日本の賃金が上がらなくなった理由についてはこれまでにも再三記事にしてきたが、最近また話題になっているので、今回は三点に整理する。
一点目は、人口減少→国内市場の量的拡大が見込めない→(物価が安定していれば)売上高は右肩上がりにはならない、との認識が定着したことである。
増収が期待できない環境では、企業は
固定費を抑える/下げる
固定費の変動費化を図る(→雇用の非正規化)
ようになるが、これは家計の購買力減少→企業の国内売上の減少につながるので、ひとたびこのような均衡に陥ると(輸入インフレなどの外的要因が加わらない限りは)半永久的に脱け出せなくなる。
二点目は、賃上げに対する企業経営者の認識の変化である(上場/非上場や企業規模の違いを問わない)。
構造改革前の日本的経営の時代には、企業が儲かれば従業員にも昇給やボーナスで還元するというのが社会通念だった。
しかし、バブル崩壊~金融危機の大不況~構造改革を経て企業経営者からはそのような観念は失われ、「企業の本来の目的は利益追求なのだから、利益を減らす賃上げは経営者にとっては失点(負け)」「賃下げは経営者の得点(勝ち)」という観念が取って代わった。営利企業は慈善団体ではないので、賃上げしないことのマイナス(従業員の意欲の低下→労働生産性の低下や退職されて人員不足になるなど)が大きくならない限りは賃上げする理由は無いのである。
三点目は、企業が「お金の殖やし方」に関して賢くなったことである。
AERAの記事には「新しい事業を見つけ、挑戦せよ」とあるが、それよりも、「支出を減らすほうが簡単だし、そのほうが自分でコントロールしやすい」。
人口減少と高齢化が続く日本国内に成長機会が乏しいことは明らかなので、企業はリスクが大きく多大な労力も要する「挑戦」よりも、確実なコストカットで利益を上げて金融資産(主に現預金と対外直接投資)を積み上げているのである。対外直接投資の大幅増加は、「挑戦」を国内ではなく海外で行うようになったことを示している。
日本は1980年代には「社会主義が最も成功した国」と呼ばれたが、21世紀には「賃金抑制が最も成功した国」へと劇的な構造転換を遂げたことになる。それが本来の社会主義国の姿である。
付記
AERAの記事には「日本企業はバブル崩壊以降、ずっと低金利なのに債務の最小化をひたすら進めた」とあるが、これは誤りで、deleveragingは2000年代半ばに完了している。詳しくは👇を。
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