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J・G・バラード『太陽の帝国』感想

夏だし、ということで読めていなかった『太陽の帝国』をようやく読みました。
自叙伝的小説なのに(あるいはバラードの自叙伝的小説だからこそというべきか)バラード風味たっぷりで面白かったです。

・無邪気でいけ好かないお子さん

主人公は上海育ちのイギリス人少年。その少年の目を通してみる第二次世界大戦がなかなかおもしろい。
まず主人公がなんだかイギリス人というものを嫌っているのが興味深い。おまえ自身イギリス人だろうがと。その上、少年自身はなんだか日本びいきで『上海近郊に展開している日本兵かっけー』とか『戦闘機の隼ってイカすぜ』みたいなことを考えたりする。なんだか変な話だが、案外、こどもってそういうものかもしれないなと思わされもした。
この少年自身は、言ってしまえば『いけ好かない金持ちのお子さん』でもあり、頭の回転も速いが、その分だけ妙な空想を抱くこともある。まわりの大人はしばしば彼のことを疎ましがるが、そりゃそうだよなと思わされる緻密な描写がある。

このガキ~、とわたしが一番思わされたのは、『なんか知らないけど中国共産党ってに周りの大人をビビらせているからぼくも共産主義になったとか言っちゃおうかな』とか考えているところ(このガキ~!)。

・日本軍占領下の生活

真珠湾攻撃に呼応して、上海はあっというまに日本軍に占領される。その混乱の中、少年は両親とはぐれて……と話は進んでいく。
少年は子狡さで周囲の大人を翻弄したり、あるいは普通にぶん殴られたりしながら、日本軍占領下の収容所で生き延びていくことになる。まあ時代が時代なので陰惨な目にあうことのほうが多かったけど。本人はよく活劇的なことを思い描くが、突きつけられる現実は非常である。
いったいどこまでが作者の実際の体験だったのだろうか? これまでにバラードの作品はいくつかよんだことはあるが、今になって思えば作者の幼少期の経験がそこに色濃く反映されていたんでしょうね。
飢えと渇きなんかは『旱魃世界』や『ハロー、アメリカ』にもろに出てくるし、閉じられた世界での緊張感のある人間関係は『ハイ・ライズ』だ。

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