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経済

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2020年5月の記事一覧

コロナ・タバコ・財政健全化

このブラジルのニュースから思い出されるのが、チェコのたばこ市場をほぼ独占していたフィリップ・モリスの2001年のレポート(アーサー・D・リトル作成)である。 そのレポートは「たばこはチェコの財政収支を改善する」というもので、大部分はたばこ税収によるものだが、喫煙→早死に→社会保障費の減少も寄与するとしていた。 フィリップ・モリスの主張は、喫煙は1億4700万ドルのプラスであり、喫煙者の早期死亡によって年金や健康保険や公共住宅が浮いているという内容であった。当然ながら叩かれ

「財政破綻」の定義とリスク

積極財政派が財政再建派を揶揄しているが、両者の議論が噛み合わない主因は「財政破綻」の定義とリスクが異なることである。 当の小林氏自身も、自身が編著者となった『財政破綻後 危機のシナリオ分析』という本の中で、日本の国債がデフォルトしないことを認めているそうです。 積極財政派の定義:デフォルト 財政再建派の定義:インフレ率または名目金利が高騰して制御できなくなる(『財政破綻後』より) 金利に織り込まれる主なリスクは信用リスクとインフレリスクだが、積極財政派は「信用リスクはな

歴史修正される1997年

影響力がある人が不正確な情報を拡散するのは止めてもらいたい。 消費増税とアジア通貨危機よりも格段に衝撃が大きかったのは、11月に発生した金融危機である。これが金融機関の再編、不良債権処理と企業のリストラクチャリングの本格化、株主重視経営への転換、外資系金融機関と外人株主の影響力増大などの構造転換の切っ掛けとなった。この事件(⇩)の始まりも1999年である。 デフレ不況の正体は、企業がバブル崩壊で毀損したバランスシートを修復することによる「バランスシート不況」で、債務・設備

改革の成果を示す二つのグラフ

2001~02年度を境に「経済成長=国民の生活が豊かになる」ではなくなったことを示す二つのグラフ。これが構造改革の成果である。 Q:改革は誰のために A:株主のために 日本企業の性格はこの10年間で本当に変わったと思います。・・・・・・もっとも端的にいえば、経営者マインドにおける経営目標の優先順位の変化です。15年前だったら、株価の維持よりも従業員の待遇をよくすることが、ずっと重要に思われていました。今はその逆なのです。 賃金が上昇しないのは、経営者マインドの変化、すな

麻生財務大臣の疑問「国債が増えても、借金が増えても金利が上がらない」の答え

麻生財務大臣が「国の借金が増えると金利が上がる(→だから財政再建を急がなければならない)」という警鐘を狼少年に例えた。 財務省から該当箇所を引用。 借金が増えて、200ないし50~60から1100(兆円)といえば4倍に増えたんだ。4倍に増えたら金利はもうちょっと上がるんじゃないの。何で下がるんだ。国債が増えても、借金が増えても金利が上がらないというのは普通私達が習った経済学ではついていかないんだね、頭の中で。今の答えを言える人が多分日銀にもいないんだと思うけれどもね。そこ

[ファクトチェック]自殺と消費税

ネットde真実系の反緊縮派が「消費税が諸悪の根源」の根拠の一つとするのが「消費税率引き上げ→自殺者増加」の因果関係である。実際、4月に消費税率が3%→5%に引き上げられた1997年の翌年には自殺者数が急増している。 しかし、月別の推移を見ると、自殺が急増を始めたのは1998年2月からである。このことは、前年4月の消費税率引き上げよりも、11月の金融危機→信用収縮→リストラ圧力の高まりの影響であることを強く示唆する。 経済企画庁:平成11年度「年次経済報告」 長期的な要因と

日本の基幹産業が買収されることを(本心では)歓迎する人々

自由民主党の有力政治家が、日産自動車が中国企業に買収される可能性を懸念するツイートをしていたが、対内直接投資の増加を推進してきたのは当の本人ではないのか。 安倍政権発足直後に策定された「日本再興戦略(成長戦略2013)」では、 対内直接投資の活性化に向け、特区制度の抜本的改革や、政府の外国企業支援・誘致体制の抜本的強化。 2020年に対内直接投資残高を35兆円(2012年末時点17.8兆円)に倍増。 とされていた(2018年末の対内直接投資残高は30.7兆円)。 2

賃金の「男女平等」と男の賃金抑制

デンマークで男女の賃金格差を縮小させるために企業に賃金に関する情報公開を義務付けたら、男の賃金上昇が抑制されたという研究。 Mandatory transparency legislation reduced gender pay disparity, primarily by slowing down the growth of men's wages. 「男女平等」が、経営者が男の従業員の賃金を抑制する口実に使われたことが示唆される。フェミニストは経営者と株主の味方で

スウェーデンのマイナス金利政策の効果はマイナス

スウェーデンの研究者が、Riksbankのマイナス金利政策は益よりも害が大きかったと結論している。 We conclude at this early stage that the costs of negative interest rates to society most likely exceeded the wider benefits. While the impact of the negative rates on the domestic inflati

「日本に余力はない」という困った思い込み

元八千代証券のエコノミストはさておき、弁護士の財政分析の誤りについて取り上げる。 アベノミクス以降、借換債(国債の借り換えのために発行されるもの)も含めた国債の総発行額は年間150兆円ほど。うち5~7割ほどを実は日銀が民間銀行等を通じて買い入れるインチキをしている。日銀が手を引けば国債が暴落し、金利が急騰し、国の資金繰りがつかなくなる、つまり出口がありません。 このような論者が理解していないのは、国債金利は基本的に予想インフレ率によって決まるということである(加えて実質経