2019年の合計出生率は1.36~希望出生率1.8の実現を阻む壁

2019年の出生動向を概観する。

出生数は86.5万人(前年比-5.8%)で減少ペースが加速したが、これには「令和婚」狙いで一部の婚姻が先延ばしされた影響があると見られる。

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合計出生率も1.36に急落したが、婚姻が2019年にリバウンドしたことから、2020年には多少の回復が見込まれる。

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長期的には、20代の出生率の大幅低下が響いている。

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コーホート出生率は1.4程度から上昇する兆しがなく、平成世代ではさらに低下する兆候もあるので、「希望出生率1.8」の持続的実現の可能性はほぼゼロと言ってもよい。

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下は5月29日に閣議決定された「少子化社会対策大綱」の一部だが、出生率低下の原因の分析は正しい。

少子化の主な原因は、未婚化・晩婚化と、有配偶出生率の低下であり、特に未婚化・晩婚化(若い世代での未婚率の上昇や、初婚年齢の上昇)の影響が大きいと言われている。
若い世代の結婚をめぐる状況を見ると、男女共に多くの人が「いずれ結婚する」ことを希望しながら、「適当な相手にめぐり会わない」、「資金が足りない」などの理由でその希望がかなえられていない状況にある。また、「一生結婚するつもりはない」という未婚者の微増傾向が続いている。
若い世代の非正規雇用労働者の未婚率は、特に男性で正規雇用に比べて顕著に高くなっており、雇用の安定を図り経済的基盤を確保することが重要である。

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もっとも、「希望出生率1.8」の実現性が限りなく低いと言わざるを得ないのは、Fランク大学を量産して大学進学率を高めた(←大学の資格ビジネス化)ことや、非正規雇用を拡大した(←株主利益の最大化)ことは、1990年代から続く新自由主義に基づく「国策」であり、今日でも少子化対策よりも優先度が高いと見られるためである。

世帯を養える賃金を男1人に払う家族給に支えられた 「男性稼ぎ主モデル」こそ、女性差別の根源なのですよ。
正規雇用者の給料を下げて、夫に600万円払っているのなら、夫に300万円、妻に300万円払うようにすれば、納税者も増えます。
「男女共同参画社会は、新自由主義的なベクトルとフェミニズムとの妥協の産物だ」というのは、100パーセント正しいと思います。

さらに対策が難しいのが女の非下方婚志向である。

エリート女の泣きどころは、エリート男しか愛せないってこと(笑)。男性評論家はよく、エリート女は家事労働してくれるハウスハスバンドを選べなんて簡単に言うけど、現実的じゃない。

先進国では伝統的規範が薄れて社会がリベラル化しているが、それが人間の「猿の一種」としての本性の解放を招いている。多くの哺乳類では強い雄が複数の雌に精子を提供するが、これは、雌は必ず自分以上のレベルの雄を選べることを意味する。

「卵子は精子よりも稀少」なのは人間も同じなので、自分未満の男を排斥する女の猿的本能を解放すると、多くの男が対象外にされ、非婚化が進行してしまう。

宮台 だから、上野さんにお聞きしたいのは、ぼくの「性的弱者論」を批判されてますけれど、実際に現在のような教育システムで育ってくるコミュニケーション・スキルの乏しい男の子たちはどうやって性的欲求を満たし、性的コミュニケーションを確保すればいいんでしょうか。彼らには上野さんがおっしゃるような、学習の余地がほとんどないと思うんです。
上野 自然史的・人類史的に言えば、マスターベーションしながら死んでいただければいいと思います。冷たいでしょうか。そのための産業もちゃんとありますし。だから、できるだけ、他人に迷惑かけない仕方で、性欲を充足していただいたらいい。
ギャルゲーでヌキながら、性犯罪を犯さずに、平和に滅びていってくれればいい。そうすれば、ノイズ嫌いでめんどうくさがりやの男を、再生産しないですみますから。
彼らが間違って子どもをつくったらたいへんです。

伝統社会では、男女分業や「結婚して子供を産むのは当たり前のこと」という社会規範によって猿的本能を抑えてマッチングを成立させていたが、それらがフェミニズムやポストモダニズムによって「女を抑圧するもの」だとして解体(脱構築)されたために、男を厳しく選別して排斥する猿的本能(負の性欲)が剥き出しになっている。これが「適当な相手にめぐり会わない」の意味である。

人種問題にしろ老人問題にしろ、ほとんどあらゆる差別反対運動は、カテゴリーを解体して個人に還元せよという要求をもっているように見える。
個人主義という思想は、カテゴリーを解体しつくしそうとする。女の運動もまたそれに手を貸している。大人と子供、男と女、老人と若者というカテゴリーがすべて解体し、平等な個人がむき出された時に、一体どんな理想社会が実現するのか、私自身もそれに手を貸しながら、ふとアンビヴァレントな思いを避けることができない。

これ(⇩)が「適当な相手」を減らすことで実現したフェミニストの理想社会。非婚化・少子化になって当然である。

賃金が上がらないといっても、外食せずに家で鍋をつついて、100円レンタルのDVDを見て、ユニクロを着ていれば、十分に生きて行けるし、幸せでしょう? 
「給料が安くて子どもが産めない」と言うけれど、年収300万円の男女が結婚すれば、世帯年収は600万円になります。今の平均世帯年収の400万円台を軽く超えますし、子どもに高等教育を受けさせるにも十分な額です。
日本でも男性の平均所得は減少していますから、結婚相手に「キミは働かなくていいよ」なんて言わなくなるはずです。つまり、稼げない女は、結婚相手としても選ばれなくなる可能性が高い。

「少子化社会対策大綱」にはこのようにあるが(⇩)、ゆとり教育の失敗と同じで、プレッシャーが弱まったことが非婚化・少子化の根本原因なので、他にどのような対策を取っても焼け石に水である。

結婚、妊娠・出産、子育ては個人の自由な意思決定に基づくものであり、個々人の決定に特定の価値観を押し付けたり、プレッシャーを与えたりすることがあってはならないことに十分留意する。

「個人の自由な意思決定」はこのような対策(⇩)につながる。

上野 結婚は結局、個人の自己選択。山田昌弘さんが言っています。結婚させるためにはどうしたらいいか、兵糧攻めにしようって。
上野 家から追い出して、経済的に締め上げろって。一人口より二人口のほうが食っていけるからって。

日本の少子化は「国難」と言うべきものだが、韓国や中華系と比べるとまだましな水準である。

フェミニズムと非婚化・少子化について詳しくはこちらの記事を。

付録:欧米の実態

「少子化社会対策大綱」には「諸外国の取組に学び、長期的な少子化対策を実践する」とあるが、

フランスやスウェーデンは、出生率が一時期 1.5~1.6 台まで低下したが、国民負担を求めながら、経済的支援を含む子育て支援策の充実や仕事と育児の両立支援策など、長期間にわたり継続的かつ総合的な取組を進めてきたことにより、2000 年代後半には 2.0 前後まで回復し、現在も比較的高い出生率を維持している。また、日本同様、長期間出生率が低迷していたドイツでも、男女の家事育児負担の平等化と女性の職場復帰を促したことにより、近年出生率の回復が見られ始めている。一方、アメリカは、1990 年代から 2000 年代にかけて 2.0 前後の高い出生率を維持してきたが、近年出生率が漸減している。

このような解釈が正しくないことは別記事で検証している。

https://note.com/prof_nemuro/n/n2d3dc4f2134b#ZZjbM

https://note.com/prof_nemuro/n/n5e6b52f66603#cGhH2

https://note.com/prof_nemuro/n/n4582527e6e23

https://note.com/prof_nemuro/n/n6be12f406535

フランスの合計出生率低下と反転上昇は出産時期が遅くなることによるtempo効果で、コーホート出生率は長期的には微減している。移民による引き上げも大きい。

スウェーデンは社会保障給付の制度変更で得するタイミングに合わせて出産時期を調整することが、合計出生率の振幅の大きさにつながっている。

ドイツの合計出生率は緩やかな上昇傾向にあるが、コーホート出生率はドイツ再統一前後の混乱期に出産適齢期だった世代の落ち込みが回復した程度で、本格的に反転上昇に転じたとは判断できない。2018年の合計出生率は1.57だが、母親がドイツ国籍は1.45、外国籍は2.12と移民効果も大きい。

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アメリカでは「リベラル化→出生率低下」の関係が鮮明になっている。下図は2017年の州別の白人の合計出生率を低い順に左→右に並べたもので、2016年の大統領選挙でドナルド・トランプ勝利の州は赤、ヒラリー・クリントン勝利の州は青に色分けしている。一目瞭然だが、リベラルな「青い州」ほど出生率が低く、ワシントンDCは1.01、ロードアイランド州1.34、マサチューセッツ州1.36である。

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リベラルの移民歓迎にはこの劣勢を挽回する意味もある。

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