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経済

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2019年7月の記事一覧

「MMTが正しいことの説明」が正しくないことの説明/日本を破壊する「現代の金本位制」

また中野剛志が暴走した文章を書き、それを「京都学派」の自由民主党の国会議員二人が拡散しているので、誤りを指摘する。 中野の論法は主流派経済学とModern Monetary Theoryを対置して、前者の誤りが後者の正しさを補強しているとするものだが、どちらも誤っている可能性があるので説得的ではない。 銀行は預金を元手に貸出しを行うのではなく、その反対に、銀行による貸出しが預金を生む。したがって、原理的には、銀行は手元資金の制約を受けずに、借り手さえいれば、いくらでも貸出

日本経済の衰弱の原因は企業の「癌化」

日本経済は第二次安倍政権が発足した2012年12月から戦後最長の景気拡大を続けていると見られるが、1990年代後半からの相対的凋落は止まっていない。 現在が過去の景気拡大期と決定的に異なるのは、就業者1人当たりの実質GDPがゼロ成長になっていることである。日本経済は質的に成長できない体質の変化してしまったことになる。 日本経済の衰退について、多くの経済学者が財務省(財政政策)and/or日本銀行(金融政策)の引き締め志向に原因があると主張してきたが、彼らが見落としていたの

財政赤字拡大よりも企業黒字縮小を

いわゆる積極財政派が、最近ではModern Monetary Theoryを理論的支柱として財政赤字拡大を求めるようになっている。 したがって、日本政府が行うべきは、消費増税の中止(できれば減税)、そして財政支出の拡大である。 しかし、現在の日本経済に必要なのは財政支出の拡大だろうか。 確かに、家計は厳しい状況が続いている。グラフは2017年度までだが、日本銀行「資金循環」でも、2018年度の家計の資金余剰は14.5兆円(前年度比+3.4兆円)と小幅な増加にとどまってい

消費税増税と株主利益の最大化の関係

日本の財界が消費税増税を強く求める背景には、株主利益の最大化があるという話である。 内閣府「国民経済計算」によると、1997年度→2017年度に賃金・俸給は-10.7兆円(-4.4%)だが、雇主の社会負担は+8.4兆円(+25.2%)なので、合計した雇用者報酬は-2.3兆円(-0.8%)にとどまっている。 雇主の社会負担は賃金・俸給の14%から18%に増大している。 国立社会保障・人口問題研究所「社会保障費用統計」によると、事業主醵出に対する「被保険者醵出+国庫負担」の

日本経済はバンザイ突撃中

野田前首相が衆議院を解散した2012年11月を景気の谷とする現在の景気拡大期の特徴は、労働市場の改善が進んでいることである。(グラフの赤マーカーは2013年) 完全失業率は2%台前半にまで低下し、 就業者数は史上最高となっている。 しかし、実質GDPの増加ペースは加速していない。 そのため、就業者1人当たりの実質GDPはほぼゼロ成長である。2002-07年は年率+1.4%だったので大減速である。 1990年代以降に就業者1人当たり実質GDPが停滞した時期には、 1

『平成の経営』~学者の寝言

『平成の経営』は、学者の出鱈目ぶりがよく表れた書である。 著者の伊丹敬之は、平成の30年の間に日本企業の看板は「従業員より株主重視」に変わったものの、その基盤に大きな変化はなかったと主張している。 こうした労働分配率の動きは、平成年間にみられるだけでなく、1970年代以前から一貫してみられるもので、日本企業の分配の優先順位が、従業員が第一、株主第二となっていることを示している。 私は、日本企業は従業員主権メイン的(企業統治の主権者として従業員がメイン、つまり企業はまず第一

日本の20年間の変貌をグラフで見る

日本の転換点は金融危機が発生した1997年である。11月に三洋証券→北海道拓殖銀行→山一證券が連続経営破綻した金融危機が引き金となって企業の「三つの過剰」を整理するリストラクチャリングと政府主導の構造改革=日本改造が本格化した。 日本経済の正味の規模を示す国内要素所得の推移からは、バブル崩壊後の停滞から立ち直りかけていた日本経済が、1997年を境に長期停滞にはまり込んだことが見て取れる 構造改革の20年で日本の経済社会がどのように変化したかを、1996~1998年と201

アベノミクスが空手形に終わる必然

参議院選挙が近づいてきたので、安倍総理大臣の6年半の経済政策を検証する。 所得1.4倍増計画は失敗か安倍首相は2013年6月5日に内外情勢調査会における 「成長戦略第3弾スピーチ」で、1人当たり国民所得を10年で150万円以上増やすと述べていた。2012年度から2023年度まで年率3%成長すれば1.4倍になる計算である。 大量に眠っている資金を動かして、国内外の潜在市場を掘り起こし、民間投資を喚起する。あわせて、人材、技術、資金を、生産性の高い部門へとシフトしていく。 こ

消費税の増収分は社会保障財源に充てられている

財政赤字の主因は社会保障費の増加に税収が追い付かないことである。社会保障費を税収で賄うのであれば大幅な増税が必要になるが、10月に予定されている消費税率引き上げはその一環である。 財務省は消費税の使途についてこのように説明している。 社会保障・税一体改革により、消費税率引上げによる増収分を含む消費税収(国・地方、消費税率1%分の地方消費税収を除く)は、全て社会保障財源に充てることとされています。しかしながら、社会保障4経費の合計額には足りておらず、その差額(一部の資料では