[ファクトチェック]日本のGDPは20年間でマイナス20%

11月16日放送のテレビ番組「教えて!ニュースライブ 正義のミカタ」で藤井聡が「日本とドイツは政府がドケチなので経済成長率が世界で下から1位と2位」「この二か国はこれから落ちぶれていく」との主旨の発言をしていた。

近著にも同じ内容が見られる。

その中で最も激しく衰弱してしまったのが我が国日本だ。
何といっても2015年までの20年間で日本のGDP(国内総生産)は、ドル建て換算で実に20%も縮小してしまったのだ。このマイナス20%という成長率は、断トツの世界最下位である。なおかつ、日本が唯一のマイナス成長国家なのである。
ちなみに、欧州の中で最も激しく緊縮財政を進めたのがドイツだったが、ドイツは世界の中で日本に次いで二番目に低い成長率にとどまった。

上の動画の6:23~のグラフ。

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IMFのデータから36の先進国・地域に絞ったものがこちら。

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1995年→2015年の20年間でドル換算GDPが日本は-20%、ドイツは+30%という数字そのものは正しいが、通常、経済成長率と言えば自国通貨建ての実質成長率のことである。また、2018年のデータが利用可能なのに2015年を用いるのも不自然である。そこで、円建て実質とドル換算のGDPの推移を比較してみる。

1995年=100とすると、2015年の値は実質GDPが118、GDPデフレータが88、名目GDPが104である。物価下落のために名目では微増だが、実質ベースでは2割近く成長していたことになる。

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1990年代後半から名目GDPはほぼ横ばいなので、ドル換算GDPは為替レートとほぼ一致して推移している。2015年の対ドル円為替レートは78、ドル換算GDPは81である。

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2018年には実質GDPは122、GDPデフレータは88、名目GDPは107、対ドル円為替レートは85、ドル換算GDPは91になっている。

次のグラフから、藤井が1995年→2015年の20年間の比較にこだわる理由の見当がつく。1995年は円高の山、2015年は円安の谷なので、実質GDPは増加トレンドでも、ドル換算では「マイナス」を強調できるためだろう。1998年→2018年のドル換算は+23%とプラスで、しかも実質の+19%を上回ってしまうのでインパクトに欠ける。

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2007年→2012年の5年間に実質GDPは-1%だが、ドル換算では+37%と急成長になってしまうことからも、経済成長率の比較にドル換算GDPを用いることが不適切であることがわかる。同一通貨建てに換算することは、経済規模の比較には必要だが、経済成長率の比較には適さない。

20年間では人口増加率の差も大きくなるので、1人当たり実質GDPの増加率を比較するとこのようになる。日本が低いことは事実だが、マイナス20%という極端な値ではなく、下にはPIGSのうちギリシャとイタリアがいる。

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ドイツの順位も大きく上がる。

✖:政府がドケチだから経済成長率が日本に次いで低い
◯:貿易黒字が大きいので政府がドケチでも他の先進国並みに成長できる

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結論

藤井の「日本のGDPは20年間でマイナス20%で世界最悪」や「ドイツの成長率は世界で二番目に低い」は、1995年→2015年の20年間のドル換算での比較であれば事実だが、あたかも実質成長率であるかのように語って一般人に誤った印象を与える「嘘・大げさ・紛らわしい」もので、ほとんどデマと言わざるを得ない。専門家であれば使ってはいけない表現である。

藤井はこれ以外にも「1997年の大不況の原因は消費税率引き上げ(実際は11月に発生した金融危機)」「2014年の消費税率引き上げのショックはリーマンショックよりも格段に大きい」などと公共の電波を使ってデマを叫び続けている藤井は土木屋のはずだが、なぜ経済の専門家のように振舞っているのか。

藤井の嘘八百については他の[ファクトチェック]の記事でも検証している。

付録:金融危機とバランスシート不況

金融危機→信用収縮→企業が債務・設備・雇用の「三つの過剰」の解消に一斉に走り出して「バランスシート不況」が始まったことが、1997~98年の大不況の本質である。

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この本(⇧)が出版された2003年には企業のリストラクチュアリングと金融機関の不良債権処理はほぼ完了し、バランスシート不況も終わっていた。2002年以降の1人当たり実質GDP成長率が主要先進国の中では「並」であることは、1995→2015年の低成長の主因がバブル期に膨らんだ過剰債務のdeleveraging(→バランスシート不況)だったことを示している。。

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