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「冤罪受刑ライフ!!」の編集掲載について

ほんにかえるプロジェクトでは、更生のきっかけになればという思いで始めたプリズンライターズという企画ですが、なかなかの好評で受刑者からの投稿がかなり来ています。その中に今回の井坪さんの原稿がありました。実は冤罪と主張する受刑者からの支援要請を受けることがあります。活動を始めた当初からたくさんの方から冤罪と訴える内容の手紙を読んできました。私は外国出身者であり日本の社会や制度の問題点を指摘すると、だったら中国に帰れと罵倒されますので、コメントを控えますが、一方では人間が作ったシステムはどうしても欠点が生じると思うし、その時は良くても時間が経過すると問題点が露呈してくるのも致し方がないものと思います。結論から言いますと、日本でも冤罪はありうるし、実際に冤罪と確定された事件も過去に存在しています。

 そこで冤罪はありうるという立場で話させていただきますが、ではどの事件は冤罪かというのは捜査関係者でもなければ裁判官や関係者でもないので、真実はわかりません。そしてほんにかえるプロジェクトは更生を支援する団体です。冤罪という問題に触れると政治問題に発展しやすく、本来の活動とかけ離れていく可能性があるので、PJの会報誌である「かえるのうた」でも冤罪というテーマを避けてきました。

 そのため、今回の井坪さんの投稿を見たとき、また冤罪を訴えるものかと思い、掲載を見送ろうかと思いました。そこでスタッフと協議したのですが、プリズンライターズの趣旨という話になり、受刑者の考えていることを世間に知っていただこうというのもあったことを思い出した。そこで考えが変わりました。井坪さんは本当の犯人かどうかは私たちにもわかりません。ここで反省、更生とは何かという永遠なテーマを考えたとき、反省は己の罪を知るところから始まると思います。やったのに反省していないというのはおかしいともいえます。でもやっていない人まで圧力をかけて反省させるのもおかしいと思います。そしてそのどちらであってもほんにかえるプロジェクトのスタッフとしてはこの井坪さんのような方に寄り添い、感情移入はしないが、彼が今考えていることを知ることが大事と思いました。そんな思いで彼の投稿を掲載することにしました。

 次に問題となったのは実名を掲載するかどうかという点。プリズンライターズは実名ではなく、イニシャルや会員番号を掲載して個人情報の保護と被害者感情に配慮してきました。しかし井坪さんの場合は、本人は実名掲載を強く希望しており、また実名を掲載しないと事件も特定できず、閲覧される方にも共に考えていただくのが難しいと思われるので、実名で掲載することにしました。ご了承ください。

 私も犯罪者として合計20年も施設で過ごし、最後は13年間受刑していました。元犯罪者としての立場で話しますと、捜査の段階で警察検察の思い込みで事件はこうではないかという前提で捜査を進めるのは仕方がないことと思います。しかし事実と乖離してくることもあります。人はそれぞれの立場と考えがあり、同じ行動をするはずがありません。決めつけで断罪するのは良くないと思います。また人間は昨日ご飯を何食べたのかを忘れることもしばしばなのに、数が月前や数年前の行動について時系列で、しかも分刻みで供述を求めること自体無理があるとも思います。そこで当然のように警察と検察の推測が入り、誘導尋問と警察による作文と呼ばれる手法が横行してしまいます。これはあくまでも一般論であり、井坪さんや特定の事件に限ったものではありません。

 日本の起訴率は昭和57年の57.5%から下がり、令和元年は38.2%になっています。見方にもよりますが、警察はこの人が犯人と判断して逮捕までしたが、検察側は違うと判断して起訴しなかった分は61.8%で、つまり警察が逮捕した10人のうち、6人は裁判所にゆだねるまでもなく違法ではなかったということになる。実に怖いのはこの後で、起訴後の有罪率は99.9%にも上る。これも乱暴に言えば裁判所は機能していなくて、起訴するかどうかを決める検察官が事実上のジャッジ役で、検察官が起訴と決めたら裁判所も自動的に追認しているのが現状。で求刑を決めるのも検察庁で、裁判所はその求刑に対しての8掛け判決を出すのが習慣。平たく言えば検察官がこの人が犯人と決めたら起訴、そしてこのくらいの年数の刑を決める。裁判所は自動的に2割をサービスして、判決を言い渡す。これが日本の司法制度の現状である。

                ほんにかえるプロジェクト事務局長 汪 楠

「冤罪受刑ライフ!!」はこちら
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