃金抑制が最も成功した国」へと劇的な構造転換を遂げたことになる。それが本来の社会主義国の姿である。

共産主義諸国のプロレタリアートの奴隷的境遇は、長期的にはいくつもの経済的帰結をもたらすが、その最も重要なのが技術的停滞である。東欧諸国とソ連の労働者は、いかなる自衛手段(組合、スト権)も持たない。その結果、賃金に関わる要求を実現することができない。賃金の上昇が停止していると、工業への技術的進歩の適用による機械の生産性の上昇も、[労働者の生産性が低いため]無駄に終わるのである。

付記

AERAの記事には「日本企業はバブル崩壊以降、ずっと低金利なのに債務の最小化をひたすら進めた」とあるが、これは誤りで、deleveragingは2000年代半ばに完了している。詳しくは👇を。

日本銀行「貸出先別貸出金」


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