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研究したい子供たちがいる(「ある高校生からのメール」その後)

今週5日間、2人の高校生が毎日朝から夕方まで私のラボに通って実験をした。

ひとりは大阪在住のWhiteWellさんで、中学の時に私の講演を聴き是非うちで研究したいと言ってきたが、中学生を受け入れるシステムが大学になく高校生になるまで持って貰っていた。本人はここに来ることを心待ちにしていた。

もうひとりのYoungPineさんは、東京から。私の著書を読み、私のラボでインターンをしたいと切々と訴えるメールを直接私に送ってきた(それについては以前にも書いた https://note.com/prof_a_hill/n/na3831a939f48 )。それで今回大学の宿泊施設に泊まり込んで実験してもらうことになった。

阪大にはSEEDSという研究がしたい高校生のための優れたプログラムがあり、ふたりはその受講生として正規の手続を踏んでやってきた。https://www.seeds.osaka-u.ac.jp/about/

彼女らの情熱と行動力に心を打たれる。親御さんの理解と全面的なサポートがあることも素晴らしい。

目を輝かせて実験に勤しむ様子から、本当に研究が好きなんだなということが伝わってきたが、それだけではない。私と大学院生たちのディスカッションにも加わり、話についてくるだけではなく私の質問にも鋭い答えを返し、院生より熱心に質問をするので舌を巻いた。

生命科学の場合、小中高大と順番に教育を受けていなければ高度な研究はできないということはないのだ。この私の持論を彼女らが証明してくれている。むしろ、受験勉強で疲弊していない分、感性も瑞々しく意気軒昂だ。

我が国の大学受験に重きを置く教育体制が必ずしも悪いとは思わない。しかし、あまりに画一的であり、一部の例えば研究がしたい/向いている子らの芽を摘んでしまっている。もっと子供たちのパスに多様性があっても良いと思う。

現にYoungPineさんは、過度な受験勉強をしなくて済むカナダかアメリカの大学へ進学するつもりだ。

私は、研究好きな小中高生が研究できる場を作りたい。私の研究室では沢山は受け入れられないから、専用の受け皿を大学が作ったらどうかと考えている。

またそういう子らを、研究マインドを持ったまま大学に進学させるパスを作りたい。

子供の頃の私が好きだった鉄腕アトムの主題歌(谷川俊太郎作詞という贅沢な歌)に、ラララ科学の子というフレーズがありアトムのことを言っているのだが、私は自分のことだと勝手に思っていた。そうか、僕らは科学の子なんだ、と。

ふたりの高校生を見ているとこの懐かしいフレーズを思い出す。この子らこそ科学の子らだ。私は彼女彼らに日本の科学の将来を託したい。どうか日本、いや世界を科学の力で救って欲しい。

短い時間ではあったが、この若者達が最先端の研究の現場に触れて刺激を受けてくれたら嬉しい。今回のインターンは、SEEDSの先生方やYoungPineさんが所属するMANAIの皆さんのご尽力で実現した。また彼女らの実験の面倒を私のラボの院生やスタッフがみてくれた。これらの皆さんに感謝したい。

付記
高校生達は沢山疑問に思うことがあるようだ。老化のこと、元素周期律表のことetc。だが1人がいうには、何故だろうばかりいうので友達には呆れられ、授業中に質問し過ぎて先生には怒られると。でも吉森研にいると質問しても誰も嫌がらないから嬉しい、次に来る9月が待ち遠しいと言っていた。

そうなんだ。疑問に思うことが科学の始まりなんだよ。皆、子供の頃には疑問だらけだったのに、いつのまにか諦めてしまう。いちいち疑問に思っている暇はないと。でも疑問は大切にしなきゃいけないんだ。

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