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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)について。 No.13

出口の見えない不安とストレスの多い自粛生活のなかで、鬱々としている人も多いと思う。今日は少し明るい(かもしれない)情報を共有したい。

エール大学の気鋭の免疫学者・岩崎明子教授が、「なぜ日本ではCOVID-19が少ないのか?」と題した論文を書いている。
https://www.embopress.org/doi/abs/10.15252/emmm.202012481?fbclid=IwAR0iCq89gbbK7sZcEGFsGJfADar9BRsdGk2TisdDs2FqtHv1TojzAphLm48

彼女は、5つの可能性をあげている。
1)日本人の習慣・文化、2)弱毒型ウイルスが既に感染、3)日本人はSARS-CoV-2受容体が少ない、4)SARS-CoV-2に強い組織適合性抗原を持っている、5)BCG接種が防御になっている。

このうち1と5については私も以前述べた。今回は2について考察する。まずは、前提となるウイルスの変異について説明しよう。

ヒトを始め生き物は遺伝子を持っており、その一部に変異が起こることがある。遺伝子は生き物を形作るための設計図なので、それが変わってしまうと病気になることもある。遺伝病である。また逆に進化することもある。設計図の重要な部分でなければ何も起こらない場合もある。

ウイルスの遺伝子も変異する。しかも人などと比べると変異が起こるスピードが非常に早い。SARS-CoV-2も、中国で出現してからどんどん変異が起こっている。従ってウイルスの遺伝子を調べると、氏素性が判り「系統樹」が描ける。家系図のようなものだ。

世界各地に拡がったSARS-CoV-2の系統樹解析から、大きく分けて今3つのグループがあることが報告されている(これもクラスターと呼ぶ)。Aが中国の先祖型で、Bがアジア型、Cが欧州型となる。https://www.pnas.org/content/early/2020/04/07/2004999117
(系統樹はこちらが見やすい。https://nextstrain.org/narratives/ncov/sit-rep/ja/2020-04-03?n=4 )

A, B, C型の間の毒性の差などははっきりしていない。しかしウイルスには型の違いが生じるということはお判り頂けると思う。この観点から日本の状況を推測した論文が出た。まだ審査前の段階の論文ではあるが、興味深いので紹介したい。
https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.03.25.20043679v1?fbclid=IwAR0Ii_RZcG0fvJhajsb1xM-JynF8Hyi74fHt4Nc6YDeucYJmcAYUDS1JWMU

この論文で著者らは、今季日本でインフルエンザが例年のように猛威を振るわなかったことに着目した。そして、インフルエンザ流行が急速に収束した地域は、COVID-19も少ないことに気付いた。彼らの仮説はこうだ。「武漢でCOVID-19の感染爆発が起こる以前に、日本にはより弱毒性のSARS-CoV-2(論文ではS型と呼んでいる。これと上記のABC型分類との関係は不明)が入り込んでいて、それとわからないまま流行していた。このS型に感染した人はインフルエンザにかかりにくかった。」

ある種のウイルスに感染していると他の種類のウイルスに感染しにくくなる現象は実際知られいる。これは抗体による防御とは別のメカニズムだ。どんなウイルスでも成り立つわけではないが、SARS-CoV-2とインフルエンザウイルスの間でも同様のことが起こる可能性はある。

もしこれが正しいとすると、日本ではSARS-CoV-2に対する抗体を既に持つ人がかなりいて、中国からさらに強毒性タイプ(L型と呼ぶ)が入ってきても抵抗性があったと考えられる。つまり型が違っても同じSARS-CoV-2なので抗体が有効だったということだ。

論文中には書かれていないが、著者のひとりは、現在は帰国者がもたらしたさらに感染力の強い欧州型(G型と著者は呼ぶ)の感染拡大が起こっていると考えている(FBへの投稿)。G型の感染爆発は起こりうるが、それでも既にS型に対する抗体を持っている人が多数いれば、欧州やアメリカほどの惨事にはならないかもしれない。

以上は完全に仮説に過ぎない。まだ実証は全くされていない。抗体を持っているに違いないからもう大丈夫などとは絶対に言えない。それに持っている人がいたとしても全員ではないので、感染爆発の危険は依然ある。

しかしそれでも、感染爆発と医療崩壊の回避のために各個人が対人接触減の努力をしながら、このような可能性があるかもしれないと心の片隅で微かな希望を抱いても害にはなるまい。この仮説の検証のためにも、信頼性の高い抗体検査法を確立し広範に解析することが必要だ。


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